香港ハンセン指数が上昇している。5月23日の場中では高値25486.98ポイントを付けており、これは2015年7月23日以来、1年10か月ぶりの高値である。一方、上海総合指数は5月11日に場中で年初来安値3016.53ポイントを記録した後、自律反発していたが上値は重く、23日の終値は3061.95ポイントに留まっている。
本土市場における最近の株価低迷はこれまで伝えてきた通り。雄安新区建設、一帯一路サミット会議開催など、本来なら株式市場を活気づける好材料があるものの、それ以上に投機抑制、金融レバレッジの縮小、流動性の収縮など、ネガティブな政策の影響が強く、弱気相場となっている。
香港市場が好調な3つの要因
では香港市場はなぜ好調なのだろうか? 要因は3つほど考えられる。
1つ目は、本土市場から資金が流入している点である。本土の個人投資家が香港個別銘柄を買う場合、上海、あるいは香港のストックコネクト制度(上海・香港株式相互取引制度)を利用しなければならない。また、海外個人投資家が本土A株を買う場合も、同様である。
今年に入り、これらのルートで資金がどの程度流出入したか調べてみると、はっきりとした傾向が見て取れる。両方向とも、資金は流入基調であるが、その額は香港から本土へ流入する資金よりも、本土から香港に流入する資金の方が多い。その差額を示すと、1月は97億元、2月は139億元、3月は221億元、4月は138億元で、5月に入ってからは23日までで既に206億元に達している。
売買代金と流入額を比べると、例えば4月における香港市場の売買代金が1兆2202億香港ドルであるのに対して、本土から香港への資金流入額は266億元で、1香港ドル=0.89元で計算すると、2.4%に過ぎない。しかし、流入した資金は回転する。また、5月23日現在、これまでに本土から香港に流入した資金累積額は5212億元に達し、これらの資金も一部は回転するはずだ。そうした観点から、中国から流入した資金による香港市場の押し上げ効果は、アナウンスメント(香港マスコミが本土から資金が流入していると伝えることによる)効果も合わせると、決して無視できるほど小さくないといえよう。
2つ目は、欧米機関投資家のリスク許容度が高いという点である。それはNY市場の動向を見ればわかる。NYダウについては、2月?3月上旬にかけて上昇、その後軽い押し目を作ったが、4月下旬に高値圏に戻している。5月17日には1.8%下落したものの、その後は戻り歩調となり22日現在、下げた分の8割弱を戻している。今年に入ってから欧米機関投資家はリスクオン姿勢を取り続けているといえよう。
3つ目は、米ドル為替レートが多くの通貨に対して弱含みであるという点である。香港金融当局は香港ドルを米ドルとペッグさせており、米ドルが他通貨と比べ高くなれば、香港ドルの金利を引き上げるなどの金融政策によって、香港ドルを他通貨と比べ高く保つようにしなければならない。しかし、今年に入ってからのドルの実効レートを表す米ドル指数の動きをみると、ボラタイルな動きを続けてはいるが、大きな流れをとらえれば、米ドル安方向に動いている。米ドル安であれば、香港ドルとの均衡を保つために、香港ドルの供給を増やす必要がある。これは香港市場にとって確かな好材料である。
これら3つの好材料が重なったわけだが、香港市場では本来、こうした需給要因に加えファンダメンタルズ要因が大きな影響を与える。その点については、1~3月のマクロは好調、4月は少し不安の残る内容であった。企業業績については、全体的にほぼ予想通りで、ハイテク関連などはむしろ予想を上回る結果であった。ファンダメンタルズ要因としては、足元の株価にあまり影響を与えなかったようだ。
今後の香港ハンセン指数見通し「上値は重いが、下値は堅い」
これからも上昇が続くだろうか?
需給要因については、概ね楽観できそうだ。本土では、金融リスク縮小政策が強化されている。本土市場が今後、大きく下げるとは思わないが、上値は重そうだ。本土からの資金流入は今後も続く可能性が高い。また、米ドル為替レートだが、トランプ大統領の減税政策、インフラ投資政策は実施が後にずれ込みそうだ。利上げ見通しが弱まる中で、米ドル安と予想する。投資家のリスク許容度については少し心配な面もある。アメリカの政治的混乱が深まるようだと、香港への資金流入が細る可能性がある。
ファンダメンタルズ要因に関しては、大きな改善は望めそうにない。供給側改革の景気浮揚効果は小さく、PPP(官民連携)関連プロジェクト認可が増えること、混合所有制改革が進むことなどが、景気を下支えしそうだが、当局が金融リスク縮小を進める中では景気の急拡大までは望めない。
ファンダメンタルズ要因から上値は重そうだが、好調な需給要因に支えられて、下値は堅そうだ。
田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:
http://china-research.co.jp/
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