1月20日の就任以来、「大統領らしくない」米大統領との批判を浴びてきたドナルド・トランプ氏。2月28日の施政方針演説では、従来のハチャメチャな「トランプ節」をかなりの部分で封印し、超大国の指導者にふさわしい姿勢を打ち出した。
大幅減税やインフラ投資、「国境税」など重要で具体的な政策の実行の道筋については、まだ大部分がベールに包まれたままで、市場関係者は3月16日の大統領の一般教書演説でも、内容は期待できないと見ている。
閣僚を支える500を超える専門スタッフが指名さえされていない現状では政策を固められず、この先数か月、しびれを切らした投資家たちが、相場急落などでトランプ政権に「メッセージ」を発信する展開も考えられる。
トランプ大統領も、手をこまねいているわけではない。就任以来、大統領選挙中は単なる公約に過ぎなかった方針が一部、現実の「政策」となってその姿を現しつつある。移民、国境の壁、インフラ、軍事、通商政策など、トランプ大統領が就任してから実行した、もしくは明言した政策をまとめてみよう。
強面の移民政策
トランプ大統領の就任前は、「選挙期間中の過激な公約は封印し、大統領らしく振舞うだろう」との予想があった。だが、それを見事に裏切り、「トランプは約束を守る男」であることを証明したのが、移民政策だ。
まず1月27日に発出した大統領令で、イラク・イランなどイスラム圏7か国出身者の入国禁止を、関係官庁への根回しなしに命令した。連邦裁判所によって全米規模で差し止められてしまったが、「テロリストが混ざっているかもしれない国からの移民は制限する」という基本政策は、はっきりと示された。
トランプ大統領は、裁判所にブロックされないよう練り直した新たな入国禁止令を、2月6日に改めて発出する意向だ。過激な形になってはいるが、トランプ氏の政策は、ブッシュ元大統領によって最初に発令され、オバマ前大統領の任期全体にわたって維持・強化されてきた「イスラム圏7か国からの入国者には審査を厳重化する」という政策を進化させたものだ。その意味では、歴代政権の政策を継承している。
また有罪判決を受けた不法移民や逮捕歴のある不法移民のほか、凶悪犯罪者、詐欺や虚偽申告の経歴がある移民を、情状酌量の余地なく強制送還する新政策も打ち出した。1100万人いる不法移民のうち、800万人が対象になるとされる。すでに政策は急速に実行に移されており、不法移民の親と米国生まれで米国籍の子が引き裂かれる悲劇などが頻発している。
だがこの強制送還も、オバマ政権下で年間40万人と、1970年代以降最高レベルに達していたものを、さらに厳格化させるに過ぎない。以前はケースバイケースで認められてきた逮捕や国外退去判決執行の猶予をなくすところが、トランプ政策の新しいところだ。いずれにせよ、移民は、新政権の政策の中で、最も継続性と具体性が示されている分野である。
一方、不法移民流入を防ぐ目的で米墨国境に壁を築く政策は、従来の「部分的な壁」を継承・発展させつつも、象徴的に米国を閉ざすところが違う。この政策は明言されているが、まだ予算は確保できていない。
「強いアメリカ」維持の軍事政策
もうひとつ、トランプ政権が明確な形で打ち出したのが軍備増強だ。大統領は、戦闘機や護衛艦などを、調達先の民間企業への圧力でより安く入手する一方、軍事予算の上限を10%増大させることを議会に要求している。
特筆されるのは米国を海洋国家に回帰させるため、海軍を米史上、最大にすると強調したことだ。米海軍が現在運用する空母を10隻から12隻に増やし、ここ数十年の予算削減で縮小するばかりだった海軍を「再び偉大に」する計画だ。西太平洋で海軍増強に走る中国を意識したことは明らかで、歴代政権の政策とは一線を画している。
日本の貢献も期待されるインフラ投資
一方、表明はされているものの、内容がはっきりしない政策も多い。例えば、トランプ大統領は施政方針演説の中で議会に対し、インフラ整備に対して1兆ドルの支出を認めるよう要請した。だが、具体的に何にどれだけ投資するのか、どのように財源を確保するのか、具体的な案は何ら示されていない。
ただ、インフラ事業で米経済を活性化させるのはトランプ大統領の公約の柱であり、熱意がある。米国内で財源が確保できなければ、海外に目を向けるだろう。すでに、2月の日米首脳会談で安倍晋三首相がトランプ大統領に対し「資金援助」の用意があると述べており、ウィルバー・ロス商務長官が日本の年金基金からの投資を期待する旨の発言で応じている。日本のマネーが米インフラ政策に組み込まれる可能性は高い。
またトランプ氏は法人税に関し、近く「驚くべき発表」を行うと約束している。予想では、現行税率の最高35%が15~20%に引き下げられ、米経済の起爆剤になり得ると期待されるが、減収分をいかに補填するかなど、課題も山積だ。
資本主義改造を目指す通商政策
通商政策でトランプ大統領は「米国第一」を政策の根幹に据えている。米国が栄華を誇った時代の製造業の隆盛を、企業への国外移転に対する懲罰や、米国回帰に対する褒賞、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)離脱、世界貿易機関(WTO)の規範からの逸脱、法人税の「国境調整」などで取り戻す政策だ。だが、TPP離脱以外で政策に具体性はまだ見えていない。
ただ、トランプ通商政策は自由貿易やグローバリズムで行き詰った新自由主義型の資本主義を、国家統制や関税引き上げなど、もはや資本主義的手法とは呼べない荒療治で改造しようとしていることは間違いなく、そうした政策群が逆説的に資本主義を救えるのか、世界が注視している。
トランプ政策は従来政策継承と過激な変化の組み合わせ
ともすれば、トランプ大統領の政策は過激で新しいものばかりと思われがちだが、実際には歴代政権の政策を継承・発展させたものもある。その「古いもの」と「新しいもの」のミックスのバランスをいかにとるか、トランプ政権は試行錯誤中だ。そのバランスの度合いと、具体性をいかに早く打ち出せるかに、「トランプ相場」の持続性がかかっている。(岩田太郎、在米ジャーナリスト)
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