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Written by 菅野陽平 12記事

16→17年インタビュー

「期待先行の現状に疑問 日銀の金融政策も限界に近い」――白井さゆり・元日銀審議委員

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(写真=ZUU online)

2016年3月まで日本銀行政策委員会審議委員を務め、現在はアジア開発銀行研究所客員研究員としても国際的に活動する白井さゆり氏。同氏は2016年をどのような年だったと振り返るのか、また2017年はどのような年になると見ているのか。日本銀行の金融政策についても聞いた。
(聞き手:ZUU online編集部 菅野 陽平)
※ インタビューは12月16日に行われました。

2017年は「トランプ・リスク」が顕在化する可能性がある

——2016年の世界経済を振り返ると、どのような印象でしたか。

年初と年末で大きくゲームチェンジしました。今年最大の目玉はやはり米国大統領選です。私は大統領選の前後にシカゴにいました。年前半は欧州金融機関の信用不安や、急激な原油安、Brexit(英国のEU離脱)などリスク要素も多かったですが、11月のトランプ大統領誕生で、金融市場には成長への期待が溢れかえり、大統領選の前と後では大きく環境が変わっている印象です。

いわゆるトランプラリーで世界的に株価が上昇していますが、私はこの状況を危惧しています。多くの海外投資家と面会しますが、みんな非常に楽観的です。トランプ氏の政策でさらに経済が成長し、株価も上がると思っています。多くの市場関係者が抱いている楽観的な見解が怖いですね。

——2017年は「トランプ・リスク」が顕在化する可能性があるということでしょうか?

来年に関しては4つのリスクを想定しています。トランプ氏の政策、欧州の政治、Brexit、新興国です。

優先順位で言うと、一番重要なリスクは、トランプ大統領がどのような政策をするか、できるかです。今のところ米国をはじめとした世界の金融市場は、トランプ氏の政策の光の部分しか反映してません。光の部分とは法人税と所得税の減税、それから巨額のインフラ投資です。これらによって成長期待とインフレ期待が醸成されています。その一方、保護貿易や移民規制といった影の部分、マイナスの面が全く織り込まれていません。私は、今の市場はやや行き過ぎていると思います。2017年は米国の株高とドル高が巻き戻る可能性を意識しておいたほうがよいと感じています。

その根拠は、米国に、トランプ氏が唱える減税やインフラ投資を行う財政余力がないことが挙げられます。米国は今、ベビーブーマー世代がちょうど退職に差し掛かる年齢で、社会保障費の負担が増しています。人口動態の観点から、財政が持続可能ではないのです。そのような状況で、トランプ氏の政策を全て実現させることは不可能です。共和党は財政再建へ非常に配慮している政党ですから、議会との軋轢が高まると思います。

——2番目と3番目は欧州関連のリスクですね。

2017年はドイツ、フランス、オランダなど欧州の主要国で多くの選挙が行われます。ドイツのメルケル首相は再選すると見ていますが、フランスはドイツに比べて競争力も低く、成長率も低いので政治リスクが高いと感じています。2016年12月には、憲法改正の国民投票でイタリアのレンツィ首相が退陣となりました。これでイタリアは今後も1%以下の低成長が続き、銀行の不良債権問題も改善していかないでしょう。欧州は域内全体の実質GDP成長率が1.5%前後ですが、下振れリスクが拭いきれません。

3番目がやはりBrexitです。今のところ、EUでは経済見通しにおいてほとんどBrexitの影響を織り込んでいません。むしろ英国に集中していた金融機関や多国籍企業を誘致するチャンスと見ている節があります。英国自身もポンド安の恩恵を受けて、現在のところ経済、株価ともに堅調です。ただ、世界の二大金融市場は間違いなくロンドンとニューヨークです。このロンドンがどうなるかによって、グローバルマネーの動きが変わるかもしれないので、注目しておいた方がよいと考えています。

——4番目のリスクとして挙げた新興国はどうでしょうか。

新興国は3つに分けて考えたいと思っています。第一に中国、第二に資源国、第三にASEANです。

中国は、現在、資本流出が続いており、困っている状況にあります。数年前までは成長期待や金利差があったので、世界からお金が集まってきていたのですが、ここ1~2年それが逆転しています。成長率は緩やかに低下していますし、今後も低下していく見込みです。また、米国の金利が上がってきているので金利差が縮小していることもあって、国内からの資金流出を止めるべく資本の移動規制を非常に厳しく適用するようになっています。そのような事実上の規制強化は国内と外資系の民間企業の活動を阻害しています。国をあげてインフラ投資や住宅投資促進策などの景気対策をしていますが、民間企業の活動はいまひとつのようです。企業の債務がとても大きく、成長鈍化が懸念されます。

一方、今後、資源価格は緩やかに上がっていく時代になっていくと思いますので、資源国経済は今までよりも少し良くなると見ています。もちろん地政学リスクは残りますが、今まで資源価格が下がりすぎていたので、その反発があると思っています。日本にとっても資源国への輸出を増やすことができますし、資源国が世界の証券や不動産の投資に再び活発になるかもしれません。

基本的には新興国全体でみると資本流出傾向が続いています。米国大統領選挙後、この傾向が強まっています。資金流出は新興国の国内金利の上昇をもたらし、景気後退に繋がりかねません。ドル建て債務をもつ国は自国通貨安となって対外債務が事実上拡大しています。従って2017年は、新興国に投資する場合、相当、国を選別していく必要があると思っています。ASEANには、国債などの証券において外資への依存度が高い国と依存度が低い国が存在しています。依存度が高い国は幾分注意をした方がよいです。例えばインドネシアやマレーシアなどが挙げられます。一方でタイなどは、あまり問題はないと見ています。証券投資における外資への依存度が低く、経常収支も黒字なので、経済的には比較的安定しています。政治的な動向には注意が必要ですが。

——2017年は金融市場が混乱する場面もあるのでしょうか。

2016年に続き2017年はもっとボラティリティ(資産価格の変動幅)が大きい1年になると見ています。まずは、トランプ氏の政策期待で上昇した米国の株価が下落する可能性があります。その際は日本も影響を免れません。日本も株安、円高が進む可能性があるので、期待先行の状況が巻き戻される可能性はリスクとして押さえておいた方がいいですね。

日銀の金融政策は限界が近づいている

——日銀の政策についてはどのようにお考えでしょうか。

2015年夏に中国が人民元の切り下げを行なって以降、世界的に金融市場は不安定になりました。原油価格の下落もあって、株式市場は2016年年初から大幅に下落し、インフレ上昇期待が萎んでしまったわけです。そこで日銀は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。

——当時、審議委員だった白井さんは反対票を投じました。

反対の理由を述べるには、マイナス金利政策導入の約1ヶ月前、2015年12月に日銀が行った補完措置を説明する必要があります。

日銀は毎年80兆円の国債を買う約束をしていたわけですが、補完措置導入前は、買入れの平均残存期間を7年~10年程度としていました。しかし、だんだんと買える国債がなくなってきてしまいました。そこで、2016年から買入れの平均残存期間を7年~12年程度に伸ばしたわけです。(編集部注:この補完措置決定に際しては白井氏も賛成票を投じた)

つまり、補完措置は「毎年80兆円の国債を買う約束」をより円滑に守るための決定だった。しかし、その1ヶ月後に、80兆円の買入れを難しくするマイナス金利の導入はどう考えても矛盾している。マイナス金利は、銀行が日銀に預ける当座預金に適用する金利です。プラスを維持している間は、日銀が銀行に利息を支払っていましたので、銀行は安心して国債を日銀に売却していました。しかし、マイナス金利を導入すると、銀行は日銀に利息を払わなければならなくなったため、それを避けようと国債を売却したがらなくなった。また、マイナス金利を避けようと、当座預金を引き出し、国債買い入れを急いだ。その結果、国債価格は高騰し、日銀は高い価格でなければ国債が買えない状態に陥りました。他にも理由は沢山ありますが、これらが予見されたため、私は、反対票を投じたわけです。

何とかデフレから脱却したい日銀は景気刺激策としてマイナス金利を導入したのですが、日銀決定会合後、むしろ円高株安が進みました。金利も下がりすぎる状況になりましたよね。今までどちらかというと、経済学者は金利が下がると景気に良いと思っていたのですが、下がりすぎるのも問題ということが意識され始めたわけです。

——2016年7月にはETF買入れ額を約3.3兆円から6兆円へほぼ倍増させました。

日本銀行のバランスシートから見たらこれ以上買い入れ額を増やすのは限界だと思います。国債や社債なら、満期償還で現金に戻りますが、ETFやREITはどこかで売却しないといけない。いつかやってくる「日本銀行がリスク資産を売却する措置」が金融市場を大きく混乱させる可能性もあります。やはり中央銀行は、こうした資産を沢山かかえ過ぎてしまうほどの市場介入はしてはいけないと考えています。

副作用が少ない形に政策変更すべき

——包括的検証以降では「量から金利」へのシフトが指摘されています。

2016年9月に日銀が発表した金利操作の政策と包括的検証の内容や11月の指値オペ提示を精緻に分析すると、日銀も金利を低く抑えることが良いとは思っていない言動が見受けられます。

原油価格の下落が止まったので、2017年前半には何もしなくても日本のインフレ率はプラスになります。同様に、世界もインフレ率が上昇していくので長期金利が上昇方向に向いています。となると、日本の金利についても、現在は10年国債金利の操作目標を0%近辺に置いているわけですが、インフレ率がプラスに転換するそのときに、まずは操作目標を0.5%程度に引き上げる、もしくは0~0.5%などのレンジにするといった政策変更が必要だと考えています。時期としては来年前半が適切だと思います。

日本銀行では資産買い入れ額を減らすような発言をするかと思えば、持続するような言い方もしており、曖昧です。ただ日銀の80兆円の資産買い入れが次第に難しくなっているからこそ、9月に政策目標として「量」から「金利」への明確な転換を図ったはずです。それだったら、ECBも明確に量的緩和の買入額を引き下げたように、いずれは堂々と「80兆円の買入額を減らす」と宣言したほうがよいと思います。例えば、現在の80兆円から新規国債発行額くらい(編集部注:平成29年度の新規国債発行額は財投債等を含めると約50兆円の予定)までゆっくりと減額していく。これからは無理な買入れを続けるのではなく、副作用が少ない形で長く金融緩和をする方向に向かっていくべきだと考えています。

0%という極端に低い水準で長期金利を抑える政策も長く続けると金融市場の歪みも大きくなりますし、企業の新陳代謝や財政規律が進まず長い目でみて日本経済にプラスにならないと思います。10年国債金利の操作目標の引き上げと同時に、あるいはそのすぐ後に、資産買い入れ額を減らす組み合わせがよいと思います。

白井さゆり(しらい・さゆり) 1993年コロンビア大学大学院・経済学研究科博士課程修了後、国際通貨基金(IMF)エコノミストを務める。パリ政治学院・客員教授、慶應義塾大学・総合政策学部教授を経て、2011年4月日本銀行・政策委員会審議委員に就任。2016年3月退任後、アジア開発銀行研究所客員研究員に就任。9月から慶応義塾大学・総合政策学部教授。

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