上海にある米国系食品会社「上海福喜食品」が、消費期限切れ食肉を始めとする品質問題で厳しく追及されたのは2年前の2014年7月だ。食材供給先としてファミリーマート(ユニー・ファリーマートホールディングス) <8028> 、吉野家 <9861> 、日本マクドナルド <2702> 、ケンタッキー、ピザハット、スターバックスなど多くの名が挙がったため、覚えている日本人もおられるだろう。

発覚のきっかけが、上海のテレビ局「東方衛視」の潜入取材という言わば“官製”だったこと、伝えられた映像内容が衝撃的だったこと、など印象的な事件だった。国慶節期間中、この件を“巨額罰金で終点ではない”とする総括記事が掲載された。

罰金1698万4000元

上海食品医薬品監督管理局は、「上海福喜食品有限公司」を通じ、警告、違法生産食品の没収、違法所得の没収、罰金1698万4000元など食品生産許可に基く行政処罰を行った(具体的には下級の嘉定区市場監督管理局が行った)。なおこの決定前にすでに会社幹部10人が刑事罰を受けている。

さらに記事は、ここ数年来、食品安全に関し、法に準拠しない軽い処分や地方によっては罰則が執行されないなどの問題がまん延し、少なくない食品企業がその恩恵に浴してきたことを指摘。この巨大な公共食品安全事件の処理は各方面に影響を与えるだろうと続けている。つまり一罰百戒の効果を狙った政治的案件であることを隠していない。

落ちた肉を機械に戻す映像は「陰謀」によるもの?

外資系食品工場では、厳格な衛生・品質管理が行われている。「福喜」の工場視察をした食品業界の日本人は、管理状況に全く問題はない、と証言した。筆者も10カ所以上の食品工場(主に日系)を視察しているが、みな同様に行き届いているる。

見学者は持ち物を管理され、ケータイやカメラなどを持ち込むことは絶対にできない。爪が長ければ処理を要求される。手を消毒し、白衣に帽子、長靴をまといエアーシャワーを通過して、時間をかけてやっと中へ入ることができる。

東方衛視の映像で話題になった、肉を素手で扱ったり、落ちたものを機械へ入れたりといったの衝撃シーンは何だったか。大方の食品業界人は、あれは別の場所で作られた映像と認識しているようだ。理由は2つある。

1 外資系企業に打撃を与えるが目的。この工場のように340人という従業員数なら雇用にも影響少なく、適当なサイズだった。

2 食品を統括する幹部党員が、派閥争い巻き込まれて起こった。つまり政争である。

中国現地では発覚当初からこういった観測が取りざたされていた。報道も真相究明よりも先に責任追及ばかりで、食品安全報道に集中していた日本の扱いとは好対照だった。

いつもの総括に終わる

今回の総括では、もちろん陰謀説はおくびにも出していない。問題はマクドナルドなど外資系ファーストフードだけではない、本土の外食業界全体にあると強調している。そして食品安全に対する検査精度の向上、検査範囲の拡大、責任追及範囲の拡大を行う。

実際に刑事責任を追及されたのは幹部社員のみではなく、監督管理当局の中からも職務怠慢による失職者を出した。さらにもし東方衛視の記者が2カ月にわたる潜入取材を試みなかったら、いまだに危険な食品であふれていたはずだと同業者を賛美している。

そして総括は、巨額罰金は終点ではない、当局の内部管理強化、責任者の追及など課題は今も残っていると型どおりに結ばれている。結局本件の本質とは何だったのだろうか。当事者以外には闇の中である。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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