シンカー:日本の景気回復は順調に進行しているようだが、日銀の展望レポートのリスクバランスには、「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」という警戒感がまだ残っている。1-3月期の短観では企業も同様の警戒感をまだ持っていることが確認され、4-6月期以降の結果でそれがある程度払拭されたことを確認できないと、日銀の展望レポートのリスクバランスを中立的にすることは難しいだろう。グローバルな景気循環は好転しており、これから発現する景気対策の効果を含め内需の拡大の力が強くなる方向性はしっかりしており、様々な不透明要因がクリアになっていくに従い、企業の業況感は大きく好転するアップサイドは大きいとみられる。
日本の景気回復は順調に進行しているようだが、日銀の展望レポートのリスクバランスには、「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」という警戒感がまだ残っている。
リスクバランスを中立的にできるかどうかは、1-3月期の日銀短観を含め、更なる経済データの確認が必要になっていた。
大企業製造業業況判断DIは+12と、10-12月期の+10から2四半期連続で改善した。
グローバルな生産・在庫循環の好転と円安が支えとなっている。
大企業非製造業業況判断DIも+20と、10-12月期の+18から3四半期ぶりに改善した。
株価が持ち直し、失業率が3%を下回った雇用環境の改善とあわせて、消費者心理を支えている。
利益計画が大幅に上方修正され、足元の景況感は改善したが、課題は4-6月期の先行きDIで、大企業製造業は+11、大企業非製造業は+16と悪化がまだ見込まれていることだ。
日銀はリスク要因として、「米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、中国をはじめとする新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱問題の帰趨やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスク」と挙げている。
大企業製造業の2017年度のドル・円の想定レートは108.43と前回の103.36から円安になっているが、まだ不透明感が強いだけに、若干の円安だけで景況感が大きく持ち上がる局面ではないようだ。
今回から公表される2017年度の大企業設備投資計画は前年比+0.6%となり、弱くスタートする季節性を考慮すると、堅調なスタートであるが、加速感はまだ感じられない。
1-3月期の短観では企業も日銀と同様の警戒感をまだ持っていることが確認され、4-6月期以降の結果でそれがある程度払拭されたことを確認できないと、日銀の展望レポートのリスクバランスを中立的にすることは難しいだろう。
循環的な景気回復モメンタムの高まりと、FEDの利上げを背景とした米国の長期金利上昇などにより、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっているようだ。
しかし、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、日銀は国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。
日米金利差の拡大と若干の追加的な量的緩和効果などが、更なる円安の動きをもたらし、日本のデフレ完全脱却への動きを促進するため、日銀は辛抱強さが必要であると考えているのだろう。
黒田日銀総裁と中曽副総裁は、「2%の物価安定の目標」の実現には、依然としてなお距離がある」と指摘しており、国債買いオペの限界などが理由で、日銀が長期金利の誘導目標を早急に引き上げることはないと考える。
長期金利の誘導目標引き上げの前倒しの必要条件は、コアCPIの前年比が1%、ドル・円が120円を超えることであると考える。
そして、2%の物価安定の目標へのパスがしっかりしていることを確認するため、展望レポートのリスクバランスから「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」という警戒感が消え、リスクバランスの中立化により、2%の物価安定の目標へのパスがしっかりしている確信が得られたことが示されることが必要だろう。
日銀のマイナス金利政策の副作用があれば、金融機関の収益を圧迫することによる貸出態度の消極化に現われるはずだ。
1-3月期の中小企業貸出態度DIは+20と、10-12月期月期の+21から若干低下している。
マイナス金利政策が始まる前の昨年10-12月期の+17をまだ大幅に上回っており、副作用は明確には確認できない。
しかし、マイナス金利政策を含む金融緩和の推進だけでDIが押しあがる局面は終わっており、政府が決定した景気対策の効果の発現や、グローバルな景気・マーケットの安定感など、実態経済の明確な回復が必要になっているようだ。
景気対策の効果のこれからの発現を考慮すると今回のDIの低下は心配ではなく、株価等の金融市場の改善にも支えられ貸出態度は引き続き極めて緩和的であり、企業の事業拡大を支援し、失業率の更なる低下、そして賃金上昇を先導する形を維持していると考える。
賃金の強い上昇を含めたデフレ完全脱却の動きには更なるDIの上昇が必要であり、マイナス金利政策の副作用の有無を含めて、引き続きDIに注目していく必要がある。
全規模全産業の雇用人員判断は-25(10-12月期は-21)と人手不足が更に強くなり、企業は効率化と省力化を、設備・機器への投資で進めなければならなくなっている。
4月の新年度入り後の雇用の確保に苦戦していることが、非製造業の業況判断の先行きDIの重しになっている可能性があり、政府が決定した働き方改革の工程表が順調に遂行されていく必要があろう。
グローバルな景気循環は好転しており、これから発現する景気対策の効果を含め内需の拡大の力が強くなる方向性はしっかりしており、様々な不透明要因がクリアになっていくに従い、企業の業況感は大きく好転するアップサイドは大きいとみられる。
条件が満たされるのは時間の問題であり、長期金利の誘導目標引き上げられるのは2018年前半と予想する。
2018年4月までの任期である黒田日銀総裁が任期中に景気・物価動向が上向いた実績をアピールする意欲があった場合、引き上げは2018年の1-3月期になる可能性がある。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司
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