北陸新幹線,イヌワシ,環境保護,自然破壊,地方活性化
(写真=PIXTA)

北陸新幹線の関西延伸ルートに事実上決まった小浜-京都ルートが、絶滅危惧種のイヌワシが営巣する京都府の京都丹波高原国定公園を通過する可能性があることが、明らかになった。イヌワシは1年中、同じ地域に暮らして繁殖するが、長期間の建設工事があると、繁殖をやめて営巣地を放棄することも考えられるという。

環境保護団体の中には新幹線の国定公園通過を不安視する声も上がっており、正式にルートが決まれば自然保護の観点から議論がわき上がりそうだ。

小浜-京都ルートで近く正式決定の見通し

北陸新幹線の関西延伸ルートは、京都市を経由して大阪市の新大阪駅を終点とすることが決まっている。与党検討委員会では小浜-京都、米原、舞鶴の3ルートが対象となり、国土交通省が費用対効果や建設費、建設期間、移動時間、料金などを調査してきた。

このうち、福井県小浜市から京都府舞鶴市を経由して京都、大阪両市へ向かう舞鶴ルートは、京都府や舞鶴市などが推奨してきたが、国交省の試算で投資に見合う効果がないとされ、脱落した。

福井県敦賀市から滋賀県米原市へ向かい、東海道新幹線に接続する米原ルートは、滋賀県が強く推し、国交省の試算でも最も工期が短く、費用対効果が最も大きい点が評価された。しかし、東海道新幹線を運行するJR東海 <9022> は、過密ダイヤを理由に乗り入れ困難の姿勢を崩さなかった。

小浜市から京都市へ向かい、さらに大阪市を目指す小浜-京都ルートは、建設期間や費用対効果が米原ルートに劣るが、大阪市へ最も早く着くことができる。京都-大阪間も独自のルートを走るため、東海道新幹線の過密ダイヤの影響も受けない。北陸新幹線を運行するJR西日本 <9021> のほか、福井、石川、富山の北陸3県知事が支持している。

こうした点を考慮し、検討委員会は小浜-京都ルートで大筋合意した。年内にも正式決定したい意向だ。ところが、このルートだと京都市へ向かう途中で京都丹波高原国定公園内を通過する可能性が出てきた。

イヌワシ営巣地のほか、希少植物の群生地も

inuwasihi
(表=筆者)

京都丹波高原国定公園は京都府の京都、南丹、綾部3市と京丹波町にまたがる約6万9000ヘクタール。南丹市の由良川源流域にはアシウスギやブナの芦生原生林が西日本屈指の規模で残るほか、希少な湿地植物の群生地やイヌワシの営巣地もある。このため、3月に全国57カ所目の国定公園に指定された。

京都の文化や生活を歴史的に支えてきた地域でもあり、食料や木材の供給基地になってきた。周辺にはかやぶき屋根の集落が点在し、自然林と一体となった景観を形成する。まさに日本の原風景ともいえる場所だ。

京都府自然環境保全課は「京都の歴史、文化と豊かな自然を残した場所で、府民にとっても貴重な財産。できるだけ自然や景観を保護し、行き過ぎた開発は止めなければならない」としている。

仮に鉄道高架で新幹線が敷設されれば、貴重な景観は台なしになる。トンネルで工事が進んだとしても、多くの人や車、建設機械が搬入されれば、国定公園内に生息する野生動物への悪影響を避けられない。

北陸新幹線の国定公園通過については9月の京都府議会一般質問でも取り上げられ、迫祐仁氏(共産)の質問に対し、山田啓二知事は「自然環境の保全が当然、配慮されるべきものとして、国に対して求めていきたい」と答えている。

長期間の工事だと営巣への影響は確実

イヌワシは日本を代表する猛禽類で、全長80~90センチ、翼を広げると160~220センチになる。ノウサギやヘビ、ヤマドリなどを捕食し、森の生態系の頂点に君臨している。だが、1つがいの営巣には東京の山手線内側に匹敵する広い面積が必要だという。

日本イヌワシ研究会の推計では全国にざっと500羽程度しか生息していないとされ、西日本では極端に生息地が減少してきた。国の天然記念物になっているほか、環境省のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されている。

繁殖率は15~24%とかなり低く、森林の開発や農薬や鉛など化学物質の影響、不用意な接近による営巣放棄などから、数を減らしていると考えられている。日本野鳥の会は「新幹線工事だと建設期間が長期に及ぶ。イヌワシへの影響は避けられない」とみている。

日本野鳥の会によると、イヌワシ営巣地周辺では過去に何度も官民のダムや風力発電、リゾート開発計画が持ち上がったが、山形県のスキー場開発、岩手県の風力発電設置、秋田県のリゾート開発、新潟県のダム建設などが中止された。いずれも環境保護団体がイヌワシ保護を掲げて反対運動を繰り広げていた開発計画だ。

京都丹波高原国定公園ではまだ、環境への影響は調査されていないが、日本イヌワシ研究会の須藤明子副会長は「滋賀県を通じ、反対の意向を伝えている。小浜-京都ルートは自然保護の観点から選択すべきでない」と疑問の声を上げている。

日本自然保護協会の辻村千尋保護室長も「イヌワシは最大限の保護が求められている。生息環境への影響を回避するため、ルートを影響のない場所に変える必要がある」と指摘する。今後、イヌワシ保護をめぐって大きな議論に発展する可能性が出てきた。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の 記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)