自民党と公明党は4月末にTPP(環太平洋経済連携協定)法案の今国会での承認・成立について、断念を正式に決め、次期国会に委ねる事を明らかにした。賛否についてあれだけ国を挙げて議論して、交渉参加国との合意にようやくたどり着いたTPP法案を、なぜ与党は先送りすることとしたのか。最近のTPP法案の成立を見送るまでの経過と、理由について改めて考えてみる。
TPP法案は「継続審議」へ、国会の承認得られず。
今回、継続審議となった最大の理由は、交渉の過程についての情報公開のあり方に問題があったとされている。
野党が情報公開を強く求めていたのに対して、政府が出した資料は大半が黒塗りされた資料で、細かい内容はほとんど明らかにならなかった。野党として賛成はしにくいのは当然かもしれない。
また、その中でTPP特別委員会の西川公也委員長が「TPPの真実」という暴露本の出版を予定していることも野党の批判に火をつけた。国会では情報公開を拒否しながら、自身は暴露本を出版するという姿勢は国会議員としてあるべき姿ではないという指摘だ。
加えて、現在も続く熊本地震への対応も予断を許さない状況にあることから、与党は次期国会に議論を先送りすることとした。
甘利元大臣のスキャンダルが原因?
もう一つの隠れた原因は甘利明元経済財政・経済再生・TPP担当大臣の金銭授受問題である。甘利元大臣自身は1月に大臣を辞任した後、病気を理由に国会を欠席しており、真相の解明まではまだ道半ばだ。
他方で、東京地検特捜部が4月8日に、URと、甘利氏に現金を提供したとされる建設会社・薩摩興業の役員への強制捜査を実施。本格的な調査が行われている。
ただ、現時点では、元大臣の口利き疑惑として問題になっているスキャンダルについて、甘利元大臣側は「調査中」としているが、斡旋と断ずることができるのか、現実に金銭を受け取ったのかまだ判然としておらず、甘利元大臣が国会の場に戻るときにはこの問題についてしっかり説明を行う必要がある。
甘利元大臣のこの国会欠席がTPP法案の先送りの理由ともなっている。金銭授受問題と同様に、TPP交渉を担当したのはまぎれもなく甘利元大臣であり、当然に交渉の経緯とその結果について説明をする責任があるだろう。ただ、今国会ではスキャンダルの説明責任を果たす時間がないこと、また熊本地震も鑑みると、今はスキャンダル対応よりも復興支援を優先したいという所も本音であろう。
情報公開が不十分?「黒塗り」過多が問題か?
TPPの情報公開資料も野党の不信感をあおった。黒塗りの過多が大きな問題だったのだ。先だって民進党などの野党は、TPP法案について審議を行うにあたり最低限の情報開示が必要だとしており、甘利元TPP担当大臣とアメリカ通商代表部のフロマン代表の会談記録の公開を求めていた。
これに対して、自民党は総理・官邸向けの報告用にまとめた資料を野党に提示したが、その内容は文字がすべて黒塗りされておりタイトル名「TPPブルネイ交渉会合 平成25年9月」といったタイトルだけが上から貼り付けられている。
野党の「これでは何も判断できない」という意見ももっともだ。自民党の佐藤勉国会対策委員長は「公開しないという国と国との約束は絶対に逸脱できない。それ(黒塗りにして)でもという話があった」と説明をしているが、民進党の近藤洋介特別委員会筆頭理事は「ここまで黒いと思っていなかった」とした。公開できない黒塗りがあるとは想定していたものの、ここまですべて黒いとは思っていなかったのであろう。
米国も大統領選など不確実性増大へ
また、米国の大統領選挙についてもTPP法案が継続審議となった大きな理由の一つだ。現在予備選挙が行われている米国の次の大統領候補者達は全員がTPPについて反対をしている。
当初は賛成していた民主党のヒラリー・クリントン候補でさえも現在は反対派となっている。共和党で候補者となる可能性が高いトランプ候補も大反対で、大惨事だとまで言っている。
本来TPPを最も主導するべき立場である米国が大統領選挙後にはTPPから離脱してしまう可能性が高くなっているため、日本としても安易にTPP法案を通してしまい梯子を外されるわけにはいかないというのが政府の考え方であろう。少なくとも大統領選挙は11月、勝者が大統領就任は来年となり、大統領選の予定や就任後に予想される同行も踏まえて手続きが進むのではないだろうか。
メリットのある貿易協定が必要
その点では、今国会はもとより、場合によっては次期国会で成立させることも今後の米国の動向を考えると不安要素が高い。大統領選挙にかかる不確実性が低下した次期国会、次々期国会にて審議を行うことが望ましいであろう。
今回のTPPについては、加入国内で最もメリットを得るのは日本だと言われている。特に当初大反対があった農業については、小泉農林部会長の下で世界に攻勢をかける事が出来る潜在成長力が高い分野だと言われだしている。
日本、またアジア各国においてはTPPの成立は今後の経済成長のためには必要不可欠な物ではあるものの、その事をしっかりと経緯を含めて国民に説明をする必要がある。
また、米国に急に梯子を外される事で、ただただ経済圏の縮小を自ら選択する形になってもいけない。次期国会以降、TPP法案はどの様になっていくのか。米国大統領選挙の推移と共に注目していきたい。(木之下裕泰、金融・政治アナリスト/MBA・金融工学修士)
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