中国国家統計局は17日、2017年1-3月期の成長率、3月の月次統計を発表した。結果はいずれも事前予想を上回る内容となった。

2017年1-3月期の実質経済成長率は6.9%で、2016年10-12月期の市場コンセンサスである6.8%を0.1ポイント上回った。3月に開催された全人代で決められた今年の成長率目標は6.5%程度であるが、これを0.3ポイントほど上回っている。

2008年に発生した金融危機に対応するため、中国は4兆元の内需拡大策、大幅な金融緩和を行い、V字回復を達成したものの、成長率は2010年をピークに減速傾向にあった。2010年代は行き過ぎた景気対策の結果として生じた前倒し、無駄、重複、不要不急の投資の後遺症、設備過剰、不動産バブルに手を焼いたものの、今回は、前回に引き続き、成長率が前四半期を上回った。

2四半期連続の回復は景気がピークアウトして以来初めてである。金融危機の後処理がひと段落したと考えてよさそうだ。

需要項目の動き、直近の動向を分析するためには月次データの方が使いやすい。各指標についてそれぞれ3月と1、2月のデータとを比較してみたい。

生産構造の高付加価値化が進展

中国経済
(写真=PIXTA)

3月の鉱工業生産は7.6%増で、1・2月の6.3%増と比べ1.3ポイント高く、市場コンセンサスを1.3ポイント上振れした。具体的な生産量を見ると、3月の鋼材生産量は0.7%減、電解アルミは2.5%増、自動車は4.8%増で、それぞれ1、2月と比べ伸び率は鈍化している。

一方、集積回路は30.4%増、スマートフォンは18.3%増、パソコン(CPUを有するタブレット、ゲーム機などを含む)8.3%増、産業用ロボットは78.2%増、天然ガスは10.5%増、発電量は7.2%増で、それぞれ1、2月と比べ伸び率は加速している。

そのほか、セメントは0.3%増、エチレンは2.5%減、原炭は1.9%増、原油加工量は5.9%増で、いずれも、1、2月よりも伸び率は加速しているものの、依然として全体の伸び率である7.6%増を下回っている。

石炭、鉄鋼、セメント、電解アルミなど生産過剰セクターの生産量が全体をけん引しているわけではない。発電量では、太陽光発電が28.7%増、原子力発電が23.0%増、風力発電が12.1%増である。発電方式の転換が進んでいる。自動車の伸び率は低く、乗用車に限れば4.8%減であるが、SUVは23.7%増、新エネルギー自動車は17.9%増で、生産構造の高付加価値化が進展している。少なくとも、ミクロの生産状況を見る限り、政府による需要刺激策が生産拡大をけん引している印象はない。

3月累計の固定資産投資、公共投資、不動産投資がけん引

固定資産投資について、3月累計は9.2%増で、2月累計の8.9%増と比べ0.3ポイント改善、市場コンセンサスの8.8%増と比べ0.4ポイント上振れした。

産業別のウエートを示すと、第1次産業は2.5%に過ぎず、第2次産業は37.4%で、第3次産業は60.1%ある。3月累計の伸び率を順に示すと、19.8%増、4.2%増、12.2%増である。寄与率を見ると、順に5.2%、16.7%、78.0%(四捨五入のため合計が100にならない)で、第3次産業の成長貢献が圧倒的に大きい。

中でも、ウエートの大きなところで伸び率が高いのは、公共設備管理業が27.4%増、道路輸送業が24.7%増などである。また、全国不動産開発投資は9.1%増で前月よりも0.2ポイント高くなっている。まとめれば、製造業は5.8%増で2月累計の4.3%増と比べれば加速しているものの、全体の貢献度から言えば低く、公共投資や不動産が設備投資をけん引している。

不動産投資の伸び率が加速している点について、不動産バブルが発生しているのに不健全ではないかといった見方もある。しかし、不動産バブルは投機的取引が問題であり、実需はそれとは無関係である。

政策面では、3月中旬以降、各地方政府において、徹底した2件目以上の住宅取得制限を強化している。投機需要が抑えられる中で、強い実需にこたえるために不動産供給を増やしているのである。もし、逆にここで供給を絞れば、価格は下がらず、逆に上がってしまう。不動産開発投資の拡大と不動産バブルの助長は分けて考える必要がある。

3月の小売売上高は10.9%増で1、2月の9.5%増と比べ1.4ポイント改善、市場コンセンサスの9.7%増と比べ1.2ポイント上振れしている。この統計は、毎年1、2月の伸び率は前年の12月と比べ、低くなる傾向がある。

一部のマスコミはその点を見過ごしており、1-3月の消費は低迷していると説明しているが、そうではないだろう。所得水準の向上に伴う消費の高度化、電子商取引の拡大、消費の農村部への拡散といった大きな構造変化を背景に、消費が景気を支えているとみた方が良いだろう。だから、生産が好調なのである。

そのほか、3月の消費者物価指数は0.9%上昇で、前月と比べ0.1ポイント高く、市場コンセンサスである1.0%上昇と比べ0.1ポイント下振れした。工業品出荷価格指数は7.6%上昇で、前月と比べ0.2ポイント低く、市場コンセンサスと一致した。物価は安定している。

3月の輸出(人民元ベース、以下同様)は22.3%増で、前月と比べ18.1ポイント改善、市場コンセンサスである8.0%増と比べ、14.3ポイント上振れした。輸入は26.3%増で、前月と比べ18.4ポイント悪化したが、市場コンセンサスである15.0%増と比べ、11.3ポイント上振れした。内需、外需ともに、予想を上回る強さである。

中国経済は内需主導型経済へと着実に移行中

月次統計を細かく分析する限り、足元の景気に過熱感はない。金融政策を早めに中立から引き締め方向に誘導していることから考えて、共産党は、秋の共産党大会を前に、景気を無理に浮揚させようとしているようには見えない。

景気はハイテク、インターネット産業の勃興、消費の高度化・農村への拡散などといった大きな構造変化の流れに乗って、内需主導型経済へと着実に移行していると考えるべきだろう。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。HP: http://china-research.co.jp/

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