JAL(日本航空 <9201> )とANAグループ(全日本空輸/ANAホールディングス <9202> )は、2017年2月1日以降の航空券発券分から、燃油特別付加運賃(以下、燃料サーチャージ)を復活させた。燃料サーチャージとは、通常の航空運賃に加えて、原油価格の上昇によって企業努力で吸収しきれない航空燃料が発生した時に、その一部を乗客に負担させる費用のことである。一般的に、燃料サーチャージは2ヵ月に一度のペースで見直しを行っている。
燃料サーチャージの復活は海外旅行費用の増加につながる。海外旅行好きであれば、更なる価格上昇があるのか、今後の動向が気になる所だろう。燃料サーチャージの動向に影響を与えているのが原油価格だ。
日常生活にも影響を及ぼす原油価格
燃料サーチャージは2016年4月から廃止、つまり0円になっていたが、2017年2月から復活した。過去には、2009年9月に燃料サーチャージが0円になったことがあるが、それほど珍しいことだったと言える。燃料サーチャージが2016年4月から0円になった背景としては、原油価格が12年ぶりの安値水準まで値下がりしたことが挙げられる。
原油とは油田から採掘した精製されていない石油のことである。報道等で「原油価格は1バレル〇〇ドル〜」と聞いたことがある人も多いのではないだろうか。報道等でよく聞く原油価格は、原油を購入する際の価格ではなく、原油先物価格のことを指す。先物取引とはバーチャルの取引であって、原油そのものを取引するわけではない。
原油は産地によって3つの市場に分けられる。ニューヨークマーカンタイル商品取引所の「WTI(West Texas Intermediate)原油」、東京工業品取引所でも取引されているアジアの指標である「ドバイ原油」、欧州の指標である「北海ブレント原油」に分けられる。WTI原油は世界的にも先物取引の量が多い。そのため、ニューヨークマーカンタイル商品取引所のNY原油先物=WTI原油が、報道等では代表的な原油価格の動きを表す指標として使われている。
原油価格の動向が、私達の生活に影響を与えるのは燃料サーチャージだけではない。日々の生活の移動手段として利用している自動車のレギュラーガソリンの小売価格にも影響を及ぼす。資源エネルギー庁が発表している「給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)」を見てわかる通り、レギュラーガソリンの小売価格は燃料サーチャージが0円になった2016年4月前後が最も安く、1リットルあたり110円を下回っている地域がある。当時、100円を下回る価格で提供する小売店が登場し、多くの自動車が安いレギュラーガソリンを給油するために行列している様子が報道されたことは記憶に新しい。
資源エネルギー庁「給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)」
原油価格はなぜ変動するのか?
原油価格が12年ぶりの安値水準まで下落した背景としては、中国や新興国の景気減速による需要の減退に加え、シェールオイルの登場、原油の供給過剰等が挙げられる。原油価格の下落は世界経済の先行きへの不安につながった。そしてリスク回避から、株式市場の下落や、新興国通貨の下落へと波及していった。
原油価格が安くなることで、資源のない日本としては燃料サーチャージ0円や、レギュラーガソリンの価格低下等メリットも多い。しかし、世界的に見れば、マーケットに不安定要因を与えるリスクの方が大きくなる。そこで、2016年11月に石油輸出国機構(以下OPEC)総会で減産合意、12月にはOPECとロシア等の非加盟の主要産油国が閣僚会合を開き、15年ぶりに協調減産で合意した。供給側を安定させることで、原油価格の上昇、マーケットの安定に結び付けた。
2009年に燃料サーチャージが0円になった時、WTI原油価格は1バレル33.20ドルであった。2016年2月にはそれをも下回る、12年ぶりの安値水準1バレル26.05ドルまで下落した。歴史的な安値水準であることがわかるだろう。その後は、減産に向けた動きが出てきたことで原油価格は上昇し、2017年1月に1バレル55.24ドルまで上昇した。わずか1年あまりで2倍になった。
さらに、原油価格の単位がドル建てであるため、原油価格は為替相場の影響を受ける。円高の時には少ない円で原油を購入できるが、円安の時には多くの円で原油を購入することになる。ドル円相場は2016年に比べると円安ドル高が進行している。原油価格の上昇に加えて円安の進行が、燃料サーチャージ復活の背景にある。
原油に投資できる主な金融商品
原油価格上昇をヘッジするために、原油関連の金融商品に投資をしようと思っても原油先物取引は敷居が高い。もう少し手軽に原油を取引する方法はあるのだろうか。
株式投資のように手軽に原油関連に取引できる主な金融商品としては、ETF(Exchange Traded Fund/上場投資信託)やETN(Exchange Traded Note/上場投資証券もしくは指標連動証券)がある。株式と同じように株式市場に上場しているため手軽に取引できるが、タイミング次第では損失が発生するリスクもある。
ブル型は強気(上昇相場)、ベア型は弱気(下落相場)の時に活用でき、ダブルは2倍の値動きが期待できる金融商品である。例えば、原油価格が上昇すると考える場合には「原油ダブル・ブルETN」 <2038> を購入し、下落する場合には「原油ベアETN」 <2039> という風に使い分けて取引できる。
「WTI原油価格連動型上場投信」 <1671>
「ETFS WTI原油上場投資信託」 <1690>
「NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス上場」 <1699>
「原油ダブル・ブルETN」 <2038>
「原油ベアETN」 <2039>
燃料サーチャージやレギュラーガソリン等、私達の生活は株式市場や為替市場、原油価格等、様々な金融商品と密接に結び付いている。投資や資産運用と言うと小難しく考えがちだが、生活における変化や気づきが重要なヒントになっていることが多い。私達の生活の中にある身近なヒントから、投資の一歩を始めてみると面白いだろう。
横山利香(よこやまりか)
国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。ファイナンシャル・プランナー。相続士。「会社四季報オンライン」や「All About株式戦略マル秘レポート」での連載や、ヤフーファイナンスの「株価予想」でもマーケットコメントを執筆する等、株式投資や不動産投資といった投資や資産運用をテーマに執筆、
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、講演活動、株塾を行う。
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