北陸新幹線未着工区間(福井県敦賀市−大阪市間)のルートを検討している与党委員会は、終着駅を新大阪とする中間報告をまとめた。敦賀−京都間は米原、小浜−京都、小浜−舞鶴−京都の3ルート、京都−大阪間は北回り、南回りの2ルートを検討する。
ルート選定では、沿線自治体が持論に固執し、旧国鉄時代の「我田引鉄」を思わせる様相を呈しているが、東京−金沢間の開通以来、北陸の関西離れが顕著になってきた。関西延伸は財源のめどが立っておらず、開業が遅れれば関西の地盤沈下に拍車をかけかねない。関西財界からは早期整備を求める声が高まっている。
終着駅は新大阪に一本化、敦賀−京都間は3ルートを検討
中間報告によると、北陸新幹線の終着駅は新大阪と、関西空港への延伸を想定した天王寺の2案が上がっていたが、新大阪に一本化する。
敦賀−京都間は、滋賀県が希望する米原ルート、JR西日本〈9021〉が提案した小浜−京都ルート、京都府が主張する小浜−舞鶴−京都ルートが入り、琵琶湖西岸を通過する湖西ルート、京都市を通過せず、京都府亀岡市から大阪市へ向かう小浜ルートは退けられた。
米原ルートは敦賀市から滋賀県の米原市へ向かい、そこで東海道新幹線に接続する。小浜−京都ルートは福井県の小浜市から京都市を目指し、東海道新幹線とは別線で新大阪へ向かう。小浜−舞鶴−京都ルートは小浜市からいったん京都府舞鶴市へ日本海側を進んだあと、京都市を目指す。
京都−大阪間は東海道新幹線とは別に大阪府箕面市付近を通過する北回りルート、京都、大阪両府と奈良県にまたがる関西文化学術研究都市を経由する南回りルートが調査の対象に入った。
北回りルートは小浜−京都ルートを推すJR西日本が検討している。南回りルートは4月の与党委員会で内閣官房参与の藤井聡京都大教授が提案した。
京都府が提案していた大阪市南部の天王寺を終着駅とするルートは退けたが、訪日外国人客の急増を踏まえ、北陸新幹線とは別に関西空港との接続について早急に調査、検討するよう国土交通省に求めた。
与党委員会は金沢−敦賀間が2022年度に開業することから、2026年度をめどに大阪まで延伸したい考え。国交省に各ルートの建設費、需要予測、経済波及効果などの試算を要求した。早ければ年内に最終ルートを選び、2017年度政府予算に調査費計上を目指している。
にわかに活気づいてきた関係府県の誘致合戦
近畿、中四国の府県、政令市で構成する関西広域連合は、最も建設費が安く、早期開業を見込める米原ルートを支持してきた。しかし、東海道新幹線の過密ダイヤに北陸新幹線の車両が入り込む余地のないことが明らかになった。
JR西日本が2015年末、新案の小浜−京都ルートを与党委員会に提示したほか、北陸の自治体、経済界が乗り換えなしに京都、大阪へ直行することを希望していることもあり、関西広域連合長の井戸敏三兵庫県知事は1月、米原ルートにこだわらない考えを示した。
関西広域連合が米原ルート支持の看板を下ろしたことで、関係府県のルート誘致合戦がにわかに活気づいてきた。滋賀県の三日月大造知事は広域連合としての米原ルート支持見直しに異論を挟まなかったが、記者会見で「(米原ルートが)財政状況や地域特性を考えると、最も合理的」と従来通りの姿勢を崩していない。
京都府の山田啓二知事は2月の与党委員会で小浜−舞鶴−京都ルートの推進を求めた。府議会もこのルート推進を求める意見書を可決している。小浜−京都ルートより遠回りになるが、京都府北部への経済波及効果を見込めるからだ。
これに対し、福井県の西川一誠知事は記者会見で「(ルートは)時間短縮効果を念頭に置く必要がある」と述べ、舞鶴経由に否定的な見方を示した。福井県は小浜市へ延伸しない米原ルートに反対してきただけに、小浜−京都ルートを支持しているとみられる。
旧国鉄時代、政治家が露骨に鉄道のルートを地元に誘導しようとし、我田引水をもじった「我田引鉄」の言葉が誕生した。こうした関係府県の論戦を聞いていると、当時に戻ったような印象さえ感じる。
財界は関西復権へ早期開業をアピール
北陸地方はもともと、東京より関西とのつながりが深かったが、東京−金沢間の開通で関西より東京が近くなった。今春の大学受験では関西への進学希望者が軒並み減少し、東京へ向かう受験生が急増している。就職希望先も関西から東京へシフトしつつある。
関西財界はこのままでは東京一極集中と関西の地盤沈下が加速しかねないとして、強い危機感を抱いている。関西、北陸の7商工会議所は4月末、会頭会合を神戸市で開き、北陸新幹線の早期関西延伸を求める共同アピールを打ち上げた。
大阪商工会議所の尾崎裕会頭は「大阪までつないでこそ北陸新幹線の意味がある」と会議で語った。ただ、関係府県の利害に配慮し、大阪までフル規格で整備することを求めたものの、議論が続く延伸ルートには触れなかった。
大阪府の松井一郎知事も財界と歩調を合わせるように早期延伸を強く訴えている。与党委員会に対しては「ルートについては国や与党に任せる」とまで言い切った。
今のところ、JR西日本が推す小浜−京都ルートが最有力とみられているが、ルート選定と同時に未決定の財源確保にも手を着けなければ、早期開業のめどが立たない。どこから財源を引っ張り出すのか、関西の地盤沈下を防ぐためにも早急に検討する必要がある。
高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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