「終活」という言葉はすっかり定着した感がある。ここで必ず行われるのは、自分の「資産」の整理と「遺言書」の作成だ。
遺言書の作成方法には、主に自筆証書、公正証書、秘密証書があるが、比較的簡単で費用がかからない「自筆証書遺言」がお勧めだ。ただ作成の際に十分気を付けないと、かえってトラブルの元になってしまう。
「公正証書遺言」は公証役場で公証人の立ち会う
「自筆証書遺言」とは、誰にも相談することなく、またその内容を知られることなく、自分だけで作成できる「遺言書」である。ペンと紙、封筒があればいつでもどこでも、手軽に書くことができ、費用もかからない。
一方、「公正証書遺言」は、公証役場で公証人の立ち会いの下、作成してもらう必要があり、当然費用がかかる。特に遺言の内容について、公証役場に行く前に事前に公証人と何回かやり取りを行う必要がある。公証人の下で作成された「公正証書遺言」は、法律的に問題がないため、「相続トラブル」を起こすこともない。費用は遺言内容によって異なるが、専門家への報酬や公証役場への手数料を含めて、15~20万円程度かかる。
これに比べて「自筆証書遺言」は、ほとんど費用がかからない。それでは迷うことなく「自筆証書遺言」にすればいいのではと思いがちだが、民法で形式がきちんと決められており、そのうちの一つでも不備があった時には、遺言書そのものが「無効」となってしまう。
「自筆証書遺言」の主な要件は、以下の5つである。
(1) すべて手書きで書く
全文を遺言者が手書きで書かなければならない。ワープロや点字、代筆は認められない。
(2)日付は年月日まで正確に書く
日付も自分で書かなければならないが、「平成28年12月吉日」というように、特定できない日付は無効となる。複数の「遺言書」が出てきた場合、最も新しい方が有効となるためである。
(3) 署名・押印する
遺言書の最後に、必ず署名・押印をしなければならない。氏名は、通称やペンネーム、芸名でも本人が特定できれば有効とされているが、できれば戸籍上の氏名を正確に記載したほうが良い。押印する印鑑は、必ずしも実印である必要はなく、認印でも構わない。
(4)訂正は決められた方法で行う
変造を防ぐために、訂正箇所には必ず印鑑を押し、欄外に「○行目の○○を削除し、○○と訂正」などと記載した上で、その付記した箇所にも押印する。
(5) 封筒に入れ、封印する。
完成した遺言書を封筒に入れ、封じ目に押印する。これは、特に民法で定められていないが、変造防止のためにやっていた方が望ましい。
「自筆証書遺言」で多いトラブルは?
「自筆証書遺言」に関する主なトラブルは、「形式の不備」「相続財産のもれ」「遺言書が古い」の3つだ。
まず「形式の不備」は、前述したように、民法で要件、形式が規定されていて、その中の一つでも不備があると、「無効」になってしまう。特に、専門家のアドバイスを受けず、我流で作成してしまうと、この可能性が高い。
例えば、一字でも手書きではない、署名はしたが押印を忘れた、規定どおりの訂正をしていない、などが代表的な不備である。
次に「相続財産のもれ」だが、遺言書では、「○○を△△に相続させる」などと、相続財産の処分を細かく記載することになるが、いくつか相続財産を失念する例も多い。特に、不動産や預貯金などの場合、トラブルに発展することも少なくない。
相続財産の記入漏れを見越して、「以上を除く残余の遺産は全て妻○○に相続させる」などの文言を入れておくなどの措置が必要である。
そして「遺言書が古い」だが、5年、10年経つと、相続財産の状況も変わってくる。また、相続人の状況も変わってくる可能性もある。例えば、遺言書に記載している相続人が遺言者よりも先に亡くなった、遺言者に新たに子どもが生まれて相続人が増えた、などである。
「自筆証書遺言」の場合、できれば1年ごとに記載した内容を見直し、書き換えるのが望ましい。
まず財産目録を作ること
「自筆証書遺言」の作成で、まず注意すべきこととしては、「財産目録」をきちんと作ることである。「自筆証書遺言」でトラブルが起きるか否かは、この点に負うところが大きい。不動産については、「固定資産税」の支払通知書、預貯金については通帳を基にリストアップすれば、漏れが少ないはずだ。
相続人については、遺言書作成時点で漏れることは考えにくいが、念のため「戸籍謄本」を出生から今までの分を全て取り寄せることをお勧めする。実際に、相続が開始されれば、被相続人の「戸籍謄本」が必要になってくるので、一石二鳥である。
また自分で原案を作った後に、できれば専門家に見せて、内容や形式に不備がないかなどのアドバイスを受ける方が良い。
他人に内容を見られることなく、しかも安価で手軽に作成できるため、「公正証書遺言」よりも作成のハードルは低い。しかし逆に慎重に作成しないとせっかく作った遺言書が、トラブルを引き起こす元となってしまう。「相続」が「争族」になっては元も子もない。(井上通夫、行政書士)
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