トランプ大統領就任後初の日米首脳会談は、大方の心配に反し、トランプ大統領の強い要求は見られず、経済面でも安全保障面でも当面の安定性が感じられるものであった。
しかしながら、対照的に大統領就任以降、大統領令の内容やスピード感を見ると、大統領選挙で自身を支持してくれた有権者へ目に見える効果と実感を早くもたらしたいという意向から、内外の批判や衝突を厭わない政権運営がされている。
従来の常識が通用しない大統領の誕生の背景には、グローバル化の影に埋もれた中間層のトランプ氏への圧倒的な支持があるとされている。
「トランプ大統領」に期待した中小企業経営者たち
トランプ大統領が誕生する背景や今後の世界秩序についての考察がされた話題の新書『「トランプ時代」の新世界秩序』(三浦瑠璃著、潮出版社)によれば、トランプ大統領を生む土壌はリーマンショック以降の民主党の対応において生み出され始めていたとのことである。
リーマンショック以降の実体経済への打撃、とりわけ中小企業への影響は甚大で、大手自動車メーカーの下請けを中心に労働者の賃金の半減や解雇など、自分達経営者の経営判断の責任以外の要因で厳しい状況に追い込まれた。
多くの労働者は、若者層では将来子供を産み、家や車を買って自己実現の夢を叶えたいと思い、定年に近い層では、企業年金をもとに安定した第二の人生を迎えたいと思っていた。金融危機はそのような労働者の夢を失わせる経営判断を、中小企業の経営者に迫った。
しかしながら、民主党政権はその政策がマイノリティの保護に重点が置かれる場合が多く、中小企業経営者の多くは一向に改善しない景気状況から「つらいのはマイノリティだけではない」と不満を募らせていたと言える。
トランプ氏は選挙戦中、明らかな暴言や偏見のある発言をし、泡沫候補扱いされていたが、その裏では有権者とりわけ中間層の経営者・労働者が持つ現状の民主党への不満や鬱積をすくいとる発言を非常に計算高く行い、ついには大統領へ登り詰めるだけの支持を得た。
トランプ氏は大統領選当選以降、中小企業庁(SBA)長官にプロレス団体「ワールド・レスリンリング・エンターテイメント(WWE)」の元CEOで中小団体から全米レベルの団体へ成長させたリンダ・マクマホン氏を指名するなど、中小企業経営者の関心を持たせるような人事を行った。
またテスラモーターズCEOのイーロン・マスク氏との対談でトランプ氏は、「中産階級と中小企業のために税金は大幅に削減します」とも語っている。
中小企業のトランプ氏への期待は、全米独立起業連盟(NFIB)が発表した昨年12月の中小企業楽観指数にも表れており、前月比プラス7.4ポイントと1980年7月以来の大きな上げ幅となり、非常に強い期待があることがいえる。
グローバル化の影に埋もれた日本の中小企業
日本の場合、米国のような政治のうねりが今後近いうちに起こりうるだろうか?
結論として、少なくとも短期的には国政においては起こりにくいと考える。理由として、色々挙げられるが、一つに日本の場合、中間組織が一定の機能を果たしていることが大きい。中間組織とは業界団体などの事で、政治と企業をつなぐ役割を持っている。
米国でも業界団体は一定の影響力は持つが、民主党政権下で企業の不満を政治に反映する機能を中間組織が果たしきれていなかったとされている。米国の場合、このような政府に届かない不満や鬱積が、国内の不法移民や海外に工場移転する多国籍企業、国内の雇用に貢献しない大企業に向けられている面が強い。
ただし、日本の場合でも、長期的には協同組合の減少など中間組織の衰退が今後起こりうることであり、とりわけ海外製品との価格競争に疲弊している経営者や従業員が、米国並みとは言えないまでも、排外的な政策を支持することは十分に考えられることだろう。
排他性を生まないための中小企業政策とは?
オバマ大統領とトランプ大統領の考え方の根本的な違いは、イデアリスト(理想主義者)かリアリスト(現実主義者)であるかだろう。前者は極端に言えば世界を含めた全体の幸せを求めるため、長期的な目線になる。後者は困っている自分達(トランプ氏は米国を家族と捉える)をまず第一に考えるため、短期的な目線となる。
経済政策で捉えれば、前者が幸せになるための具体的な政策を実行に結びつけなければ実感が湧かないが、後者はピンポイントな政策で実感を起こさせればよいのである。日本がここから教訓としなければならないのは、中小企業政策として、大きな理想の枠組みは掲げるも、同時により実効性のある現実的な政策に落としこむことが非常に重要である。
海外製品との低価格競争に疲弊し行き詰った企業の業態転換を促進させることや、合併・買収等の再編で事業継続を図り雇用を守らせること、ベンチャーが活躍しやすい環境を整えること、労働環境の改善を図ることなど具体的な取り組みが求められると言えよう。(菅井啓勝、ライター)
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