2月3日、この日の日経平均株価の終値は前日比3.62円高、ドル円は113円近辺、長期金利0.099%。終わってみれば特段なにごともなかったかのようである。

だが、我々銀行員にとって、この日のマーケットは Brexit や米大統領選挙で乱高下した日に匹敵するほど熱い1日だった。いや、むしろそれ以上といっても過言ではない。この日、水面下で尋常ではない何かが起きていた。

この日の出来事は、銀行で金融商品を販売する我々にとっても「相場とどう向き合うべきか」改めて考えさせられることとなった。ここでもう一度振り返ってみよう。

普段と何ら変わらない静かなスタートだった

【 AM 9 : 00 】実施が確実視されている日銀オペの結果や指し値オペに対する警戒感もあるものの長期金利は前営業日比変わらずの0.105%で寄りついた。

普段と何ら変わらない静かなスタートだ。この日は米国の雇用統計の発表を控え、多くの投資家は積極的に動かないだろう、職場の誰もがそう思っていた。

【 AM 10 : 10 】日銀は国債買い入れを通告、だが、その矢先に異変が起きた。国債先物が急落したのだ。新発10年物国債利回りは0.150%までみるみる急上昇した。

投資初心者には、株や為替と異なり「金利急騰」の意味を理解するのは難しいかも知れない。だが、これは日銀がマイナス金利政策の導入を決めた昨年1月29日以来の高水準である。この段階で為替は円高になり、株も大幅に下落していたことからも、そのインパクトの大きさが想像出来るだろう。

午後に実施されるであろう「指し値オペ」のオファーに否が応でも注目が集まる。

【 AM 12 : 30 】日銀の国債買い入れの通告は通常、午前10時と午後2時である。だが、この日は違っていた。12時30分に後場が開くタイミングで国債買い入れを通告したのだ。

黒田日銀総裁が得意とする「サプライズ」だった。オファー額は無制限。この指し値オペ通告を受け国債先物が急反発し、金利も瞬く間にもとの水準へと急低下した。

終わってみれば、すべてはもとの水準に戻っていた。前日とは何も変わっていない。天気晴朗なれど波高し。まさにそんな一日だった。

「金利急騰」が意味するものとは?

この日、マーケットで一体何が起きたのか。
私の職場でも当然ながら「金利急騰」の話題で持ちきりだった。

「誰かが日本国債の売りを仕掛けたんでしょうね」部下の一人がそう言った。「きっとそうですよ。トランプが日本の金融政策について牽制したばかりですからね。10日の日米首脳会談を控えて日銀は動かない、いや動けない。仕掛けるなら今しかない。そう考えたのかも知れませんね」

「ああ、きっとそうに違いない」私は言った。
だが、たとえそうだとしても、結局日銀との勝負に負けた。これまで多くのヘッジファンドが日本国債を売り崩そうと日銀に戦いを挑んだが、勝った者は誰もいない。そう、いまのところは。

部下の話に耳を傾けながら、私は愉快でならなかった。1年前、マーケットのことなど何も知らないごく普通の銀行員だった彼が、いまやこんな話をするようになった。その成長ぶりが愉快でならなかった。

我々の仕事は、銀行で金融商品を販売することだ。だが、我々営業が長くこの仕事を続ける秘訣は「いかに金融商品を販売するか」ではない。重要なのは「いかに相場と向き合うか」である。

銀行では新人研修・教育において、ともすればセールストークなど「いかに金融商品を販売するか」のテクニックに偏りがちである。しかし、そんな研修・教育には「相場は思い通りに動かない」ものであるという大前提が欠落している。これではお客様のニーズに合った商品を提案することなどできない。

日銀は毒ガスを防ぎ続けられるのか?

たとえば今回の「金利急騰」をどう見るか。投資の世界において金利は「炭鉱のカナリア」と呼ばれる。私は、そのことを何度となく繰り返し指摘してきた。

市場環境の変調は株でもなく、為替でもなく、真っ先に金利に表れる。炭鉱のカナリアは人間よりも早く有毒ガスの発生を感知することから、そう呼ばれるようになった。それは先人が残してくれた知恵である。

これからも誰かが日本国債を売り崩そうとするかも知れない。その動きは為替や株にも波及するだろう。日銀はこれからもこうした売り崩しを封じ込め、有毒ガスを防ぎ続けることが出来るのだろうか。

誰がどんな目的で日本国債を売ったかなど、売った本人にしか分からない。我々銀行員にできることは、炭鉱のカナリアの鳴き声に耳を傾け、「最悪の事態」に備え、カナリアのメッセージを顧客に伝え続けることだ。(或る銀行員)

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