中国の保険商品は、日本に比べると貯蓄商品の意味合いがより強い。それでもこのところ保険金支払いに関する“紛糾”が大幅に増えているという。2008年に121件だったトラブルの件数は、10年には1313件、12年には3052件に増えた。さらに13年は1万3887件、14年5万4858件と急増した。15年は4万1831件で、今年も高水準である。新聞記事から実情を見てみよう。
アンケート機関の総括
「保険契約を勧めるときは1万の理由があり、保険金不払いにも同じように1万の理由がある」−−。
商業保険に対するネットアンケート調査を行った有力調査機関の総括である。中国保険業界の発展は急速で、ここ3年保険料収入は急増している。
しかし業界の在り方、発展方向では問題噴出である。保険代理人の数が激増しているほどには、サービスレベルは上がっていない。それどか保険会社が支払いを拒み、裁判になるケースが続発している。商業保険会社の本質は利益追求であるが、契約者視点との“双眼”を忘れてはならない。消費者は契約には慎重になるべきだ。裁判になれば、力まかせの権益争いになってしまうと警告している。
不払いの実例
昨年4月、N氏は永安財産保険有限公司と自動車損害保険契約を結んだ。免責のない車両保険で保険金額は6万7900元(約105万円)だった。
同年10月31日19時10分、N氏の友人E氏がN氏の車を運転中、橋桁に衝突する自損事故を起こし、車は大きく損壊した。現場検証にあたった公安局交通警察支隊は、すべての責任はE氏にあると認定した。しかし保険に免責事項はない。N氏は警察と同時に保険会社に事故通報している。
車両の修理には3万9000元かかった。N氏には思いもよらない高額だった。しかし保険会社は保険金支払いを拒絶、こちらも思いもよらない事態だった。保険会社の主張は、事故による車の価値棄損は大きく、現在の車両価値は3万3000元に過ぎない。それを超える金額を払う必要はないというものだった。中国ではこうした理屈をひねり出す社員を「優秀」と称する。N氏は裁判を起こした。
2011年9月、H女史は太平洋人寿保険有限公司と“重大疾病保険”を契約した。保険金は6万元、期間は終身である。2012年7月、H女史は突然発症し入院した。診断は高血圧に起因する脳出血だった。入院期間は17日間。もちろん彼女は保険金を請求した。
ところが保険会社はこれを拒絶する。理由は契約締結前の2011年4月29日、H女史は心臓疾患で通院している。その告知義務をはたしておらず保険約款に違反している、というものだった。彼女はやはり裁判に訴えた。
ブラック業界へ堕ちる?
2つの実例とも保険会社側は敗訴、契約通り保険金は支払われた。提訴した側の勝訴率は高い。しかしこの程度の事例でいちいち裁判をしているとは、やはりどうかしている。記事は、保険会社には支払い拒否の“潜規則(裏の規則)”が存在しているとし、主要な3つの手段を挙げている。
1 契約者の告知義務違反を強調する。
2 「観察期」の拡大解釈で免責を主張する。
3 事故責任の負担率で事例を紛糾させる。
そしてそれぞれの対策を解説している。最後に新聞社の開設した保険ホットラインの番号を紹介して記事は終わっている。地方有力紙がここまでキャンペーンを張るとは、よほどのことである。保険業界は急拡大とともに、中国的優秀社員の活躍によりブラック業界に堕ちつつある。中国とはどこを向いても戦場のようだ。気弱な性格のまま生き抜いていくのは困難である。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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