2016年4月の電力自由化に続き、2017年4月には都市ガスの小売全面自由化がスタートする。ガスが自由化すると、消費者にはどのようなメリットがあるのだろうか。ガス自由化の概要とメリット・デメリット、選択にあたりやっておきたい準備について確認していこう。
ガス自由化で何が変わる?
ガス自由化により、消費者は都市ガスの事業者を自由に選べるようになる。ライバルが生まれることで競争原理が働き、サービスや価格が改善されることが期待される。
これまで、ガス会社は地域独占の都市ガス大手1社と契約するか、都市ガスがない場合はプロパンガスか簡易ガス(団地ガス)から供給を受けるのが普通であった。特定の事業者が独占を続けると供給は安定するかもしれないが、価格が高くなりがちだ。
都市ガスは独占状態が続いており、資源エネルギー庁の調べでは東京ガス・大阪ガス・東邦ガスの3社で全国のガス販売量の7割を占める。しかし自由化に伴い、都市ガスと簡易ガスに新規参入が認められるようになった。ガス自由化は競争を促すことによって料金を抑制し、技術革新を創発させることが目的だ。
自由化されるのは電力自由化と同じく小売の分野だ。エネルギーの供給には「作る」・「送る」・「売る」といった流れがあるが、今回自由化されるのは「売る」の部分だ。ガス導管はこれまで都市ガスが使っていたものと同じなので安全性には問題ない。また、乗り換えにあたっては新たな工事やメーターの交換なども必要ない。
ガス自由化のメリット・デメリット
ガス自由化のメリットには以下のようなものがある。
・今より安い料金でこれまで通りガスの供給を受けることができる
・ポイント制やセット割など新しいサービスの登場
・都市ガスの普及率が上がる
現在のガス料金は、「総括原価方式」と呼ばれる方法で算出されている。設備投資費や人件費、燃料費等、ガス事業をおこなうためのコストに一定の利益率を乗せて計算するもので、ガス会社の経営が安定する一方で料金が割高になる特徴がある。自由化により料金設定も各事業者にゆだねられるため、料金の低下が期待できる。
加えて、これまでになかったサービスが登場する可能性が高い。電力会社によるガス・電気の同時加入による割引や、通信会社による携帯電話やインターネット接続サービスとのセット割り、通販会社によるポイント優遇などである。
さらに、自由化によって都市ガスの普及率の向上が見込まれている。経済産業省はガス事業法の運用規則を改正することにより、ガスの導管網を整備しやすい環境を整えることを決定した。現在都市ガスの普及率は約50%にとどまり、普及が進まない原因は導管網の敷設が遅れていることにある。整備が進めば都市ガス事業者の数も増え、消費者の選択肢が広がるのではないだろうか。
一方、デメリットもある。
・地域によって事業者数にばらつきがある
・価格が不安定になる可能性がある
新規参入業者が導管網の整備された都市部に偏り、地方によっては自由化の恩恵が受けられないおそれがある。これは電力自由化でも見られた現象で、電力事業者を乗り換えた世帯の78%は、大都市圏である東京電力・関西電力管内であった。ガス自由化にも同様の現象が起こる可能性は高い。
また、安くなることが期待されるガス料金だが、安定性は保証されなくなる。ガスの原材料の多くは液化天然ガス(LNG)で、LNGの調達は97%海外からの輸入に頼っている。
そのため、原材料費や為替相場の影響を受けやすい。それは今でも同じだが、ガス料金が頻繁に変更されると消費者への影響が大きいため、ガス会社が料金を変更するには国の認可が必要であった。しかし自由化後はそういった規制が撤廃されるため、最初は安めに抑えてあった料金も、輸入コストの上下によってガス料金が不安定になることが心配される。
今からできるガス自由化の準備
ガス自由化は4月からだが、消費者が今から準備できることはあるだろうか。
(1)現在のガス使用量や契約内容を確認
ガス事業者の選定や料金シミュレーションをおこなうには、現在のガス使用量や契約種別が不可欠だ。それらはガス検針票やWeb明細で確認しておきたい。ガス使用量は総量だけでなく、どの季節や時間帯に使用量が多いのか知っておくと良いだろう。今後、利用状況に応じた料金プランが出てきた時に使える。
(2)参入企業の情報を得る
自分の住んでいる地域で選択できる事業者はすべて把握しておきたい。とはいっても身構える必要はない。経済産業省の調べによると、新規でガス小売業に登録されている事業者は2017年3月時点で23社しかない。
供給予定地域をしぼると、該当する事業者は2~3社というところだろう。380社以上新規参入した電力自由化に比べると盛り上がりに欠ける。現在のところ、比較サイトなども見当たらない。電力比較サイト『 エネチェンジ 』では、郵便番号を入力することで使用できるガス事業者を検索することができる。
(3)今のガス会社の契約プランを確認する
今のガス会社のままでも、契約プランを見直すだけで割安になるケースもある。たとえば東京ガスでは、ガス給湯器「エコジョーズ」を使うプランに変えることでガス料金が通年3%割安になる。また、家庭用燃料電池「エネファーム」の契約をすることで、冬季のガス料金を18%削減することが可能とある。このように、契約内容を変更するだけでガス料金を下げることができることも覚えておこう。
「ガス自由化詐欺」には要注意
新たな制度が導入されると、便乗する詐欺が横行するのが定番である。事例としてよく見られるのが、ガス会社の営業と称して他の商品やサービスを売りつけるものだ。「自由化に伴い新たなガス機器が必要」とガスコンロを販売したり、「ガスの点検のため」と作業費用を請求したりする。自由化に機器の購入や有料の点検は必要ないので、勧められたら断るようにしよう。
また、大手ガス事業者の関連会社や公的機関を装い、料金調査やガス点検のためと偽って個人情報を聞き取ろうとする詐欺もある。電話や訪問で立ち入った質問をされた場合は、安易に情報は伝えず会社名の確認と身分証の提示を求めると良いだろう。
強引に乗り換えを勧める業者にも警戒したい。現在のガス料金よりも大幅安い料金を提案する業者には、期間限定の優遇価格であることや細かい条件が設定されていることを伏せているケースが少なくない。契約後に料金が割高であることが判明し、解約を申し出ると高額な解約違約金を請求されるパターンだ。
早期割引等で早く契約を迫る事業者が後を絶たないが、ガス自由化は今後も続くので焦る必要はない。徐々に新規参入企業が増え、新たなプランやサービスが出そろってからでも遅くはないだろう。(篠田わかな フリーライター)
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