ダメな銀行員の典型的な行動の一例として、窓口を訪れた初対面のお客様に「自分が販売したい金融商品の説明」から始めることが挙げられる。そんなやり方はお客様にとっても銀行員にとってもあまりに非効率だ。お客様は興味のない話を延々と聞かされた挙げ句、申し訳なさそうに断るケースがほとんどであろう。時間の無駄と言わざるを得ない。何でも良いから買いたいと意気揚々と窓口に訪れるお客様にはアリかも知れないが、そんな人は滅多にいるものではない。

あなたは「どんなリスク」なら許容できますか?

では、窓口を訪れた初対面のお客様に、銀行員はどのように接すれば良いのか?

私は必ず次の質問をする。「為替、株価、金利。あなたはどのリスクなら取ることができますか?」。たったこれだけの質問でお客様の金融に対する知識、考え方、経験など知りたいことはほとんど把握できる。この質問で商談は決まるといっても過言では無い。全ては最初の1分で決まるのだ。

お客様の回答次第では、私は一切のリスク商品を販売しない。さすがに「あなたは運用に向いていません」ときっぱり言うわけにもいかず、やんわりと定期預金へと誘導する。

一方で「リスクは取れない」とはっきり答えるお客様もおられる。本音としてはこういう方は「立派」だと思う。こういう方に限って、なぜリスクを取ることが出来ないのか、明確な理由をもっているからだ。資金の性格上元本割れが許されないものであったり、自分の投資に対する知識や能力では運用には不適格と自覚している人もいる。あるいは、現在の相場環境では積極的な投資は控えるべきである、と考える人もいる。

いずれにしても「リスクは取れない」と明確な意思表示をされる人に、どれほどリスク商品をお薦めしても無駄である。なかにはそういう人に対してムキになって金融商品を販売しようとするダメ銀行員もいるが、勘違いも甚だしい。「リスクは取れない」と明言するお客様は、実はリスクの何たるかをご存じであり、ダメ銀行員よりもずっと高い金融リテラシーを有していることも多いのだ。

「為替リスクなら取っても良い」と具体的に答えられる人もやはり上記のお客様と同じだ。自身のリスク許容度を理解されている人こそ、我々銀行員が最も力を入れて金融商品をお薦めすべきお客様である。お客様が許容できるリスクに合致した商品を提案すれば良いのだから、こちらとしても対応しやすい。

全ての面であなたを満足させる金融商品はこの世にない

最もやっかいなお客様はリターンしか想定していない人だ。困ったことに、そんな人に限って金融商品の販売は容易である。

リターンが高くて、リスクが低く、手数料などのコストも安い……そんな都合の良い金融商品がこの世に存在するとでも思っているのだろうか。金融商品の選択にあたっては、まずはリスクとリターン、コストといったそれぞれの要素を理解しなければならない。リターンを得るためにはリスクを取る必要があるし、場合によってはコストを負担しなければならない。運用の世界において、それは絶対に覆すことの出来ない真実だ。

それらを「きちんと理解できていない」にもかかわらず、銀行で金融商品を購入する人がいる。その人にとって、最善の商品でないにもかかわらず、それを選択する人がいる。「できるだけリスクの低いものが良い」と言いながらも、自身が許容できるリスクを理解しておらず、実のところは「リターンしか見ていない」。結果として、きわめて非合理的な選択をするのである。

このようなお客様は、銀行にとって都合の良い「判断」と「行動」に誘導されやすい。

「リターンしか見えない人」は百害あって一利なし

銀行で金融商品を購入し、運用が芳しくないからと言って銀行との関係を悪化させるのは「リターンしか見えない」お客様である。

たとえばお客様から「たくさんの分配金が欲しい」と要望されたら、銀行員はどう対応するだろうか。銀行員の多くは当然のごとく分配金の高いファンドを薦めることになるだろう。たとえそのファンドが新興国のリスクの高い債券に投資していたり、説明出来ないような複雑なデリバティブを駆使した商品であっても、こうしたリスクより「リターンを優先」してしまいがちだ。それが後々のトラブルを招くことにもなる。

だからこそ、初対面のお客様には「どんなリスクを取ることが出来ますか?」と確認しなければならない。どんなに分配金を欲してるお客様であっても、為替リスクや新興国に投資するカントリーリスクを取ることが出来ないようであれば、投資を勧めてはならない。そもそも自分がどんなリスクなら許容できるのかを認識しているお客様は驚くほど少ないのだ。

「為替、株価、金利。あなたはどのリスクなら取ることができますか?」。銀行の金融商品販売のエッセンスはこの言葉に凝縮されている。(或る銀行員)

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