忖度(そんたく)……今年の流行語大賞には、きっとこの言葉が候補に入るに違いない。連日、「忖度」という言葉がメディアをこれほど賑わすことになるとは誰が想像しただろう。盤石とされる現政権が思わぬつまずきを見せた森友学園を巡る一連の報道を見ながら、私はつぶやかずにはいられなかった。「魚は頭から腐る」と。

政府だけではない、企業だって同じだ。盤石と思える組織ほど、忖度が日常的に行われている組織ほど、頭は腐っている。忖度は組織の中にとんでもない「妖怪」を生み出しているのだ。

忖度,森友学園
(写真=Thinkstock/Getty Images)

盤石な組織と「忖度ブーム」

そもそも忖度なる言葉そのものが我々にとってはおよそ馴染みの薄い日本語であり、日常生活で使うことなど稀ではないだろうか。

ちなみに、忖度の例文を調べてみると、出てくるのは太宰治や福沢諭吉の文章である。それほどまでに馴染みのない日本語が連日メディアで大きく取り上げられているのだから、違和感を覚えないはずがない。見方を変えると、いま起きている「忖度ブーム」は日本の現代政治史にはなかった新たな問題提起なのだ。

「忖度ブーム」を助長させたのは、ほかならぬ安定政権だ。私は安定政権のすべてを否定するつもりはない。安定政権はポピュリズムに惑わされることなく、将来を見据えた政治ビジョンを我々国民に示してくれるはずだ。何が将来の日本に必要なのか。世界経済の発展のために日本はどう行動すべきなのかを、我々国民に示してくれるはずだ。少なくとも、私はそう思っていた。

だからこそ、我々は「アベノミクス」と名付けられた世紀の大博打に付き合ったのではないのか。もちろん、あなたには「大博打に付き合った」などという気持ちなどないかもしれない。だが、現実問題として、我々の老後に備えた大切な年金資金は否応なしにGPIFを通じアベノミクスにベットされているのだ。

日銀の金融政策こそ「忖度の極み」だ

森友学園の問題では行政がさまざまな忖度を行い、国家の財産を不当に安く売り渡したということになるのだろうか。

さて、ここで三権分立を思い出して頂きたい。日本国憲法は、立法、行政、司法の三つの独立した機関が相互に「抑制し合い」「バランスを保つ」ことにより、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する三権分立の原則を定めている。にもかかわらず、かかる暴挙が行われてしまった。

それだけではない。日銀の金融政策こそ「忖度の極み」ではないか。日本銀行法第3条第1項では「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」として、金融政策の独立性について定められている。しかし、現状はどうだろう。日銀はアベノミクスを忖度し、金融政策の独立性をもはや放棄してしまったと言わざるを得ない。

そして忖度は「妖怪」を生み出す

「これが、国会の証人喚問なのか……」忖度の結果、何が生まれたのか、我々は国会中継で目の当たりにしたはずである。

もはや誰も手を付けることができなくなってしまった「妖怪」を証人として国会へ招き入れ、与野党ともに大混乱となる様をテレビ中継は写し出していた。メールのやり取り、ファックスの内容、国会はもはや「国家の将来を論じる場」ではなく、芸能人のスキャンダルを伝えるワイドショー並みの俗っぽい舞台と成り果ててしまった。

そんな光景を目の当たりにして、私は安定政権と引き換えに、我々日本国民にとって極めて貴重なものを失ってしまったことを痛感せずにいられなかった。失われた貴重なもの、それは「相互牽制」だ。

長期安定政権では三権分立が本来目指していた「相互牽制」が有効に機能しなくなる。「相互牽制」を目的とした組織体制が整っていなくとも、組織のなかに対抗勢力があれば、自然と「相互牽制」が働くはずである。そう、かつての自民党がそうであったように。

にもかかわらず、いまや誰もが「長いものには巻かれる」のが正義と言わんばかりである。そんな空気が忖度を助長し、とんでもない「妖怪」を生んでいる。

「魚は頭から腐る」

忖度は政治家や行政固有のものではない。あなたが所属する組織でも忖度が発生する素地はないだろうか。

「役員の息のかかった案件だから、絶対にこの案件は通さなければいけない」そんな経験はないだろうか。そうなれば、当然結果ありきで行動せざるを得ないのが組織だ。「役員に話は通してあるからうまくやってくれ」取引先から直接そんなことを言われればもう最悪以外のなにものでもない。

私は銀行員として、そんな案件には概してロクなものがないことを経験的に理解している。それらの案件は「通常であれば否決されるべき」ものであるにもかかわらず様々な忖度がなされるのだ。

万一、その案件が失敗したとき、忖度を求めた人達は責任を取る覚悟があるのだろうか。まさか、彼らが責任を取るはずもないことは誰だって分かるだろう。それが彼らのやり口なのだ。

「相互牽制」の機能しない組織に未来はない

一見、強いリーダーシップによって支えられていると思われるような組織こそ、実は忖度が日常的に行われている可能性があることを警戒しなければならない。

そうした組織では、強いリーダーに対し誰も意見できず、組織のなかでの「相互牽制」が十分に機能しなくなる危険性を内包しているのだ。「魚は頭から腐る」とはよく言ったもので、忖度こそ魚を腐らせる原因に他ならない。

忖度とは本来「他人の心をおしはかる」という意味であり、決して悪いことではない。だが、忖度を相手に求めたり、強要するようなことが常態化するととんでもない「妖怪」を生み、組織を腐らせることになる。あなたが所属している組織、忖度に侵されてはいないだろうか。そこに「妖怪」が巣くってはいないだろうか。(或る銀行員)

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