トランプ,組閣
(写真=lev radin/Shutterstock.com)

ドナルド・トランプ大統領就任以来、新政権の組閣は遅々として進まず、それが政策の具体性の欠如や運用面での混乱、ひいてはトランプ大統領の支持率低迷にもつながってきた。だが、ここに来て上院の承認が必要な閣僚たちが次々と審査をパスし、本格的な政権始動への下準備が整った。

ハネムーンは終了?

主な承認・就任済みの閣僚は、ジェームズ・マティス国防長官、レックス・ティラーソン国務長官、スティーブン・ムニューシン財務長官、ジェフ・セッションズ司法長官、ウィルバー・ロス商務長官、ベッツィー・デボス教育長官、ジョン・ケリー中央情報局(CIA)長官などだ。一方、承認が終わっていないのが、米通商代表(USTR)候補のロバート・ライトハイザー氏、アレクサンダー・アコスタ労働長官候補、ソニー・パーデュー農務長官候補など数名である。

だが、マティス国防長官やイレイン・チャオ運輸長官など資質・経歴ともに文句をつけようがない一部の閣僚を除いては、承認は難産を極めた。また、2月28日時点で上院の承認が必要な550のスタッフのうち、閣僚も含めた承認済みポストは15に過ぎず、未だ520近いポストで指名すらされていない。政策に具体性を出すには、これらの専門家が欠かせず、混乱はしばらく続きそうだ。

なぜこのような事態になったのか。そこには3つの問題がある。まずトランプ氏が歯に衣着せぬ言動で敵を多く作り過ぎたため、歴代大統領に与えられてきた、「お手柔らかに新政権を扱う」就任後3カ月のハネムーン期間が吹き飛んでしまったこと。

次に、多くが素人出身の閣僚候補の資質や倫理に問題があり過ぎて、与党共和党内部からも承認が取り付けにくい状況ができたこと。

最後に、トランプ大統領は政治指導者としての経験に乏しく、国家運営を、自身の不動産同族企業経営のように考えてしまい、未だ試行錯誤を重ねていること、さらに統制の欠如から政権内部の「誰が本当のボスか」という権力争いが収束していないことが挙げられる。

これらの要因は、この先閣僚が全員承認されて政権が本格的に始動しても、トランプ大統領を悩ませ続けることになりかねない。

敵を作り過ぎた失敗

そもそも、トランプ氏は選挙期間中、自身が大統領に当選できると考えていなかったフシがある。そのため、当選後に初めて閣僚候補を考え始めたようだ。大統領選でライバル民主党の大統領候補であったヒラリー・クリントン氏が、選挙期間中に閣僚や政治任官ポストの候補者リストを完成させていたことに比べ、準備不足は明らかだった。これが、組閣の初動の遅れにつながった。

また自身が「エリートの落ちこぼれ」であることから、トランプ大統領は正統派エリートや専門家を敵視し、排除する姿勢を明確に打ち出した。そのため、国務長官候補に名が挙げられた元共和党大統領候補のミット・ロムニー氏など、適任者が早期に「予選落ち」し、政権初期の閣僚欠如という結果を生み、「トランプ政権は、政策の立案実行ができない」という悪評につながったのである。

トランプ氏の指導者としての傾向として、必ずしも能力のある者を取り立てるのではなく、自身に対する忠誠心を最重要視することが挙げられる。ちなみに、ロムニー氏が選考から落ちたのは、選挙期間中にトランプ氏を批判したからだ。また、国務次官補に名が挙げられたエリオット・エイブラムス米外交問題評議会(CFR)上席研究員は、ブッシュ(息子)政権の顧問として政策立案で中心的存在となった実力者だが、同じくトランプ批判の過去を問われ、排除された。

そうしたトランプ大統領の傾向が、組閣の遅れを悪化させ、政治や軍事でほとんど素人に近い「身内」のスティーブン・バノン首席戦略官・大統領上級顧問やジャレッド・クシュナー大統領上級顧問を必要以上に重用することにつながってゆく。

そして、それらの素人顧問たちが関係官庁への根回しを怠ったまま1月27日に発出されたイラク・イランなどイスラム圏7か国出身者の入国禁止大統領令は、連邦裁判所に差し止められてしまい、トランプ氏の大統領としての権威が就任後間もなく大いに傷つけられてしまった。この時点で国務長官や司法長官が承認されており、専門家のスタッフを配下に持つ彼らに相談していれば、防げたかもしれない事案だ。これは、トランプ氏が党内外に敵を増やし過ぎ、就任直後に与えられる支援を、自らぶち壊してしまったのが原因だ。

倫理や資質に欠けた素人集団

組閣が遅れたのは、候補者の多くが資質や倫理を欠き、共和党内部からも承認を渋る動きが出たことも大きい。住宅都市開発長官に任命されたベン・カーソン氏は、優れた脳外科医であるが、住宅問題に関しては全く経験がない。

富豪で慈善活動家のデボス教育長官は、承認公聴会で議員たちからの教育問題に関する質問に全く答えられず、しばしば立ち往生してしまった。上院での採決は民主党議員48人全員と造反した共和党議員2人が反対票を投じ、50対50と拮抗、上院議長を兼任するマイク・ペンス副大統領が票を投じ、やっとのことで承認された。

さらに、労働長官候補であった敏腕経営者のアンドルー・パズダー氏は、就労許可のない不法移民を家政婦として雇っていたことが明るみに出たため、労働問題を司るポストにふさわしくないとされ、指名を辞退している。

さらに、国家安全保障担当の大統領補佐官であったマイケル・フリン氏は、トランプ大統領の就任前にロシア側と米国の対露制裁を協議したとの疑いがかけられ、辞任した。現在、セッションズ司法長官にも同様の疑惑がある。政権は、発足直後から倫理問題に悩まされている。

統制の欠如と経験不足

優れた経営者でもあるトランプ大統領が就任後に自ら告白しているように、国家運営は、企業経営とは違う。大統領がコントロールをしっかり示すべき指揮命令系統や方針の策定で、未だ「誰がボスか」がはっきりせず、政権内部で権力争いが続いており、閣僚の就任後も専門官の指名・承認が進んでいない。恐らくトランプ氏自身が混乱している状態であろう。

だが、この数週間、トランプ氏は「桶は桶屋に任せろ」の悟りを開きつつあるようにも見える。正統派エリートや専門家は鼻持ちならぬ存在かも知れないが、世界一の超大国の運営には、彼らの経験と知見が必須だ。組閣がほぼ終了した今、トランプ大統領が忠誠最重視の姿勢や反エリートの意地を張ることをやめ、能力と適材適所を重視した専門官の指名を行えば、政策立案と運用がスピードアップし、支持率が上昇することは間違いない。(岩田太郎、在米ジャーナリスト)

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