需要停滞・デフレ懸念から需要回復・インフレ復活へ政策対応によるグローバルな静かな変化が起きつつあると考えられる。
リーマンショック後の財政拡大の反動で、財政健全化の方向性で合意した2010年のG20が、需要低迷・デフレ懸念の原因となり、その変化がこの5年間でじわじわと感じられてきた。
金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した2016年のG20は、5年後に振り返ってみれば、需要回復・インフレ復活の起点となり、その変化が今後の5年間でじわじわと感じられるかもしれない。
しかし、その変化は短期的なものではなく中期的なもので遅々としたものとなろう。
その理由は、マーケットが感じている先行き不透明感を起因とするボラティリティーを抑制するためには、地道な政策対応の継続が必要だからだ。
中国や欧州、米国の動向は
現在はグローバルに景気がまだ底割れているわけではなく、バズーカのような政策対応は、景気の底割れを回避するためには有効であるが、その後の追加政策対応と効果の限界も意識させてしまうこともあり、マーケットのボラティリティーを逆に大きくしてしまうかもしれない。
中国の全人代は、財政拡大で景気を支えることを決定したが、成長率目標は6.5-7%となっており、バズーカ的に景気を押し上げるより、構造改革の進展を促進するための政策という位置付けだ。政策は資本逃避のリスクを拡大させないような配慮も必要になってしまっている。
ECBもマイナス金利と量的緩和策の拡大を決定したが、日銀に対するのと同様に、追加緩和余地と政策効果の限界をマーケットは意識し始めてしまっている。欧州財政危機の余波も残っており、需要を追加する財政拡大には一部の国が反対しているようだ。
米国の経済指標は堅調であるが爆発的な景気拡大は期待できない。FEDの利上げも控えており、政策対応は利上げのペースを緩やかにすることと、以前の財政の崖のような緊縮効果をかけないことが主眼だ。
日本のデフレ完全脱却には追い風か
日本も、3月末の2016年度の政府予算の国会可決後、補正予算による景気対策の実施の可能性が高まっているが、2020年度のプライマリーバランスの黒字化という目標と2017年4月の消費税率引き上げを見送らないと、マーケットは大きな変化と認識しないだろう。
4月13・14日にはワシントンでG20が再び開催され、その時に各国が政策対応を持ち寄ることになるのだろう。
各国の政策対応はバズーカではないが、政策主眼が財政再建から景気回復に移り、各国の政策が協調として合わされば中期的なトレンドを転換させるだけのインパクトはあると考えられる。
深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、財政政策の手を縛り、この20年間の日本経済の停滞の一因になっていたことを考えれば、このグローバルの動きは日本のデフレ完全脱却には追い風だ。
これまでの日本は、財政の赤字はすべからく「悪い」というミクロ・会計として考えられすぎた一方で、経済の安定的な成長のためには財政の赤字は「必要」であるというマクロで考えることを怠っていたと言える。
財政政策の力を使わず、日銀の金融緩和のみによって景気回復・デフレ完全脱却を達成するアプローチは、政策の限界が強く意識されてしまい、もはやマーケットの信任を失ってしまっているし、円安誘導との誤解も受けやすくなってしまっている。
日本は重要な決断の局面に
5月の日本でのG7とサミットで、議長国である日本が需要創出のリーダーシップ役としての責任を果たし成功することが、7月の参議院選挙での勝利のためのアピールとして、内閣にとっての最重要課題となっているとみられる。
新たに国際金融経済分析会合を開催し内外の経済・マーケット状況を精査しており、4月中の経済財政諮問会議では景気回復による税収の上振れを安定財源として認めることが討議される見通しで、報道では消費税率引き上げを見送った場合の経済効果や財政の信認の維持について非公式に検討が始まったとされる。
2017年4月の消費税率再引き上げの見送りの確率は、まだメインシナリオではないが30%程度まで上がっていると考える。
2020年度の東京オリンピックまでは需要拡大と経済再生に注力するとして、その根本である2020年度の財政プライマリーバランスの黒字化の目標を先送りをし、その方針に対する国民の信を問うため、衆議院を解散し、7月に衆参同日選挙となる確率も30%程度あると考える。
中期的なグローバルの動きの変化にデフレ完全脱却に向けて日本も政策対応でしっかり乗ることができるのか、重要な決断の局面に来ているように思われる。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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