タクシー業界,初乗り
(写真=PIXTA)

東京都内で1月30日、ついに「初乗り410円」タクシーが登場した。営業収益も乗客数も右肩下がりが続き好転が見込めない業界の窮余(きゅうよ)の策だが、実は規制強化や値上げに頼るという業界体質から初めて脱却した画期的なものと評価することもできる。ただ、この価格改定が「序の口」といえるくらい改革が本気でなければ、自家用車で客を送迎する「ライドシェア」などの「黒船」に対応できないだろう。

じり貧タクシー業界

「業界天気予報は2016年度後半は雨、2017年度も雨」ー。東洋経済新報社の「2017年版 会社四季報 業界地図」ではタクシー業界の未来をこう評価。概況については「全体の営業収益は右肩下がり。インバウンド需要の押し上げはまだ見られない。運転手の高齢化やライドシェアなどに先行きには不安山積」とまとめている。

2002年の規制緩和でタクシー車両数は大幅に増えたが、2008年の規制再強化で大幅にダウン。その後の景気低迷もあり、営業収入は凋落の一途だ。国土交通省のデータを見ても、営業収入(法人タクシー事業者)は2007年から右肩下がりで2014年には1兆6596億円に落ち込んだ。車両台数や輸送人員も右肩下がりなのは同様で、2015年度の輸送人員は14億2200万人で、10年間で3割も減っている。

事業者数1万6053社、車両数20万4100台のうち、9割が車両台数30台以下の中小企業が占めているためグローバル競争にさらされた経験がない。そればかりか、需要が落ち込むと減収を補うために値上げしたり、政治や行政を頼り規制強化をしてもらうという体質を業界は抱えていた。

410円効果はいかに。水面下の改革に乗り出す会社も

これまでのタクシー料金システムは、2.0キロまでを730円の初乗り運賃とし、以降は280メートルごとに90円だったのが、1.052キロまでの初乗り運賃を410円に値下げする一方、以降の単価は上げて237メートルごとに80円とした。このため、1.7キロまでの運賃は値下げとなるが、6.5キロ以上は値上がりとなることになる。

国交省によると、全国のタクシー平均乗車距離は3.7キロで、3人に1人が初乗り運賃での利用。値下げの恩恵に預かれる人は多く、高齢者が日々の買い物や通院で利用するなどさらなる需要の掘り起こしが期待できる。薄利でも多売になれば結果的に増収になるとの認識なのだろう。1か月後から半年後、1年後の数字が興味深い。

今回の料金改定はじり貧が進む業界の改革を目指し、お上の指導ではない大胆な策と評価されている。ただ、それより前から業界改革に取り組む会社もあり、実際に数字にも表れている。それは、タクシードライバーとして入社する大卒社員が増えてきていることだ。2016年10月22日付日経電子版「NIKKEI STYLE」によると、業界大手の国際自動車は2012年は10人だった大卒ドライバーを2015年には109人に増やした。2017年卒では新卒全体で180人規模という。競合の日本交通も同150人の採用新人を最初はドライバーとして勤務させる。大和自動車交通も同30人の予定だ。

これまで、タクシードライバーといえば「オジサンの仕事」で、「最後の最後に就く仕事」と考える人も多かった。ただ、就職活動の途中で待遇が良く休日が多い、社内の雰囲気がよいなど、意外に「ホワイト」な職場環境であることに魅力を感じた学生が入っているようだ。

これは、企業の採用部門が業界への偏見を少しでも解消しようする努力がなければ、ありえなかったことだろう。このほか、営業所の管理職に抜擢して現場の士気を上げようとする企業もあるようだ。

営業収入は右肩下がりでも、内部でこうした改革が着実に進み、実を結んでいることは、業界の将来に不安材料ばかりではないことを示していると言えよう。

改革は黒船に間に合うか

ただ、米ウーバーのようにスマートフォンなどを活用した配車サービスを提供する企業の日本進出や、成長戦略の一環としての「ライドシェア」の解禁圧力の強まりなど、業界は激しく揺さぶられている。

こうした動きに対し、業界としての姿勢はきわめて頑なであるようにしか見えない。2016年5月26日付の日経新聞電子版では全国ハイヤー・タクシー連合会会長の「白タク解禁や合法化の動きには、いかなる妥協も条件付き容認もない」と言い切ったセリフを掲載。2016年5月に京都府京丹後市で始まったウーバーの事業に激しく抵抗してがんじがらめにしたり、富山県南砺市で市長が主導した実験計画を、市議会議員に働きかけて潰させた動きも紹介されている。

海外では一般ドライバーの有料ライドシェアとして普及しつつあるが、国内では現状、違法の白タクとなる。連合会会長のセリフにはこうした現状を維持して既得権益を守ろうとしている意図が見え見えで、同紙は「いつまでも競争を排除するタクシー会社の姿は異様に映る。事業者の都合が優先されたままでは、日本の消費者の利便性は置き去りにされる」と厳しく指摘した。

2017年秋の導入を目指し、トヨタと同連合会が共同開発している「次世代タクシー」の全貌が明らかになりつつある。NIKKEI STYLEによると、事故防止の自動ブレーキに加え、車高が高く、車内を移動しやすく高齢者や障害者にも使いやすいワゴンタイプになるそうだ。

一方、海外では独ダイムラーがウーバーと提携し、2020年にも無人で自動運転の「ロボットタクシー」を実現させる構想を発表している。それにしても、「黒船」とわが国とのスケールの違いは激しすぎる。タクシー業界は今回の料金改定は、「改革派はこれで終わり」ではまずい。「まだまだ序の口」としなければならないのではないか。(飛鳥一咲 フリーライター)

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