米国時間1月31日、2月1日の日程でFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。ウォール街では、今回のFOMCについて政策金利の据え置きを見込む声が多く聞かれ、彼らの関心はすでに「その先」の展開に移っている。

ちなみに、ドットチャートによると年内に3回、さらに2019年末までに10回の利上げを実施する「予定」である。もちろん、現状のマーケットはそこまで織り込んでいるわけではなく、ドットチャートの「予定」通りとなれば、さらなるドル高が進行する可能性が高い。

だが、ウォール街の市場関係者を悩ませているのは、1月20日に発足したトランプ政権が相次いで「ドル高への懸念」を表明していることだ。ドットチャートが示す「予定」通りに利上げが実施された場合、ホワイトハウスとFRBが対立を深める恐れがあり、「その先」に何が待ち受けているのか読みにくい点が気がかりだ。

「利上げしてドル高になれば大問題」

1月17日、トランプ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューで「ドルは高過ぎる」と発言しており、かねてより主張していた「利上げしてドル高になれば大問題」との考えを崩していない。また、次期財務長官に指名されているスティーブン・ムニューチン氏も「ドル高は短期的には米経済にマイナス」と述べ、大統領と歩調を合わせている。

1990年代に当時のルービン財務長官が「ドル高は国益」と発言して以降、特に財務長官がウォール街出身の場合は「米通貨政策の基本はドル高」の傾向が強いと考えられてきた。しかし、すべてにおいて異例とされるトランプ政権では、ゴールドマン出身のムニューチン氏をもってしても「ドル高は国益」とはいかなかったようだ。

トランプ政権の意向をどこまで意識したのかは不明であるが、イエレンFRB議長も1月18日の講演で「ドルの価値を注視している」と発言し、ドルの価値が金利見通しに影響を与えていることを示唆している。

これまでも、ハト派で知られるブレイナードFRB理事が繰り返しドル高への懸念を表明しており、FRB内でもドル高が景気に与える影響を危惧する声は少なくない。

「ドル高是正の動き」を強める可能性も

もちろん、ドルの価値そのものがFRBの政策目標になるわけではないが、物価の安定と雇用の最大化という2つの責務に準じる「3つ目のターゲット」としてドルが重要視される傾向にあるのかも知れない。

通貨価値は、表向き「マーケットが決めることになっている」が、実際のところは「FRBがドルを強くすることも弱くすることもできる」ことを市場関係者の多くが知っている。それだけに、FRBがトランプ政権の意向をくみ取るのであれば、ドル高局面では躊躇なく利上げを見送る可能性もある。

FRBの利上げ(ドル高)を背景に米景気が減速している点にも留意が必要だ。数字を確認すると、2015年は7〜9月期の前期比年率2.0%から10〜12月期には0.9%に失速。2016年も7〜9月期の3.5%から10〜12月期には1.9%へと減速している。この1.9%という数字は、前年同期の0.9%に比べると高いが、それでもトランプ政権が掲げる「4.0%」からはほど遠い。

2016年を振り返ると、1月のFOMCで利上げを先送りし「ドル高是正」に動いたことが、その後の持ち直しにつながったと見ることもできる。そう考えると今回も「ドル高是正の動き」を強めても不思議ではない。冒頭で述べたドットチャートにある「予定」通りにFRBが利上げを実施できるのか、疑問を残すところでもある。

対中強硬路線も利上げを抑制か

最後に、トランプ政権の「対中強硬路線」も利上げを慎重にさせる要因であることを指摘しておきたい。

2017年に入り、ようやく人民元の急落にも歯止めがかかったが、短期金利が急騰するなど金融市場は不安定なままである。最近では人民元よりも社債のデフォルトリスクが警戒されており、予断を許さない状況が続いている。

昨年1月のFOMCでは「世界経済を注意深く監視する」という文言がつけ加えられたが、これは具体的に中国を指していると見られていた。つまり、中国がコケると世界経済全体が打撃を受けることが危惧されていたのであるが、それは今回も同様である。

こうした中で、トランプ政権は「対中強硬路線」を突き進んでいる。米商務省は1月23日、中国製の大型タイヤが米国に不当に安く輸出されているとして、最大22.57%の反ダンピング税率と、同65.46%の相殺関税率を決定したのは周知の通りだ。

トランプ大統領はかねてより、中国からの輸入品に対して45%の関税をかける意向を示すなど、巨額の対米貿易黒字を生み出している中国に対して圧力をかけ続ける構えだ。また、ムニューチン氏は「中国の為替操作国認定」に支持を表明している。

FRBが利上げを実施するとドル高・人民元安を誘発する可能性が高い。そう考えると、人民元に対してドルが高過ぎると考えているトランプ政権の対中強硬路線も「利上げを躊躇させる」材料となりそうだ。(NY在住ジャーナリスト、スーザン・グリーン)

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