国内広告代理店最大手の電通は9月23日、デジタル広告サービスで、未掲載なのにクライアントに料金を架空請求したり、掲載期間が契約通りでなかったり、実績リポートに虚偽の記載をしたりするなどの不正な取引があったと発表した。

これまで明らかになった不正取引は633件(クライアント111社)、関係する料金請求額は総額約2億3000万円。このうち広告が掲載されていないのに料金を請求していた架空請求が14件、320万円分あったという。不正な請求を行ったクライアントには電通最大の広告主であるトヨタ自動車なども含まれており、クライアント側の指摘で今回の不正が明るみに出たようだ。

電通の言い分

電通によれば、これらは同社やグループ会社など複数の現場担当者の故意やミスなど個人ベースで行われたという。上司は関与していないが、クライアントに指摘されるまで不正を見破ることができなかったそうだ。現場担当者からは「上司に怒られるのがいやだ」、「上司からいい評価を得たかった」などの声もあるという。

成長分野のデジタル広告は目標設定が高い一方、社内に仕事の質的な変化への認識が足りず、担当する人員の「質・量が十分ではない」状況だったとも報じられている。専門性が高いため、管理監督の目が届きにくいという面もあったとのことだ。

記者会見では、「デジタル広告分野はミスが起こりやすい領域。管理体制の不十分さが問題を引き起こした一因であり、現場へのプレッシャー含めて、十分な配慮をしなければならなかった」、「人為的なミスを含めて特定の個人というよりも業務を統括するマネジメントの問題」と述べられている。

トヨタは電通最大の最も重要なクライアントであり、そのためその取引には細心の注意が払われていたはずだ。そのトヨタからの指摘で不正が発覚したことに広告業界はもとより、クライアント筋も大きな衝撃を受けている。

逆に、出稿レポートを詳細に分析できるトヨタだからこそ不正を見破れたともいえるのは皮肉な話だ。

デジタル広告はごまかしやすい? 予算達成のためのプレッシャー?

不正請求が行われたのは主に、運用型デジタル広告と呼ばれる新しい分野だ。運用型デジタル広告は、期間とスペースを指定してサイトに載せる従来型の「バナー広告」とは異なり、ポータルサイトや検索エンジン、SNS、アドネットワークなどに、性別、年齢、興味・関心を絞ったオーディエンスの特性によって出稿を運用するものだ。日々の運用結果によって出稿金額が変動する。

マス媒体とは異なり運用型デジタル広告の実績のレポートは詳細で複雑なものになるため、ミスが起こりやすい。

ミスが起こりやすいということは、不正しやすいということでもある。レポートを読んで理解するためには専門知識が必要であり、そのような手間をかけられないクライアントも多い。クライアント側でチェックされない前提で不正が行われたとすれば、非常に悪質といえる。

いずれの業界でもそうだが、広告業界も大手・中小を問わず予算には大変シビアだ。当期の予算達成が難しそうな場合は、何とか予算を積んで目標を達成しようとする。そのようなプレッシャーがあれば、現場で数字を操作することは可能性としてある。現場担当者の「上司に怒られるのがいやだ」、「上司からいい評価を得たかった」などの声から、そのようなことも推察できる。

クローズド・ビリングの問題

電通は伝統的にクローズド・ビリング、つまり原価を開示しない取引を行っているのは業界内ではよく知られている。

メディアや制作会社に幾ら払ったかは明らかにせず、手数料を含んだグロスの金額をクライアントに請求する。この取引形態では、クライアントは請求金額が適正かどうかを判断する材料がない。そのため広告代理店への信頼がよほど高いか、その広告代理店と取引せざるを得ない事情がなければ成り立たない。

日本の広告市場の4分の1ほどを占める最大手の電通だからこそできる取引方法だ。業界全体で同じ取引方法が取られていたが、他の大手広告代理店では原価を開示するオープン・ビリングも行うようになってきた。これによって取引の透明性を高め、報酬が正当な額であることをクライアントに示すことができる。

これは電通に対抗する上で有利であり、また外資系クライアントは基本的にはオープン・ビリングを求めるので、オープン・ビリングに対応できない(しない?)電通には不利に働く。

しかし広告業界で支配的なパワーを持つ電通にだけ許されるケースもある。今回のデジタルメディア請求がクローズドであったかオープンであったかは不明だが、このような不透明さが不正の温床になっていると言われても仕方がないだろう。

約2億3000万円の不正請求額は、電通の年間売上高約2兆4000億円からみれば誤差の範囲だ。だがその微差のために、電通はもとより広告業界全体への不信感はとてつもなく大きなものになってしまった。(ZUU online 編集部)

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