友人による国政介入疑惑を受け、朴槿恵大統領が国会で弾劾追訴され、職務停止に追い込まれる政治スキャンダルに発展した韓国だが、政治の停滞が経済へ及ぼす影響は計り知れない。

経済協力開発機構(OECD)は、韓国の2017年実質成長率の見通しについて、16年6月に発表した3.0%から2.6%引き下げた。国内の政治混乱に加え、サムスン電子のスマートフォンの発火問題なども足かせとなると指摘した。先行きに不透明感が漂う韓国経済にとって、頼みの綱となるのがインバウンド。特に、訪韓数が最も多い中国人観光客が韓国経済にとっては鍵となり、富裕層をターゲットにした新たなビザの発給をスタートさせる。

5年有効の数次ビザ、富裕層の囲い込み狙い

主に富裕層を対象にした新しいビザは、300万ウォン(30万円)以上のパッケージツアーなどの旅行商品を利用して韓国を訪れる場合、5年間の期間中、何度でも韓国に入国できる数次ビザで、2017年1月にも発給をスタートさせる見通し。韓国を旅行する中国人にとってはビザの取得が必要で、リピーターとなる観光客の場合、訪韓するごとにビザの取得が求められる。新しい数次ビザでは、1回あたりの訪問で30日間滞在が可能となるビザが5年有効となり、リピーターの呼び水につなげる狙いだ。

日本政府観光局(JNTO)によると、2016年1―10月までの期間の訪日外国人数は初めて2000万人を突破し、インバウンドの成長に沸く日本の観光業だが、このうち中国人観光客は551万人で全体の約27.4%を占めている。日本政府も、16年10月から中国人向けのビザ発給要件を緩和し、中国教育部直属大学に在籍する学部・院生、卒業後3年以内の卒業生に対し、経済力が証明できれば個人観光一次ビザの発給をスタートし、若者の訪日を後押しする。

韓国にとっても、中国人観光客が最も多い構造は日本と変わらないが、その割合に着目すると大きな違いが浮かび上がる。韓国観光公社の統計によると、16年1-10月までの訪韓外国人数は、1458万9370人で、このうち中国人観光客は701万人と約半数を占めているのが特徴だ。言い換えれば、中国人観光客の動向が、インバウンドを大きく左右するため、中国人向けに利便性がより高まるビザの発給へと行き着いた。

爆買いの終焉、新たな成長モデルは?

免税店や百貨店でブランド品などを爆買いする中国人観光客の姿は、韓国でも見られたが、中国政府が海外で購入した商品に対する関税を引き上げたことで、中国人観光客の消費動向に大きな変化が起きた。日本国内では、中国人観光客が高級ブランド品から化粧品などの日用品への購入にシフトし、旅行者1人当たりの消費金額が大きく低下した。韓国でも同様の影響は避けられない。ソウルのロッテ百貨店本店では、2015年の中国人客の売上高が前年比6.8%にとどまり、13年の136%増、14年70%増と比較すると、勢いに陰りが見え始める。

日本を上回る中国人観光客を受け入れる韓国だが、大部分の中国人観光客は、ショッピングを中心に組み込んだ格安のツアーのため、経済的な効果はそれほど期待できないのが課題だ。そこで、富裕層向けの新しい数次ビザの対象となる、高価格帯のツアー商品を充実させる。

特に韓国で盛んな美容に加え、医療、食などを組み込んだ商品を揃えた。例えば、ファミリー向けツアーでは、テーマパークやスキー場などの観光地を訪れるほか、最高級韓定食などコース料理で食を楽しめる内容で1人約45万円となっている。

接待制限による経済的損失 中国人富裕層の観光マネーに期待

韓国が中国人富裕層の取り組みを狙うのは、韓国内の消費低迷に頭を悩ませているのも理由の1つに挙げられる。その要因ともなったのが、公務員や教員、報道関係者などへの接待や金品の提供を規制する法律が施行されたことだ。

汚職や不正を防止するために制定されたものの、食事接待は3万ウォン(約3000円)、贈り物は5万ウォン(5000円)までの上限が設定され、接待などで利用されてきたゴルフ場や飲食店などは売り上げの落ち込みに頭を抱える。

接待の制限による経済的な損失については、シンクタンクの韓国経済研究所が11兆6000億ウォン(1兆6000億円)に上るとの見通しを示した。この消費の落ち込みをカバーする役を期待されるのが中国人富裕層というわけだ。

観光地でのマナーなど中国人観光客にまつわる評判は必ずしも肯定的なものばかりではないが、富裕層の中国人は、どの国にとっても上顧客として取り囲みたい観光客であることには異論はない。政治スキャンダルに揺れ、先行きの経済の雲行きが怪しくなる韓国で、中国人富裕層が落とす観光マネーが、経済の下支えとなるか。(ZUU online 編集部)

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