2016年4月、米国の大手総合電機メーカーGEは今年で5回目となる「GEグローバル・イノベーション・バロメーター(GE GIB)」の2016年版を公表し、「イノベーションを最も創出している国」を明らかにした。
「GE GIB」は世界23カ国の企業のイノベーション戦略担当幹部に対する調査報告書だ。今回は13カ国の有識者も対象に加え、複雑でグローバル化が進展した環境においてイノベーションに対する認識がどう変化しつつあるか、自国が整備したイノベーションの枠組みをどう評価しているかを調査したという。
さらに有識者のみを対象にイノベーションの影響・価値、推進・支援責任に対する認識、将来の雇用状況に関する見解も調べ、世界規模でのイノベーションリーダーを選出した。その中で、われらが日本は何位にランキングされたのだろうか。また栄えある王者に輝いたのはいったい、どこの国だろうか。
インダストリー4.0が受ける幅広い歓迎
まずは調査結果の概略を見てみよう。GEは今回、調査結果として4つの重要事項を指摘。1つ目は、企業幹部の68%、有識者の64%がインダストリー4.0(第4次産業革命)を、肯定的に評価していることだ。また「先進的な製造技術により、産業が根本的な変化に直面する」と予測する向きが大きいという。
例えば工場にさまざまなセンサーを設置し、収集したデータを分析することで生産プロセスの最適化を図るといった、IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)を組み合わせて効率化を図るモデルも普及していきそうだ。
2つ目は、企業幹部の先進技術に対する積極的な姿勢だ。新しいモデルや技術の受け入れに前向きで、企業幹部の61%(前年比プラス8%)はビッグデータを意思決定に活用しており、77%(前年比プラス13%)がその相乗効果から財務管理や企業業績へ好影響をもたらしたと受け止めているとのこと。先進的な取り組みが経営の効率化にも貢献している様子が窺える。
企業幹部の8割以上が「イノベーションのジレンマ」に直面
3つ目は、企業幹部の抜本的なイノベーションに対する姿勢だ。同レポートによれば、回答者の90%がトップクラスのイノベーティブ企業は過去に存在しなかった市場を創出すると受け止める一方で、デジタル・ダーウィニズム(デジタル技術の進歩に伴う適者生存原理の適用)により自らが淘汰されるリスクを認めているという。
また企業幹部の81%は、テクノロジーの進化への自社の適応力を不安視しているとのことだ。
4つ目は、イノベーションの重要性に対する認識と、実践にギャップがあることだ。企業幹部の57%はより安全なアプローチを好むとともに漸進的イノベーションを追求し、中核事業を守ろうとしている。
他方で81%は起業家精神が組織の規模を問わず社内にイノベーション文化を醸成するための規範になりつつあることを認識しており、まさに「イノベーションのジレンマ」を抱える複雑な心境が現れていると言えそうだ。
チャンピオン・グループは「米日独中」の4カ国
調査の結果をそれでは、見てみよう。インダストリー4.0を牽引するイノベーション・チャンピオン国は米国(企業幹部支持率33%、有識者支持率34%)と、下馬評通りの結果と言っていいだろう。
続く第2位にはわれらが日本(同17%、同19%)となり、技術力を高く評価されていると言えそうだ。他方で、第3位は回答者によって結果が分かれた。企業幹部はドイツを、有識者は中国を選択した形となっている。ドイツと中国の差はいずれも1%で上位4カ国がチャンピオン・グループを形成し、世界のイノベーション王者の座を争っている格好だ。
第5位韓国との差は明確で当面は上位4カ国が世界のイノベーションをリードするという見方が支配的だ。
GEのジェフ・イメルトCEOも、「日本には機械もソフトウェア技術もある。制御装置やセンサー技術も世界屈指。新時代のリーダーとなる技術的な素養がある。」と語っており、素材から完成品までの開発、品質管理、工程管理、生産性向上などさまざまな分野で日本のイノベーションが世界へ普及していることを多くの人たちが認めている。
日本はブレークスルー・イノベーションよりも斬新的イノベーションを好む傾向にあるが、こうした保守的な姿勢による出遅れを迅速な市場投入により相殺し、最上位クラスのイノベーション国の地位を保っていると言えそうだ。
実際に、政治の後押しもあり、2016年4月の「未来投資に向けた官民対話」では、安倍首相が世界に先駆けたインダストリー4.0の実現、そのためのオープン・イノベーションの実践、日本が強みを持つ分野でのデータ利活用の重要性を訴えた。企業から大学・研究開発法人への投資を今後10年間で3倍に増やすという目標も同首相が表明しており、今後、どれだけ成果を出せるのかに注目が集まる。
日本の課題はイノベーションのスピード
日本はイノベーション・トレンドの導入の遅い国の1つに数えられている。例えば他社との協業によりイノベーションを加速化することに対しあまり積極的ではない。過去1年間に協業活動から生じる売上高や利益が増加した企業は世界平均が77%なのに対し日本は54%にとどまっている。また協業に伴う損益シェアに十分納得している日本企業の幹部は52%に過ぎない。
しかし、知識の量や質、意思決定の内容とスピード向上を目的とするビッグデータの活用の戦略的価値を認識している日本の企業幹部は、2014年の30%から40%へと大幅に上昇している。さらにビッグデータの分析力を高めた日本企業は2014年の13%から49%へと劇的に増加した。
「画期的・破壊的なアイデアを着想する難しさ」が自分たちの重要な課題の1つと考える日本企業が過去最多の72%に達し世界平均の60%を大きく上回るなどイノベーションに対する苦手意識を持つ日本企業の幹部は多い。その重要性に対する意識は高く今後も日本企業がさまざまな分野で世界のイノベーションを牽引できる余地は十分にあるのではないだろうか。(ZUU online 編集部)
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