米雇用統計,見通し
(写真=Thinkstock/Getty Images)

ダウ工業株30種平均の最高値更新に見られるように、米国経済の先行きへの「期待感」は強い。しかし、その一方でウォール街の市場関係者からは「実体経済とのかい離」を警戒する声も聞かれる。期待先行の展開がいつまで続くのか、一抹の不安は否めない。

そうした中、間もなく2月の米雇用統計が発表される。注意すべき点は、基調的に雇用者数の増勢が鈍化しているなかで、前回(1月)の雇用者数が予想を大きく上回り、その影響で2月の予想が高めに出ていることだ。

「期待」と「現実」のどちらについて行くべきなのか、2月の米雇用統計はその試金石としても注目されよう。

「季節調整前とのかい離」という落とし穴

2月の米雇用統計の事前予想は、非農業部門の雇用者数が前月比19万人増となっている(※7日現在、以下同)。過去3カ月の平均値が18万3000人増、12カ月平均が19万5000人増となっており、事前予想はこうした「過去の数字」を反映していると考えられる。ちなみに、前回(1月)は17万人程度の増加が予想されていたが、3カ月平均が16万5000人増、12カ月平均は18万人増だった。

雇用統計の「事前予想」は過去の数字に依存している面が大きく、必ずしも将来を「予想」しているとは言い切れない点に留意したい。毎月発表される数字は常に「予想」と比較されるのであるが、実際のところは過去の数字に基づく「基調的なトレンド」と比較していると見ることもできるだろう。

ところで、2月の事前予想が先月よりも強気となっているのは「1月が22万7000人増加と『予想』を大きく上回った」ためと考えられる。だが、この数字には注意が必要だ。なぜなら、1月の数字は「季節調整前」の数字から大きくかい離しているためだ。

メディアが報道する数字は「季節調整値」であり、市場参加者の多くがこの「季節調整値」に注目しがちである。その結果、「季節調整前」とのかい離という落とし穴に気づいていない恐れがある。

「季節調整前」のトレンドに収束なら15万人増を下回る?

今年1月の「季節調整前」は前月比294万8000人減、「季節調整値」は22万7000人増であった。1月に「季節調整前」の数字が大きく減少するのは毎年恒例であり、それ自体に問題はない。しかし、気がかりなのは過去3年の1月の「季節調整前」を見ると平均で286万5000人減、「季節調整値」で平均18万3000人増となっていることである。今年1月の「季節調整前」は、過去3年の平均よりも大きく減少しているにもかかわらず、「季節調整値」では増加しているのだ。

今年1月までの1年間で「季節調整前」は213万2000人増加しており、月平均では17万8000人増加した計算になる。一方、2016年1月までの「季節調整前」の月平均は21万5000人増である。この1年で月平均は3万7000人減っているので、毎月3000人ペースで増勢が鈍化している計算だ。

繰り返しになるが、今年1月までの1年間で「季節調整前」の月平均は17万8000人増である。毎月3000人ペースで増勢が鈍化していることを加味すると、今回発表される2月までの月平均の期待値は「17万5000人増」が目安となる。

問題は「季節調整値」がどうなるかだ。2月までの「季節調整値」の3カ月平均が「季節調整前」のトレンドに収束すると考えた場合、1月の22万7000人増があだとなって2月の期待値は「15万人以下の増加」となり、事前予想の「19万人増」に届かない恐れがある。逆に、事前予想の19万人増に達するためには、1月分を「17万人程度」に下方修正する必要がある。

したがって、今年1月分が下方修正されず、過去1年のトレンドを継続する前提で考えると、今回発表される2月の雇用者数(季節調整値)の増加は「15万人以下」でも不思議ではないと言えそうだ。

気になる労働市場の「スラック」

目下のところ、FRB(米連邦準備理事会)は利上げに前向きな姿勢を見せているが、実際のところはどうなのだろうか? 筆者が気になるのは、CBO(米議会予算局)が労働市場の「スラック(需給の緩み)」への警戒を示していることだ。

CBOは、2016年第4四半期現在で160万人の雇用不足が発生しており、米労働市場にはまだスラックが残っていると指摘している。スラックは主に「労働参加率の低さ」に起因しているが、その証左としてパートタイム比率の高さ、職探しをあきらめている労働者の存在、賃金上昇率の鈍さが挙げられる。

事実、「フルタイムでの雇用を希望しているがパートタイムでしか仕事が見つからない」との理由(経済的理由)でパート勤務をしている労働者が2016年第4四半期時点で570万人おり、雇用者全体の3.8%を占めている。また、現在は仕事を探していないが、過去1年以内に仕事を探していた人、すなわち「現在は仕事探しをあきらめてしまっている人」も2016年第4四半期時点で180万人となっている。

雇用統計は経済的理由でパートタイマーや仕事探しをあきらめている人を含めた「広義の失業率」を公表しており、2016年第4四半期は9.3%と景気後退前の8.5を依然として上回っている。今年1月の「広義の失業率」は9.4%と12月から0.2%ポイント上昇した。

賃金上昇率も相変わらず鈍い。今年1月の平均時給は前年同月比2.5%増加と予想の2.7%増加に届かず、昨年8月以来の低い伸びとなっている。

CBOが警戒を示しているように、労働市場にはまだ「スラック」が残っている可能性がある。今回発表される2月の雇用統計でもこうした「スラック」が確認された場合、次回FOMCでの利上げ見通しにも影響があるかも知れない。

「期待を裏切る」結果なら、市場環境は急速に悪化?

米経済は現在「期待」と「現実」にかい離が生じている。実体経済が「期待」に追いついていないとも言えるだろう。

実際の数字で確認すると、2月の米消費者信頼感指数は15年7カ月ぶりの高水準、2月のISM指数も2014年8月以来の高水準であり、企業・消費者ともにセンチメントは絶好調である。

一方、シカゴ連銀全米活動指数は3カ月平均が1月まで18カ月連続でマイナスに沈んでおり、長期的な低迷から抜け出せていない。

また、1月の個人消費はインフレ調整後の実質で前月比0.3%減と2009年9月以来の大幅な落ち込みとなった。1月の実質可処分所得も前月比0.2%減となり、実質所得が低下しているようでは、消費の拡大も期待しづらい。1月の消費者信用残高の伸びも2012年7月以降で最低となり、消費者の財布の紐が固くなっている様子を読み取ることができる。

加えて、ドル高で貿易赤字も拡大している。こうした状況を踏まえ、GDPナウ(7日現在)は1〜3月期のGDP成長率を1.3%と予測している。

今回発表される2月の米雇用統計で、期待通りの数字となれば市場に安心感を与えることになるが、市場は「期待先行」で既に織り込んでいる様子なので、株価や為替への影響は限定的となりそうだ。

警戒すべきは、「期待を裏切る」弱い数字となった場合である。利上げの見送り観測や景気の先行きに対する懸念が広がる中で、市場環境も急速に悪化し、想定外の金利低下やドル安・円高、株価の下落を招く恐れがある。(NY在住ジャーナリスト、スーザン・グリーン)

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