SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

シンカー:現在注目されている物価水準の財政理論(FTPL)は物価動向を説明するツールとしては、鈍い刀であると考えられ、1%単位の細かな物価の変動を説明することは困難であろう。しかし、景気過熱を考慮しない異常な財政拡大が、いずれ異常な物価上昇をもたらすことは説明できる。一方、逆にも応用でき、過剰な政府債務残高への警戒感による異常な財政緊縮が、デフレの原因になってしまうということも説明できる。

物価を説明する一般的な経済理論では、貨幣の量を動かすことにより物価が動くと考えられ、物価上昇は貨幣的現象であり、貨幣の量を調整する金融政策だけでコントロールできると考えられてきた。

しかし、リーマンショック後、日本や欧米先進国は大規模な金融緩和政策により市場に流通している貨幣の量を増やしたが、物価上昇率はなかなか加速せず、低インフレ状態が続いてきた。

日銀は2%の物価上昇率の目標を掲げて、マネタリーベースを年間80兆円程度増加させる大規模な金融緩和政策を行っているが、足元の物価上昇率はマイナスになってしまい、目標を達成するには相当の時間がかかりそうである。

一方、現在注目されている物価水準の財政理論(FTPL)では、物価水準(インフレ)は財政政策の拡大で起こすことが可能であるとし、物価上昇は貨幣的現象であるという従来の一般的な経済理論の考えと大きく異なる。

一般的な経済理論では、現在の実質政府債務残高は、将来の実質財政収支の黒字で返済されるとされる。

物価は貨幣的現象として前提となり考慮されず、現在の実質政府債務残高と、将来の実質財政収支の和の現在価値がイコールとなるように、財政収支が調整されると考える。

一方、FTPLでは、将来の財政収支の和で必ずしも債務残高が返せないという仮定を置き、将来の物価期待が変動(上昇)することにより、現在の名目政府債務残高と、将来の名目財政収支の和の現在価値がイコールになると考える。

財政拡大により現在の名目政府債務残高が増加すれば、家計が将来的に増加分を増税等で返済することが無い信じれば、将来の実質財政収支が一定であるため、物価が上昇してバランスすることになる。

一般的な経済理論では物価は貨幣的現象として財政政策と切り離されて考えられるが、FTPLでは財政運営が物価期待に大きな影響を与えると考える。

FTPLは物価動向を説明するツールとしては、鈍い刀であると考えられ、1%単位の細かな物価の変動を説明することは困難であろう。

しかし、景気過熱を考慮しない異常な財政拡大が、いずれ異常な物価上昇をもたらすことは説明できる。

一方、逆にも応用でき、過剰な政府債務残高への警戒感による異常な財政緊縮が、デフレの原因になってしまうということも説明できる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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