あずきバー,売り上げ,過去最高
(画像=井村屋Webサイトより)

井村屋グループの業績が好調だ。井村屋グループが昨年11月に発表した15年9月中間決算によると、売上高が前年同期比4.0%増の179億9600万円。上半期の売上高として過去最高を記録した。

定番商品の「あずきバー」シリーズ全体の売上本数(15年4月~9月)は、前年同期比1.4%増の1億9800万本を記録した。期末の決算発表はまだだが株価は好調を維持していて、市場の期待感も高い。

老舗メーカー井村屋グループの業績が好調

あずきバーの発売は1973年。「井村屋が得意とするぜんざいを固めてアイスにできないか」との発想から商品開発をスタート。1本に約100粒のあずきが均等に入った「あずきバー」が完成し発売が始まったという(同社Webサイトより)。実に40年以上の時を経て、未だに販売本数を増やしているまさに定番中の定番だ。

またあずきバーが非常に固いのも、もはや常識だ。あずきバーは無香料、無着色にこだわり、またその原料がゆであずきと煮汁であることから、アイスクリームではなく氷の塊だといっても過言ではない。実際あずきバーはアイスクリームではなく氷菓に分類されている。

しかしなぜ、あずきバーはこれほどまでに好調なのだろうか。

古くて新しいZMOTモデル

2011年にGoogleが新たな購買行動モデルとして「ZMOT」を提唱して4年が経つ。ZMOTモデルとは、これからの消費者は「刺激を受けて→棚を見て買って→体験して」という3つのステップではなく、「刺激を受けて→情報収集して→棚を見て買って→体験して」という4つのステップで購買行動をしているとするモデルだ。

さらにこのモデルでは「買おう!」と決めるタイミングは、商品を見たり触ったりする前の情報収集段階で決まっているとする。4年前と比べれば劇的に普及したスマホの影響によって、ZMOTモデルの重要性と必然性がより高まっている。Google自身も「ZMOT: Why It Matters Now More Than Ever」などでZMOTの影響力がより高まっていることを発表している。

そもそも消費者は情報収集して何を見聞きして決めているのだろうか。その答えはZMOT時代においては商品情報ではなくコンテンツだと私たちは考えている。コンテンツとはそれ自体でユーザーにとって役に立つもの、つまり商品に誘導するための広告ではない。

消費者はコンテンツを見て商品購入を決めている?

井村屋グループはFacebookページやTwitterを使ったマーケティングに積極的である。Twitterは2012年7月に開設以来ツィートは3万を超え、フォロワーは7万人超だ。過去に様々なバイラルを生んだツィートをしており、多くのファンにコンテンツを提供してきた。

先述のあずきバーの固さもネット上ではコンテンツ(ネタ)であり、夏には消費者がつぶやくあずきバーの固さネタにRT(リツイート)している。

Google Trendsを見れば「あずきバー」がネット上でも常連のコンテンツになっていることが明らかで、季節性はあるものの年間を通じて、「あずきバー」が検索される様になってきている。もはやコンテンツ(ネタ)無き商品は商品ではないのかもしれない。

グーグルトレンド,あずきバー
(画像=Google Trendsより)

さらにコンテンツを巧みに活用しているのが、ジョンソンアンドジョンソン社の「BAND-AID キズパワーパッド」だ。バンドエイドは子供がキズを作りやすい夏場に売れる季節性が高い商品だったが、冬場の「あかぎれ対策」という提案に始まり、主婦のさまざまな悩みに対してコンテンツ配信を行っている。

その結果は「あずきバー」同様にGoogle Trendsを見れば一目瞭然で、夏場以外に冬場に検索の山を生み出し、さらに主婦の悩みに応えていくことで検索ボリューム全体を増やすことに成功し、なおかつその量を右肩あがりにしている。

グーグルトレンド,バンドエイド
(画像=Google Trendsより)

これら商品は定番商品だからZMOTで優位に立つ事ができたのではない。戦略と意志を持ってZMOTの時点で優位に立つ事ができているといえ、必然の結果としてより磐石な定番商品になっているのだ。

商品開発のやり方は今まで通りでいいのか?

通常以下のステップが商品開発の基本的なステップだが、最近各社よりこのプロセス自体への改革の声が挙がっている。商品化が決定してから発売まで1年以上のライムラグがあるため簡単ではないが、ZMOTの時代においては少なくとも商品化が決定する前からコンテンツを開発していく必要がある。

Step1 グループインタビューやアンケート
Step2 消費者の潜在ニーズの発見!
Step3 商品コンセプトへの落とし込み

スマホ片手に商品を買う消費スタイルが当たり前になっていけばいくほどに、最初に購入段階では商品の価値よりも消費者目線のコンテンツの価値の方が高い。Amazonで商品の詳細をチェックせずにレビューだけ見て買った事があるならば、まさにそれはコンテンツの価値といえる。

Step1 コンテンツの観察と開発
Step2 グループインタビューやアンケート
Step3 消費者の潜在ニーズの発見!
Step4 商品コンセプトへの落とし込み

コンテンツの観察と開発において重要なのは、その範囲を広くとることだ。消費者は商品情報とコンテンツを私たちが考えている以上に明確に線引きして区別している。

定番商品の開発するためには、商品以外のコンテンツにこそ広く目を向け、今の時代に流れるコンテンツに、昔からある商品をどう紐付けることができるか、それを考え試行錯誤し続ける必要がありそうだ。

スマホやクラウドサービスなどが普及したことで、今後はマーケティングと商品開発の垣根はもっとなくなり、よりダイナミックに試行錯誤できる様になるだろう。

高橋広嗣(たかはしひろつぐ)
フィンチジャパン代表取締役。早稲田大学大学院修了後、野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルタントとして活躍。
2006年「もうひとつの、商品開発チーム」というスローガンを掲げて、国内では数少ない事業・商品開発に特化したコンサルティング会社『フィンチジャパン』を設立。
著書に『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』がある。 昨年には新たにコンテンツマーケティング事業を立ち上げ、耳×ヘルスケアに特化した自社メディア「 耳福庵 」の運営も行っている。

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