偽ニュース,ポスト真実
(写真=Andrey_Popov /Shutterstock.com)

情報戦争が激化する近年、インターネット上に偽情報が溢れ返り、「嘘」と「本当」の判断がますます困難になっている。悪意のない誤報から中傷を意図する情報、そしてアフィリエイトサービスを利用した営利目的のでっち上げまで、嘘情報の拡散は世界中で深刻化している。

インターネットの普及は、先進国・新興国の消費者の生活をあらゆる角度から一転させた。これまでは創出できるはずのなかった利益が、思いもかけない場所から堰を切ったように押し寄せる。「偽情報屋」あるいは「偽情報サイト運営者」なる職業も、そうした思いがけない産物のひとつだろう。

トランプ・フィーバーが火付け役

米大統領選以来、急激に注目を集めているのがドナルド・トランプ氏をターゲットにした偽ニュースサイトだ。米ニュースサイト「バズフィード」によって確認されただけでも、トランプ氏に関するデタラメな情報を流しているサイトは100以上存在するという。

「おや?」と思うのはここからだ。これらのサイトすべてが、東欧州のバルカン半島に位置するマケドニア共和国の一都市、ヴェレスで運営されている。人口わずか4万5000人という小都市にも関わらず、過去1年間で立ちあげられた政治サイトは140を超える。

多くが「WorldPoliticus.com」や「TrumpVision365.com」といった米国風のドメインネームを利用し、保守党やトランプ氏の支持者に好まれそうなコンテンツを次々に発信している。

トランプ氏がヴェレスで熱狂的に支持されているわけでも、マケドニアの国民が特別米国の政治に関心が高いというわけでもなさそうだ。そうなると考えうる目的はひとつしかない。

「Google AdSense」で荒稼ぎ

これらの偽情報サイト運営者の取材に成功したバズフィードは、偽情報の発信が「純粋に経済的利益目的」であることを突き止めた。Googleの広告掲載アフィリエイト「Google AdSense」を利用したビジネスだが、運営者の多くが十代の若者である点に驚かされる。

バズフィードの取材に応じた17歳の「偽情報流し屋」は、ヴェレスの経済基盤が脆弱であること、法律で十代の労働が禁じられていることを、若者が偽情報流しに走る動機として挙げた。この青年も本業がミュージシャンであるにも関わらず、楽器を購入するお金に困って偽情報サイトでの小遣い稼ぎに足を踏みいれたそうだ。

通常のアフィリエイトと異なるのは、攻撃的なまでに偽情報を流出させ、クリック報酬広告へのアクセス数を強引に押しあげている点である。多くの米国人がトランプ氏の一挙一動に注目しているという事実に目をつけ、根拠がある・ないにかかわらず、ありとあらゆる情報を発信する。

特にFacebookのような大規模なSNSに投稿すれば、共有数はあっという間に伸びる。共有数が伸びれば広告クリック率があがり、手にする報酬も多くなるという仕組みだ。実際、これらの情報サイトのほとんどが「話題性」にのみ焦点を絞っているため、記事の内容はデッチあげが多いという。

嘘は衝撃的なほど集客効果が高い

偽情報サイトの成功ぶりは予想をはるかに上回るものだ。大成功をおさめた一例としては、「conservativestates.com」に掲載されたヒラリー氏の偽コメントだ。「トランプ氏のような、正直で賄賂に応じない人に選挙に立候補して欲しい」という見出しの記事を、わずか1週間で48万人が共有したという。

偽コメントの真相は、「より多くの成功しているビジネス・ピープルに、政界に進出して欲しい」という、クリントン氏の発言を大きくねじ曲げたものである。この偽情報の発信源が、別の偽情報サイト「TheRightists.com」であるというから、開いた口がふさがらない。

そのほかインディアナ州のマイク・ペンス知事による「オバマ夫人はホワイトハウス始まって以来、最も下品な大統領夫人だ」という偽情報も、Facebookをとおして100万人に共有された。広告クリックによる報酬が莫大な金額にのぼることは、想像するに容易い。

トランプサイトから医療サイトに乗りかえる先見の明?

しかし偽情報サイトを立ちあげれば誰もが荒稼ぎできるという時代は、早くも終幕を迎えつつあるようだ。バズフィードが取材した「偽情報流し屋」は口をそろえて、現在は偽情報サイト市場が混雑しており、最も利益を得ているのは2016年上旬にサイトを立ち上げたアーリー・アダプター(流行に敏感な初期採用者)のみだという。

これら一握りの層は今も月に5000ドル(約59万円)、Facebookでクリック数が大ヒットすれば1日に3000ドル(約31万円)の収入があるそうだが、羽振りのいい時期が永遠に続くと楽観視しておらず、トランプ・フィーバーの鎮火とともにアクセス数も一気に下降すると、実に冷静に予測している。

毎月の平均訪問者が100万人にのぼる人気偽情報サイト「BVANews.com」を運営する若者は、トランプ偽情報サイトの運営を続けるかたわら、「保険目的」で手堅い集客が見込める医療情報サイトも同時進行させているそうだ。

対象的に、今年8月にサイトを立ちあげて以来、Google AdSenseの認証待ちをしていた大学生の偽情報サイトは、1日の訪問者数が800人程度とまったく利益を創出していなかった。この青年も「政治が旬のテーマだっただけ」と、現在は医療情報サイトに乗りかえている。筆者が12月24日にチェックしたところ、トランプサイトは完全に閉鎖されていた。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)

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