先月、関西圏を地盤とする関西アーバン銀行、みなと銀行、近畿大阪銀行が経営統合を検討しているとのニュースが報じられた。

かつて銀行の合併や経営統合と言えば、ビッグニュースだった。だが、私の周りでいまやそんなニュースを気にかける銀行員は少ない。金融庁や銀行経営者は相変わらず「規模の拡大」を目指しているようだが、銀行はもはや抜け出すことができない「縮小のワナ」に陥っている。多くの銀行員の反応は冷ややかだ。

自分の欠点は自分では分からない「これだから銀行員は…」

「頑張ってるんだけどさ、どうにも業績が伸びないんだ」久しぶりに学生時代の友人との飲み会の席で、私はつい仕事の話をしてしまった。「最初は順調だったんだ。それが時間が経つにつれ上手くいかなくなっている。原因が分からない」

「そんなの当然じゃないか、縮小のワナだよ」友人は笑いながら言った。縮小のワナ?「これだから銀行員はダメなんだよな。営業のキホンだよ、キホン」

縮小のワナとは? 友人の話を要約すると次のようになる……銀行員が投資信託を営業するとき、まず対象にするのは、銀行との関係が良好なお客様だ。それが一巡したら、次は投資信託を保有しているお客様。それも一巡したら、保有している投資信託で利益がでているお客様に乗り替えや、追加購入を勧める。「どうだ、当たってるだろ。そんな営業やってちゃ、どんどんパイは小さくなるに決まってるじゃないか」

彼の指摘は実に正しい。営業成果は「推進対象先×成功率」で決まる。「アパートを建てませんか」「マンション買いませんか」そんな営業は成功率が極めて低い。だから建設会社の営業担当者は手当たり次第に声をかけまくる。どんなに断られようが、イチイチ気にしているようでは精神が持たない。彼らは自分たちの仕事が極めて成功率が低いものだということを理解している。

「営業なんて断られて当然という気持ちがなければやってられない」彼はそう指摘する。成功率が低いからこそ、推進対象先を拡大させるというのが彼の考え方だ。

営業成果は「推進対象先×成功率」で決まる

一方、銀行はどうだろう。我々銀行員は効率性を重視する。つまり、成功率の高い推進対象先を絞って営業をかける。

具体的には先に友人が指摘した通り、我々銀行員は門前払いされることはないだろうと思われる「関係が良好なお客様」に営業をかける。すでに投資信託をお持ちのお客様なら余計な説明は不要だ。「新しい投資信託がでました」そんな切り口から商談に入れば良い。もし、そのお客様の保有する投資信託の運用が上手くいっているなら、こんなに好都合なことはない。「そろそろ乗り替えを」と提案することで成功率は高くなるはずだ。効率的ではあるが、他の業種の営業担当者からみれば、なんとも奇妙な営業スタイルに見えるのかも知れない。

もともと銀行には「可能性の低い対象先」に営業活動を行わない文化があるように思う。それと引き換えに、自分たちの手でどんどんパイを小さくしている側面もあるだろう。我々銀行員は、確かに「縮小のワナ」に陥っている。それは営業活動に限らず、銀行経営そのものにも当てはまるように思えてならない。

もはや軍隊式の「上意下達」は通用しない

銀行業界では合併や経営統合が盛んである。しかし、現場の最前線で汗を流す銀行員の反応は冷淡だ。関西アーバン銀行、みなと銀行、近畿大阪銀行が経営統合を検討していると報じられたとき、私の周りで関心を示す者は驚くほど少なかった。どうせ、我々の仕事は何も変わらないのだ。もはや、言葉だけが上滑りする「拡大路線」を真に受ける銀行員などほとんどいないだろう。それは「経営統合しようが、拡大路線をアピールしようが、我々の仕事は『縮小のワナ』から抜け出すことはない」そう宣言しているかのようでもある。

実に奇妙な光景だ。金融庁、銀行経営者、現場がそれぞれバラバラの想いで合併劇を眺めている。そこには共通の想いはなく、形として合併が粛々と進んでいるとしか言いようがない。

日銀はマイナス金利政策というとてつもない実験を行い、金融庁はオーバーバンキングを解消しようと、地方銀行の合併や経営統合に積極的だ。「営業エリアを超越した統合」「系列グループを超えた統合」メディアではそんな言葉が拡大路線の正当性を示すかのごとく踊るが、この先に一体何があるというのか。先が見えない不安と、不毛なダンピング競争に疲れ果て、金融商品販売に舵を切っては見たものの「縮小のワナ」にはまり込んで抜け出せない。それが我々銀行員が直面している現実なのだ。

では、どうすれば良いのか? 組織の在り方そのものを見直す必要があるのではないか。組織が「効率よく成果を上げる」には軍隊のような上意下達の仕組みが都合が良いとされてきた。銀行では、そうした考えが未だに幅を利かせている。命令する立場にある者も、命令される立場にある者も、当たり前すぎてそこまで意識していないかも知れない。だが、私にはそのように感じられてならない。

現場の経験もない社内官僚が机上の空論を振りかざすのではなく、現場の最前線で汗を流している人間の話をきちんと吸い上げるような仕組みを構築することができれば、銀行は変わることができるかも知れない。一部では広く全行員からアイデアを募集し、役員の前でプレゼンテーションする機会を設けた地方銀行も出始めている。変化を恐れてはならない。「縮小のワナ」から抜け出すためには、既成概念にとらわれない新たな一歩を模索する必要がある。(或る銀行員)

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