中国の2015年の粗鋼生産量は約8億トン、鋼材輸出は前年比2割増で1億1240万トン。1億トン超えは初めてのことで、世界2位の日本の粗鋼生産量を上回ったことになる。
中国の大量輸出でアジア全体の鋼材価格が下落
日本の15年度の国内粗鋼生産量は前年度より4%ほど少ない1億500万トン程度にとどまる見通しだ。原因は輸出環境の悪化によるものだが、中国による大量輸出はアジア全体の鋼材価格を下げているのだ。
日本の鉄鋼大手3社の2016年3月期連結決算を見れば、神戸製鋼所の最終損益が3年ぶりの赤字に転落だし、新日鉄住金、JFEホールディングスも大幅減益となっている。
原因は、中国メーカーの過剰生産による安値攻勢の打撃をまともに受けたからだ。
海外経済の減速で需要が落ち込んでいたとしても、中国側に言わせれば、鋼材の安売りは、企業努力の結果。市場競争上、やむを得ないこととなるのだが、実態は構造改革の遅れが生んだ異常現象といえるだろう。
破たんを逃れて生き延びている「ゾンビ企業」を整理できないまま、鉄鋼業界のリストラが進まない。このことから、鋼材のたたき売り状態が続いている。
それが日本に影響、最終損益は神戸製鋼が215億円の赤字。新日鉄住金は32.1%減の1454億円、JFEが75.8%減の336億円だ。
中国の粗鋼生産量は2015年は約8億トンだが、2000年初めから見ると約8倍となっていて、世界粗鋼生産量の半分を中国が占める格好なのだ。
鋼不況の病巣は根深い問題がある
中国では、経済成長の鈍化により、鋼材が余っているので、爆安価格で爆売りを始めているのだが、その分メーカーの経営はかなり悪化しているはずだ。
ところが政府による手厚い補助金のおかげで、破たんを逃れてきたゾンビ企業の存在が、実は深刻な国内問題となり、公正な市場競争を歪めているのだ。
OECDは4月、鋼材の供給過剰問題を約30カ国代表で話し合ったが、実のある合意はできなかったようだ。
ロイター通信によれば、「中国政府が具体的な対策に着手しない限り、根本的な問題は解決はされない」と批判した上で、各国政府では、国内産業、労働者の不利益回避の措置を取らざるを得なくなったと警告したのだ。
しかし中国側は、「さらなる削減を計画している」と反論。各国の声明発表にも難色を示している。中国政府から言わせれば、経済安定化に向け構造改革を進めている最中との主張は譲れないだろうが、政府の方針がどこまで実効力を伴っているかどうかが問題だ。
白菜より安い鉄
過剰生産を続ける安価な鋼材は、国際的な紛争に発展しかねない状況だ。材料価格は5年間で半値以下となり、鉄鋼メーカーが多く集まる河北省では、「今や鉄は白菜より安い」と、よく耳にする言葉となっているという。
「つくればつくるほど赤字が膨らむ」と嘆きながらも過剰生産を招いた原因を振り返ると、2008年のリーマン・ショックを受けたことにより、政府による大規模な景気対策に行き着く。
政府からの命令で不動産市場は開発ブームとなり、それに伴い、鉄鋼需要も急増。各社は設備増強を急いだが、開発ブームが一段落すると、中小メーカーは出稼ぎ労働者を解雇し、減産した。大手国有企業は、社会不安を恐れ雇用維持を優先した。その結果、需要を無視した生産が国内では鉄鋼であふれかえった。
政府は赤字メーカーを整理し、生産抑制に努めているが、専門家は「過剰生産の解消には10年以上かかる」と長期化事態を予想している。(ZUU online 編集部)
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