英国人材開発協会(CIPD)が「大卒者の増加が英経済にマイナス影響を与える」という警告を発し、政府に大学進学の促進活動を打ちきるよう要請した。
かつては高収入職へのパスポートだった大学進学が「当たり前」になってしまった英国では、その効力が急激に薄れつつあり、大卒者の5割は「大学進学を後悔している」ことが、英大手保険会社、Avivaの調査からも明らかになっている。
簡単に大卒者になれる環境が裏目に?毎月手元に残るのはわずか2万円
他国に比べて英国での大学進学は経済的な負担が軽い。1998年以降労働党によって導入された学費が年々上昇傾向にあるものの、余程裕福な両親がいない限り、ほぼ確実に政府から学費が貸しだされる。いいかえればだれでも簡単に大卒者になれる環境だ。
一般的には年間所得が17495ポンド(約222万円/2016年10月現在)を上回るまでは一切返済する義務がなく、返済額も所得に合わせて毎月4ポンド(約506円)からと非常に低い。さらには30年間低所得にとどまった場合、返済義務が無効になる。つまり一定の所得を得られないのであれば、政府がそっくり負債をかぶってくれるということだ。
「高所得職に大学卒業資格は必須」として長年大学進学が促進されてきたが、それゆえに大卒者が増えすぎ、「進学すれば高所得が約束されている=楽にローンを返済できる」の図式が崩壊し始めている。
調査の対象となった31万人中49%が「高卒でも現在の職業につけた」と大学進学に価値を見出しておらず、37%が「学資ローンを組んだこと自体を悔やんでいる」と回答している。住宅費や光熱費、食費など毎月の生活に必要な出費を差し引いた後、手元に残るのは平均175ポンド(約2万円)というミレニアル世代の統計もでている。
低所得、あるいは無職にとどまる大卒者が急増しているという現実は、政府が貸しだしたローンの回収が危機にさらされていることを指す。昨年(2014年から2015年)の学資ローンの総額は106億ポンド(約1兆3435億円)。そのうち5割は将来的に返済されないと見積もられている。年々貸出総額が増しているため、所得環境が劇的に改善されない限り未回収の金額がさらに膨らむ可能性が高い。
最低賃金のバイトを掛け持ちしている大卒者もけっして少なくはない。逆に高卒でも手に職をつけた者は中間所得、あるいは高所得を稼ぎだしている。結局のところ生活水準を決定づけるのは、資格ではなく学習内容の充実度によるのではないだろうか。英国で大卒者が職にあぶれているという現状は、せっかく大学に進学しても将来的に価値のあることを学んでいない生徒が増えているのかも知れない。
いずれにせよ英政府が打ちだしてきた「学歴社会」の時代が、徐々に終わりを告げようとしているようだ。(ZUU online 編集部)
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