プログラミング,教育,小学生
(写真=PIXTA)

政府の新経済成長戦略にて、2020年度開始を目途にした小学校におけるプログラミング教育の必須化が検討されている。プログラマーになる、IT業界に進むという希望の有無にかかわらず、プログラミングは英語や会計とともに、将来のビジネスパーソンの必須科目とする声も大きくなりつつある。

一方で、小学生へのプログラミング教育を反対する意見もある。はたして初等教育の段階では、どのような教育をするのがよいのだろうか。

保護者はおおむね肯定的な意見だが……

KADOKAWAアスキー・メディアワークスが2016年8月から9月に行ったアンケートでは、女子小学生の保護者の68%が「小学校でのプログラミング教育に賛成」と回答している。

このアンケートが集計された媒体として女の子向けゲーム情報誌が使われているため、女子小学生の保護者という特定されたセグメントにはなっているが、回答した保護者の過半数が賛成を投じている点に注目したい。

もちろん反対意見もあり、このアンケートでは29%が「反対」としている。反対理由で最も多いのは「プログラミングよりも学習するべき科目があるから」となっているが、実はこれは初等教育に新しくカリキュラムが追加される際には、毎回、しかも必ず言われることである。

英語よりもまず正しい日本語(国語)を、性教育よりも保健体育を、金融教育よりも算数を…という具合である。しかしこれはもっともな意見であり、授業時間が限られ、なによりも教員自身のスキルが必要となるカリキュラムを優先させるくらいなら、本来の授業を充実させるべきである…という主張には一理ある。

教育用プログラミング言語「Scratch」

プログラミング教育にどの言語を使うのかという前提として、教育用かつ初心者用プログラム言語として、「Scratch」(スクラッチ)という開発環境を候補として挙げられる。

Scratchは正しいプログラム構文を分かりやすく視覚的に構築でき、プログラミングで何ができるのか、どのように組み立てていくのかを体験しながら学ぶ事を目的としている。実際に政府の「日本経済再生本部」の取り組みの中で、Scratchを使った初等プログラミング教育が提唱されている。

また米国の小学校レベルにおいては、既にScratchを使ったプログラミング教育が実際に始まっている。Scratchは実際に何かの産業に使われているわけではなく、従ってこれを習得したからといって将来的にプログラマーとして就職に役立つ訳ではない。Scratchはあくまでプログラミングの方法を学ぶというものに過ぎないが、プログラミングを通じて論理的な考え方や物事の組み立て方、それを表現していくための方法や、必要であれば周りの人と協力して物事を前に進めていくという概念を分わかりやすい形で教育できる。

その意味では、プログラミングの初等教育にScratchを使うのは最適解と言える。先述のアンケートに賛成と答えた保護者のうち34%がプログラミング学習を通じて「論理的思考が身に付く」事を期待している。Scratchが使われる目的と保護者の思惑は合致している。

ITリテラシー教育も充実させる必要性

将来的にIT産業従事者が不足するという現実的な問題は常に指摘されている。文部科学省をはじめとする政府の成長戦略としてプログラミング教育を経てIT産業従事者を増やしていこうという考え方には、特に異を唱える余地はない。

しかし、IT産業に従事しない場合でも、ITの正しい使い方(ITリテラシー)を教育していく重要性も存在する。未成年者の不適切なSNSの使用による新しい「いじめ」の問題や、反社会的な内容の投稿による「炎上」など、しばしばITのネガティブな部分に児童は(時には児童でなくても)直面する。

総務省の行った「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(2014年)では、10代から20代の63.2%がSNSをはじめとするITに関するリテラシー教育を受けた経験が無いと回答している。

ITリテラシー教育には「ネット上でやってはいけないこと」などの道徳教育も含まれるが、これが無い状態でプログラミング教育だけが充実していけば、極論にはなるがサイバー犯罪に手を染めても構わないと考える人間を育てる危険性すらある。

IT戦略コンサルタントとしても、「ITに関する教育は、ソフトウェアの使い方などはパソコン教室や独学で学んだが、倫理を含むリテラシー教育はなかった(ので苦労した)」という声を聞くことがあり、正しい内容を均一に身に付ける事の難しさを実感している。

専門的なものと普遍的なもののバランスが必要

初等教育に対しては、専門的な知識の習得よりも、まずは普遍的な知識の習得を求められている。小学校時代に得た知識と経験は驚くほど良く定着し、その後の人生に大きく影響する。

プログラミング教育を通じた論理的思考の習得も必要だが、同様にそれを支える倫理教育の部分、つまりITリテラシー教育と論理的思考のバランスの取れたカリキュラムが必要なのではないだろうか。(信濃兼好、メガリスITアライアンス ITコンサルタント)

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