2016年、フィンテック(FinTech)という言葉が経済紙誌をにぎわせた。金融とITを組み合わせた造語であるフィンテックは、お金に関するあらゆるサービスがより便利にしている。日本でもフィンテックに取り組むスタートアップは多く、昨秋には業界団体であるFinTech協会が設立された。決済分野のコンサルティング企業インフキュリオンを率いる丸山弘毅社長は、メリービズ(経理入力アウトソーシング)の工藤博樹社長とともに、代表理事に就任した。丸山氏に、活動が本格化した2016年を振り返り、17年の活動と日本のフィンテックについて展望してもらった。(聞き手:濱田 優・ZUU online編集長)
実質初年度の今年、活動は一気に拡大 FinTech Japanなど国際イベントも
――2016年を振り返っていかがでしたでしょうか?
2014年10月から定期的にイベント「FinTech Meetup」を行い、国内外のスタートアップと金融関係者の自由な意見交換を促していました。この活動を土台にFinTech協会を立ち上げたのが2015年秋で、活動が本格的に軌道に乗ったのが2016年春です。今年も香港でJAPAN Fintech Nightを、米国シリコンバレーでアライアンスミートアップイベントなどを開催しました。
当初、スタートアップ20社など企業や団体、個人の参加で始まりましたが、16年12月現在でスタートアップ58社、金融機関などの企業が121社と、おかげさまでかなりの規模になりました。
日本のフィンテックのイノベーション基盤整備のために、セキュリティやコンプライアンス、会計・電子レシートなどいくつもの分科会でそれぞれ議論をしたり、省庁と連携して議論や提言をしたりしています。メディアで取り上げていただいたこともあって、金融庁や経済産業省などの関係省庁からも注目され、各種委員に就任するなど活動の幅を広げることができました。業界を代表する団体として認知もいただけたのかなと思っています。
――イベントといえば先日「FinTech Japan」を開催されましたが、いきなり海外からゲストを招くのは大変だったのではないでしょうか。
手前味噌ですが、豪華で、ある意味ディスラプティブ(破壊的)な方々に出ていただけたこともあって、2日間で600人を超える方に来場していただけました。
初回の今年は12月1、2日に東京・渋谷で開催しまして、Moven(ムーヴン、銀行免許を持たずに銀行サービスを提供しているフィンテック企業)の共同創業者ブレット・キング氏など海外からゲストを迎えたほか、協会アドバイザリーボードメンバーでもある大前研一・ビジネスブレークスルー大学学長、SBIホールディングスの北尾吉孝社長らに登壇していただきました。実質初年度のチャレンジとしては、よかったのではないかと思います。
――協会の活動が一気に広がってきた今、どこに課題を感じていらっしゃいますか?
いくつかありますが、まずインステック(InsTech)、保険分野での活動でしょうか。保険業界のフィンテックでは、一部銀行向けなどに提供しているサービスはありますが、今後もっと保険分野でのITの活用は進むと思いますので、キャッチアップしていかなければと感じています。
あとはブロックチェーン・仮想通貨でしょうか。このテーマについては、協会のほうから、自民党金融調査会に提言も出しましたが、より注力していくべきと考えています。
――インステックは海外の事例は多くあるようですが、国内の現状はどうでしょうか。
たしかに海外は進んでいますね。保険会社はいろいろな情報を持ってらっしゃいます。損保はグローバル展開しているところも多いので、海外ではITの導入・活用はかなりやっていると思いますよ。データ・情報やアイデアはあるわけで、日本でもこれから出てくるでしょう。
とはいえ日本の商習慣上、また国民性を考えてローカライズは必要でしょう。たとえば海外では、運転データやウェアラブルデバイスから自分のデータを保険会社に提供するかわりに、ディスカウントを受けるといったサービスがあります。しかし日本ではそうした情報を企業に提供することに抵抗感を覚える人も多いでしょう。ですから、申し込みや手続き、支払いまでの期間を短くするといった場面で導入が先に進むのではないでしょうか。
2017年は中間的業者・APIの議論が進む
――日本のフィンテックの2017年の展望は?
協会でも活動に取り組んでいますが、大きなトピックは中間的業者の法的な位置づけとAPI※公開でしょう。これらは日本のフィンテックのイノベーションを推し進める上での重要な基盤になると思います。
※API……アプリケーション・プログラミング・インターフェース。あるソフトウェアが別のソフトウェアの機能を呼び出す仕組みのこと。具体的には銀行がAPIをPFM企業に公開することで、利用者は銀行口座情報を家計簿アプリで読むことができる
中間的業者とは、銀行など金融機関と消費者・利用者の間に立ってサービスを提供する企業のこと。海外ではネオバンクなどと呼ばれているのですが、FinTech Japan登壇者のキング氏が創業したMovenなどが一例です。この企業は銀行ではないですが、現金の引出しや送金などをモバイルで手数料無料で行えるモバイルバンキングサービスを提供しています。
この点について、日本には「銀行代理業」などの規制があります。代理業者は基本的に“銀行のために”活動するのですが、中間的業者が、利用者の側にたってサービスを提供しようとしたとき、それは「銀行の代理業者」といえるのか。そして利用者保護の責任はどちらにあるのか、といった議論が進んでいくと思います。
日本では銀行に対する消費者の信頼は絶大なものがありますから、銀行と提携したフィンテック企業が中間的業者となってサービスを提供したとき、「そうはいっても銀行が認めた企業だから大丈夫でしょう?」と考えて契約される方も多いはずです。一方で銀行側ではなくフィンテック企業側、中間業者側が負う部分もあるので、消費者の不安解消に努めながらも、責任を明確化していかなければいけないと考えています。
APIの公開については、セキュリティ面や責任範囲などの課題はありますが、利用者にとっては便利になるはず。ただせっかく社会的コストを下げられても、公開する金融機関の初期投資がかかりすぎることになっては意味がないので、そうした点についても協議を進めているところです。
――急速に広まった感のある「フィンテック」ですが、最近の調査では、実は一般認知度はまだまだかなり低いことが分かっています。
こうしてメディアで取り上げていただけるよう、一層がんばりたいと思いますが、最近では経済紙誌だけでなく、情報誌でもフィンテック特集を組んでいただきました。フィンテック企業がどの金融機関と提携したというニュースもよいのですが、消費者には、「こんな便利なサービスがありますよ」ことを届けていかなければいけない。
中間的業者の話が整理されればフィンテック企業と金融機関とが密接になりますし、利用者にとって分かりやすい、便利でなじみやすい新しいサービス出てくるはずです。そういう意味では2017年が本格的にフィンテックサービスを使っていただける年になるのではと思っています。
またイベントの面でも、来年はほかのフィンテックイベントとコラボをしたいと考えています。たとえば「フィンテック ジャパンウィーク」といった形で、同時期にあちこちでイベントやセミナーを実施すれば、海外勢も参加しやすいでしょうし、滞在を楽しんでいただけると思います。そうして、海外の企業にもっと日本に来てもらいたいし、日本のフィンテック企業が海外に出て行きやすくしたい。そうしたことを促進するために、情報発信や各国のコミュニティとの連携強化に努めたいと思います。
丸山弘毅(まるやま・ひろき)
1999年慶應義塾大学卒業後、ジェーシービー(JCB)にて信用リスク分析、不正検知、One to Oneマーケティング、新規事業開発・M&Aに従事。2006年にインフキュリオンを創業、08年取締役。スマートフォン決済などの決済ベンチャー事業、 決済・金融関連コンサルティング事業、CardWave出版事業など、キャッシュレス化に向けたさまざまな事業を展開。14年にグループ再編、インフキュリオングループおよびインキュリオン社長に就任。2015年10月、一般社団法人FinTech協会を立ち上げ、代表理事就任。
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