大分別府温泉
(画像=Webサイトより)

温泉地として知られる大分県別府市の市長が「インターネットで動画再生が100万回を超えたら実現します」と表明した、冗談とも本気ともつかない「遊べる温泉」の構想が、ネット上で不特定多数の出資者から資金を調達する「クラウドファンディング」で今年7月、現実のものとなりそうだ。

大都市一極集中や人口減少で全国の地方自治体の税収減が叫ばれ、こうした「遊び」の部分になかなか財源を回せなくなる中、クラウドファンディングが「地方創生」の切り札となるのかもしれない。

夢の「遊べる温泉」が現実に

「山は富士 海は瀬戸内 湯は別府」と呼ばれ、神話や伝説でも語られる別府温泉。そんな別府温泉のある大分県別府市は、人が入れる温泉としては世界一の湧出量を誇り、全国的に知名度がある。

さらにその魅力を国内外に向けて発信しようと、同市は新たな都市ビジョンとして「遊べる温泉都市構想」を策定。第一弾の仕掛けとして2016年11月、温泉と遊園地を融合させ、タオル姿の男女や家族連れが湯船のついたジェットコースターや観覧車、ケーブルカーなどを楽しむ様子を収めた架空のアミューズメント施設「湯?園地」の動画を公開した。

動画の終盤には別府市長が登場し、「再生回数100万回で実現する」という公約を表明。このインパクトがネット上で話題となり、現在、すでに同300万回を突破している。さらに、クラウドファンディングで資金調達したことも注目された。クラウドファンディングを仲介する「CAMPFIRE」によると、最低目標額の1000万円はすぐに突破。現在、約1200人の賛同者がある。

「湯?園地」は2017年7月、「別府ラクテンチ」に3日間限定で登場する予定だ。動画にも登場した「架け橋かけ湯」「温泉スライダー」「温泉ミストアストロファイター」「特製ブレンド温泉」が現実のものとなる。

支援金は3000円から。入園券は8000円からで、2万円なら入園から退園までの間、つきっきりの世話人がつく。30万円ならさらに別府市長とサシ飲みできる、100万円なら花火大会で1分間の打ち上げ花火、1000万円なら「湯?園地」を丸一日の貸し切り、などの特典がつく。

構想はさらに発展、経済効果も

別府市で計画している温泉振興策は、この「湯?園地」だけではない。先立つ4月に「別府八湯温泉まつり」の湯かけイベントに使う湯量をこれまでの10倍にしてPR。最終目標は、アイスランドにある世界最大の露天風呂「ブルーラグーン」の別府版をつくることだ。この実現には1億円は必要というが、今回のクラウドファンディングですでに1000万円を突破していることからも、夢ではないだろう。

大銀経済経営研究所が出した「おおいた温泉白書」(2017年1月)によると、大分県で温泉がもたらす経済効果の試算額は1236億円という。県内総生産の1.5%と農業生産額に匹敵するそうで、大分県が持つ観光資源の中では大きな地位を占める。同県は「日本一のおんせん県おおいた」をキャッチフレーズに観光政策を展開しており、別府市の取り組みは大分県全体の経済効果にも波及しそうだ。

クラウドファンディングは地方創生の切り札?

ただ、地方自治体は多くで財政難。公債費や人件費、扶助費と言った「固定費」が財源に占める割合で、財政の硬直度を示す「経常収支比率」という指標がある。

総務省のデータによると、平成26年度の都道府県と市町村の計1765団体のうち、80%以上は90.3%にも上る。それだけ、財源を「遊び」に回せる自治体は少ないということだ。これでは、別府市のように街を活性化するために、なにか派手な仕掛けをしようとしても、余裕がないということ。「貧すれば鈍する」で、やがて政治家がだれも街の活性化を考えなくなり、衰退の一途をたどるばかりだ。やがて「地方消滅」も現実となってくる。

こうした状況を回避するためにも、クラウドファンディングは有効な手段だ。少額の提供でも呼びかけられるため、プロジェクトの意義や実行する人たちの熱意、中身の面白さがうまく伝われば、お金は集まるからだ。

決して自治体が音頭をとるものばかりではない。たとえば建物が歴史的に非常に価値が高いのにほとんど知られておらず、個人所有であるため、改修に公金投入ができずに老朽化が進むばかりというケースは全国でたくさんあるはずだ。

一例として、大阪府河内長野市にある温泉旅館で、東京駅や日本銀行本店など近代日本を代表する建築物を手がけた建築家の設計した宿があった。マニアにしかほとんど知られていなかったため、改修して話題を集めたいが、オーナーにその費用が限られていたため、2015年に東京の投資ファンドがネットで呼びかけると、1人5万円から募った資金で改修費など1500万円が集まった。

出資者はこの旅館の宿泊費が無料になるなどの特典があった。しかし、出資者にとって大きな喜びだったのは、特典よりもむしろ、「貴重な建築物を自分の力で(5万円からの出資で)救うことができた」という達成感ではなかったか。

昔と違い、ネットで地方からも工夫次第で情報は全国に伝わる時代。熱意、面白さ、危機感をどれだけ情報に乗せ、いかにクラウドファンディングにつなげられるかが、これからの地方創生の切り札といっても過言ではないだろう。(フリーライター 飛鳥一咲)

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