長期金利,上昇,財政政策
(写真=PIXTA)

消費税率引き上げの見送りにより、財政規律の喪失による突然の長期金利の上昇への不安など、ファンダメンタルズを軽視する過度な警戒感も出てきてしまっている。かつて、2011年の東日本大震災の時、復興予算を国債でまかなえば、財政規律が喪失し、国債市場が暴落するという意見が多かったのと似ている。

結果として、復興増税が必要であるとして、増税策の議論が足かせとなり、復興予算の決定と執行は遅れてしまった。

金利上昇などの不安も要因から払拭できる

このような得体の知れない不安は、国債で財政支出をファイナンスすると、どれくらい金利が上昇するのか、計量的な分析に基づかないことが原因であると考えられる。見込まれる金利上昇が、財政支出の効果のコストとして見合うものであれば、必要な財政政策をためらうべきではない。

日本の長期金利(国債10年金利)は、マクロのファンダメンタルズ要因と金融政策要因で説明できることを解説してきた。

ファンダメンタルズ要因としては、企業貯蓄率と財政収支の合計で貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)と、失業率に先行する指標として知られ内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。

金融政策要因としては、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。

これらに、グローバルな金利水準の代理変数としての米国債10年金利を加えれば、日本の長期金利がうまく推計できることが分かっている(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。

更に、マイナス金利政策の時の長期金利へのインパクトがプラスの時の何倍(1であれば同じ強さ、5であれば5倍のインパクトの強さを表す)かを表す調整ファクターを政策金利にかけることで、プラス金利下のモデルをマイナス金利下の推計に応用できる。

長期金利 = 0.189+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.73 (政策金利X調整ファクター)+ 0.89 LN (米国長期金利)- 0.065 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)

過度な金利上昇懸念は財政政策を鈍らせる

長期金利の水準はマクロ・ファンダメンタルズでしっかり説明でき、格付けの引き下げや財政規律の喪失に対する不安などの影響はほとんど確認できない。ネットの資金需要の係数は0.065となっており、財政支出の拡大を国債でファイナンスし、ネットの資金需要が5兆円程度(GDP対比1%程度)増加すると、長期金利は0.065%上昇することが見込まれる。

10兆円(GDP対比2%)でも0.13%ということになる。現在マイナスである長期金利(-0.1%程度)が若干のプラスに戻る程度であろう。

確かに、アベノミクスを再稼動させるための財政支出を国債でまかなえば、長期金利が上がりかねないのは事実である。しかし、計量的にその上昇は大きくなく、デフレ完全脱却期待が復活し、期待インフレ率が上昇すれば、実質長期金利は逆に低下するかもしれない。過度に長期金利上昇を恐れ、アベノミクスを再稼動させるために必要な財政政策の手を縛ることはよくない。

日本の将来のためによい、言い換えれば日本の生産性の向上や少子化対策、防災対策、地方創生、そして生活苦と貧困の世代連鎖を防ぐためになるよい財政プロジェクトがあるのであれば、参議院選挙で国民に信を問い、国債を発行してでも大胆に推し進める必要があろう。

消費税率引き上げを含む財政緊縮などによりネットの資金需要が消滅し、マネーが循環・拡大できない2000年代と同じ状況に逆戻りし(アベノミクス1.0の終焉)、デフレ完全脱却に向かうアベノミクスの推進力がなくなってしまっていることを考えると、ネットの資金需要を復活させ、アベノミクスを再稼動(アベノミクス2.0の始動)させるためにも有効であろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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