中国は6月に入学試験を行う。7月と8月は夏休み、9月から新学年である。

6月になると市内バスに「このバスは○△試験会場を通過します」という表示が増え、試験シーズン到来を知らせてくれる。

今年の「普通高等学校招生入学考試」略称・高考(大学共通テスト)は例年通り6月7~8日の2日行われた。

結果発表は6月25日。マスコミは相変わらず熱心に報道していたが、かつてのお祭り騒ぎではなくなってきた。

40年の歴史

現制度は文化大革命後の1977年から継続している。その1977年の受験者は570万人、大学入学者27万人、合格率はわずか5%の狭き門だった。

その後84年には受験者は164万人と最低を記録する。

ただし入学者数は48万人とそれまでの最高だった。89年は受験者266万人、入学者60万人で、前年よりそれぞれ6万人と7万人減少した。この年天安門事件のあおりで北京大学は入試を中止した。

97年には受験者278万人、入学者100万人と初めて3桁の合格者を出した。2年後の99年は受験者288万人、入学者160万人、合格率56%と初めて50%を超える。

ここからの10年は毎年爆発的に増加し、2008年には受験者1050万人、入学者599万人、合格率57%を記録した。以降受験者数は900万人台で安定し、入学者のみ増えていく。

昨15年のデータでは受験者942万人、入学者数700万人、合格率は74.3%だった。

新聞には、社会における「高考熱」は相変わらずだが、これは降温するのが道理である、という記事が掲載されている。大学の間口は広くなり、たしかに落ち着いてきた。

試験の実施要項

今年の受験者数は940万人と昨年とほぼ変わらない。

試験は「合格考試」と「等級考試」に分かれるが、大学側は選抜の根拠として主に「合格考試」を使う。

試験科目は、語文、数学、外語、文科総合(思想政治、歴史、地理)理科総合(物理、化学、生物)技術、芸術、体育と健康がある。志望校、志望学部の要求する科目を受験する。一般文科系なら、語文150点、数学150点、外語150点、文科総合3科目×70点で計210点の660点満点だ。

特徴的なのは出身地枠を設けており、同じ大学でも出身地によって最低合格ラインが異なる点だ。

試験の実行主体は各省の考試院である。今年は26省が統一問題を採用、北京、上海、天津浙江省、江蘇省など5省市は独自問題で臨む。また今年から、カンニングに対し刑事罰が適用される。

高考のドキュメント

山東省・青島市を例にとり6月6~9日までをドキュメントで再現してみよう。

6月6日午前10時--。
青島66中では、500名の受験生を小礼堂に集め、最後の注意を与えていた。次いで生徒たちは、校門まで数十メートル敷き詰められたレッドカーペットを歩き、32人の教師たちと握手しながら、母校を後にした。500人の中には新疆からの留学生たち106人も混じっていた。彼らも教師たちと青島市の温情に感謝をささげ、健闘を誓った。

同午後4時~5時--。
全市30の試験会場を受験生と家族に開放する、前日見分が行われた。例年父母帯同で訪れる受験生が多い。しかし今年は単独で訪れる受験生が増えていた。会場近くのホテルに投宿し、今日は1人で集中して過ごす、という受験生もいた。

6月7日午前7時--。
青島15中試験会場前では、6年連続で当地を担当するS警官が、行きかう車を整理しつつ、巧みな警備を行っていた。彼は優れた「良眼」で定評の名物男で、会場周辺の雰囲気を和らげることにも長けている。今年も15中会場の試験は平穏のうちに始まった。

同午前9時30分--。
語文の試験開始。60分が作文に充てられる。配点が高く毎年最も話題を提供している。テーマと指示に従い、800字以上の文章にまとめる。これには独自の思弁を要求される。今年は旅行に関する考察だったが、大変扱いにくく「史上最厳」と評された。

青島市の志願者は3万8203人、午前の語文では856人、午後の数学では931人の欠席者が出た。カンニング報告は1件もない。

6月8日午前8時--。
15中会場では、身分証、受験票ともに忘れ、会場入りできない受験生のために、名物警官Sが、受験生宅と会場を白バイで往復する姿が目撃された。

同午後2時45分--。
英語のヒアリング試験開始のころ、15中会場付近では、父母たちが人垣をつくり道路封鎖を開始した。また彼らはクラクション禁止令を無視した大型SUV車を取り囲む挙にも出た。しかし父母たちはそれ以上過激な行動は取らなかった。

同午後5時--。
どうやら滞りなく今年の「高考」は終了した。カンニングで1人が取調べ中と発表された。

若者にはチャンスのある中国

大学入試はお祭り騒ぎでこそなくなったが、日本に比べるとまだ相当熱っぽい。高校生の数はここ5年ほとんど横ばい。もはや高望みしなければ大学全入時代となった。某アンケートによると、学歴は大切な価値と答えた人は50%少々となり、価値観も多様化している。

また上で例示した山東省では、大学、大学院、高専の2015年就職率は93%とかなりよい。今のところ進学も就職も不思議と均衡が取れていて、若い世代はクラッシュしていない。このところの経済の停滞も、社会の多様化進展、起業の推進など、この世代にはむしろプラスに働く可能性もある。

これも経済指標だけでは分からない、秘められた中国パワーの1つかもしれない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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