米雇用統計,トランプ大統領,移民政策
(写真=Getty Images)

間もなく1月の米雇用統計が発表される。米雇用統計は雇用者数の増勢が鈍化しており、まずはこの流れ(ソフトランディング)が1月も継続しているのか確認することが先決となる。

ソフトランディングの継続が確認された場合、次の関心は「いつ景気がピークアウトするのか?」に移ることになるだろう。つまり、米国の景気後退のシグナルを探ることになるが、フルタイムの労働者数や低学歴労働者の失業率の動きに注意を払う必要がありそうだ。

さらに、今後は混乱を招いている「米移民政策の影響」からも目が離せない。

雇用者数の増勢は鈍化している

1月の米雇用統計の事前予想は、非農業部門の雇用者数で前月比16万8000人増となっている。これは過去3カ月の平均値16万5000人増とほぼ一致している。失業率も4.7%と前月から横ばいが予想されており、これらを見る限り「改善する余地がほとんど残されていない」印象を受ける。

ちなみに、2016年は通年で216万人の雇用が生み出され、月平均では18万人増加している。前述の数字を加味すると、基調的な雇用の伸びは鈍化していると考えてよさそうだ。また、12月の労働市場情勢指数も6カ月ぶりのマイナスに転じており、労働市場は全体的に見ても勢いを欠いている可能性が高い。

米成長率は下方修正される公算が大きい

筆者が違和感を覚えるのは、雇用者数の増勢が鈍化している中で「2017年の米成長率は2016年から加速する」との見通しが示されている点だ。

過去3年の数字を確認すると、2014年は302万人の雇用増加で成長率は2.4%、2015年は274万人で2.6%、そして2016年が216万人で1.6%となっている。

FRB(米連邦準備理事会)の見通しでは2017年の米成長率は2.1%が見込まれており、IMF(国際通貨基金)は2.3%と予想している。したがって、コンセンサスは2.0%以上とみて間違いないだろう。

ここ数年のトレンドを踏まえると、2017年の雇用増加は200万人以下となる可能性があり、その場合の成長率は2.0%以下と考えるのが妥当ではなかろうか。逆に2.0%以上の成長を達成するには、少なくとも200万人以上の雇用増加が必要と筆者は考える。

雇用者数の増勢鈍化が継続するのであれば、成長見通しは下方修正される公算が大きく、逆に現在の成長見通しを実現するためには、雇用者数が再び月平均で20万ペースで増えることが前提となる。

どちらの方向に進んでいるのかを毎月の統計で確認することになるのだが、筆者としてはこれまでの流れを見る限り「成長見通しが下方修正される」可能性のほうが高いように見受けられる。

フルタイム労働者数の減少を警戒

ところで、FRBは完全雇用での失業率の水準を「4.8%」と推計している。しかし、現状の失業率はすでに「4.7%」まで低下しており、雇用改善の余地も小さいと言わざるを得ない。こうした状況を踏まえると、警戒すべきは「いつ」景気がピークアウトするのかということになる。

雇用統計と景気循環の関係では、雇用者数が「3カ月平均でマイナス」に転じると景気後退が始まった可能性が高いと考えられている。このほか「失業率が前年同月を上回る」「フルタイムの雇用者数が減少に転じる」などが指摘されることも多い。

雇用者数は12月までの3カ月平均が16万5000人増とまだ余裕があり、すぐに「3カ月平均でマイナス」に転じることはなさそうだ。

失業率を見ると昨年1月は4.9%、間もなく発表される今年1月の失業率の事前予想は4.7%である。予想通りであれば「失業率が前年同月を上回る」ことはないが、予想に反して5.0%台に上昇すると、「景気後退を警戒すべき」かもしれない。今回に限らず、失業率が上昇しないか注視する必要があるだろう。

フルタイム労働者数の前回のピークは2007年11月で、翌12月から景気後退が始まっている。前々回のピークである2001年3月も「景気の山」と一致している。このようにフルタイム労働者数は過去2回の景気転換における一致指数としての実績が抜群に高い。

そのフルタイム労働者数は、昨年8月に1億2426万人で直近のピークを付けており、12月現在は1億2425万となっている。ここ2カ月は増加しており、この調子で8月の水準を上回れば事なきを得るのだが、再び減少に転じた場合は景気後退への警戒意識を高める必要がありそうだ。

「低学歴労働者の失業率」は上昇している

景気がピークアウトする際には、まず「経済的弱者」にそのしわ寄せが行くとの考え方がある。具体的な先行指標としては低学歴労働者の失業率が参考になるかも知れない。

高校を卒業していない労働者の失業率は昨年7月の6.3%を直近のボトムに12月は7.9%まで上昇している。前回2007年の景気後退では14カ月前、前々回の2001年では15カ月前にそれぞれ直近のボトムを付けている。今後とも上昇傾向が続くようであれば、今秋あたりに景気がピークアウトする恐れがある。

高卒未満、高卒、専門学校卒、大卒の4分類中、12月の失業率が前年同月を上回っているのは「高卒未満」のみである。学歴にかかわらず、景気の山に近づくと失業率は上昇する傾向にあるのだが、学歴が低いほど上昇が始まる時期が早く、伸びも大きくなる傾向がある。

したがって、低学歴労働者の失業率が今後も上昇基調を維持する可能性とともに、より高い学歴の層まで悪化が広がるのか見定める必要がある。12月までを見ると、高卒や専門学校卒の失業率はおおむね横ばいとなっている。この2分類で上昇が始まるようだと「景気後退の足音」が近づいている危険性が高く、警戒感をもって数字を確認したい。

移民政策が企業利益を圧迫する恐れも

トランプ大統領は就任前からの宣言通り、強硬な移民政策を開始しており、今後の影響についても留意する必要がある。

不法移民の取り締まりが強化された場合、リタイアした高齢者や奨学金の負担を少しでも減らしたい学生などが駆り出され、統計上の雇用者数は増えることになるだろう。

とはいえ、不法移民が合法な労働者に入れ替わっただけであり、実質的には「新規雇用」とは言い難い。

一方、移民の減少による労働力不足で、これまでと同じ仕事内容であっても高い賃金を払わなくてはならないケースもでてくるだろう。不法移民の国外退去や移民制限により、労働市場はタイト化するが、成長を高めるわけではなく単なるコスト増に終わる可能性がある。

筆者としては、移民規制で生産性が上昇するとは考えづらく、むしろコストの増加が企業利益を圧迫することにもなりかねない。

今後の雇用増加や賃金上昇は、こうした移民規制の影響を割り引いて考える必要もありそうだ。「数字の解釈」がこれまで以上に複雑になる恐れがある。(NY在住ジャーナリスト、スーザン・グリーン)

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