シンカー:日銀の長期金利の誘導目標引き上げの必要条件は、リスクバランスの中立化に加え、コアCPIの前年比が1%、ドル・円が120円を超えることであると考える。日銀は、物価が目標から短期的にオーバーシュートすることを許容しており、リスクバランスの中立化も、フォワードルッキングよりも成長率と物価の上ぶれの事実確認を重要視して時間をかけて実施することになるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

4月26・27日の日銀金融政策決定会合では、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、目標からの短期的なオーバーシュートの許容とマネタリーベースの拡大方針を含む「長短金利操作付き、量的・質的金融緩和」を継続し、日銀当座預金残高の金利を-0.1%程度、長期金利を0.0%程度とする政策の現状維持を決定した。

1-3月期の日銀短観では、企業の足元の業況感の改善が続き、失業率は更に低下し、生産活動にも先行きの明るさが見え、景気回復が順調に進行していることが確認できていた。

日銀は、景況判断を「緩やかな回復基調を続けている」から「緩やかな拡大に転じつつある」へ上方修正した。

次のマーケットの注目は、「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」としているリスク・バランスをいつ中立化するのかである。

日銀は4月26・27日の金融政策決定会合における政策委員の主な意見を公表した。

政策委員の間では、「プラスの需給ギャップが定着しつつある」中で、「潜在成長率を上回る高めの成長を続ける」との予想がコンセンサスになっているが、「欧州の政治情勢、米国の経済政策運営、地政学的リスクなど、ダウンサイドリスクが大きい」とまだ判断されているようだ。

物価に対しても、「足もとの動きは鈍いが、今後景気の緩やかな拡大が続き、需給ギャップのプラス幅が一段と拡大してくれば、次第に明確な上昇に転じる」との予想がコンセンサスになっているが、「予想物価上昇率の形成は適合的であり、物価上昇率が高まっていくには暫く時間がかかる」とも判断されているようだ。

成長率と物価が、景況感の改善に迅速に反応するのか不確実性が残るため、実際に成長率と物価に上振れがみられるまで、「ダウンサイドリスク」に対する言及が残る可能性が高い。

日銀は、物価が目標から短期的にオーバーシュートすることを許容しており、リスクバランスの中立化も、フォワードルッキングよりも成長率と物価の上ぶれの事実確認を重要視して時間をかけて実施することになるだろう。

日銀の政策に対してマーケットが注目しているのは、米国の長期金利が低下したこともあり、長期金利を0%程度に誘導するための日銀の国債買いオペは80兆円も必要がなくなっている状況を日銀がどう判断しているのかというだ。

日銀が政策目標を量から金利に変更したため、日銀のオペは民間の資金需要の季節性の影響により増減しやすくなったとみられる。

マネタリーベースの季節性は、1-3月期は弱いため、テクニカルにオペの負担が減っていた可能性がある。

6月のFEDの再利上げが意識され米国の長期金利が上昇に転じるとともに、4-6月期以降はマネタリーベースの季節性は強いため、日銀の国債買いオペのペースは再び上がってくる可能性がある。

よって、日銀は、国債買いオペのペースのめどである「年間80兆円」という文言を維持していると考えられる。

政策委員の間では、「国債買い入れ額の変動は、現在の政策枠組みの導入当初から想定されたものであり、現状、年間80兆円のめどとの関係で問題が生じているとは考えていない」との意見がコンセンサスのようだ。

日銀が説明しているように、国債買いオペの額の増減が、緩和のテーパリングなどの政策意図を含んでいることはないだろう。

日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。

政策委員の間では、「物価上昇圧力は緩やかであり、物価安定の目標の達成に向けた経済の好循環を支えるべく、現在の金融政策を継続するべきである」との意見がコンセンサスのようだ。

長期金利の誘導目標引き上げの必要条件は、リスクバランスの中立化に加え、コアCPIの前年比が1%、ドル・円が120円を超えることであると考える。

グローバルな景気循環は好転しており、これから発現する景気対策の効果を含め内需の拡大の力が強くなる方向性はしっかりしており、様々な不透明要因がクリアになっていくに従い、企業の業況感は大きく好転するアップサイドは大きいとみられる。

これらの条件が満たされるのは時間の問題であり、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは2018年前半と予想する。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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