カールといっても『刑事犬カール』のことではない。明治のスナック菓子「カール」のことだ。約50年にわたって愛され続けた国民的お菓子「カール」の全国販売終了のニュースは多くの人に衝撃を与えたことだろう。

事実、都内のコンビニやスーパーマーケットでは品切れが続出して入荷の見通しが立たない状態、TwitterなどのSNSでは全国販売終了を「惜しむ声」が相次ぎ、ネットオークションではカールの価格が高騰する珍事まで起きている。一方でそうした「カールショック」にも株式市場では目立った反応が見られず、明治の対応も冷静そのものだった。

過去の栄光との決別……明治にとっては恐らく歴史的な大英断だったに違いない。カールの全国販売終了は明治の新しい成長ステージに向けた意思表示なのだろう。

攻めの経営を推進する明治HD

カール,売り切れ
(画像=Webサイトより)

2009年、明治乳業と明治製菓が統合した持ち株会社、明治ホールディングス <2269> が誕生した。この瞬間から、同社は事業の再編や医薬品の強化、機能性ヨーグルトの強化による高付加価値化など、スピード感のある「攻めの経営」を推進することとなる。

同社の傘下には「明治」と「Meiji Seikaファルマ」がある。明治は牛乳・乳製品、菓子、スポーツ栄養食品、高齢者向け食品など「食」にかかわるセグメントをカバーしている。一方のMeiji Seikaファルマは製薬セグメントをカバーしている。

統合後初の決算となる2010年3月期は、売上1兆1066億円、営業利益288億円、営業利益率2.6%だった。それが2017年3月期の売上は1兆2425億円、営業利益884億円、営業利益率7.1%にまで拡大している。この7年間で売上は12%増ながら、営業利益は3.1倍に急増したのである。2018年3月期も、売上は1.5%増の1兆2610億円、営業利益6.9%増の945億円、営業利益率は7.5%に拡大する見通しで、営業利益ベースで6期連続増収増益となり、過去最高益の更新が予想されている。

株価は持ち株会社としての初値1800円から2016年7月には1万930円の高値を記録、実に6倍となった。その後は調整ムードが広がったものの、それでも株式市場の評価は食品業界のなかでも高いと言えるだろう。

「カールショック」にも株価は反応せず

カールの全国販売終了も「攻めの経営」の一環なのかも知れない。実際、カールの売上はピーク時の約190億円から最近では約60億円に落ち込んでいたという。5月25日、明治はスナック菓子「カール」のラインアップを「チーズ味」と「うすあじ」に集中し、販売地域を関西地域より西に限定すると発表した。

冒頭でも述べた通り、カールの全国販売終了はさながら「カールショック」の様相を呈したが、株価に目立った反応は見られなかった。26日の明治HDの株価は0.2%高で始まり、引けは0.2%安、出来高も特に膨らまず、連想・ご祝儀が大好きな株式市場で材料視されなかった。

会社のコメントも「本来完全撤退してもよかった」「採算が合わないから関東からは撤収する」など、淡々とした説明。生産を愛媛工場だけにして、2品種に絞り込み、流通もコストのかからない西日本地域だけに限定すれば赤字にならない。品目削減は採算改善にもつながる。歴史や伝統よりも、「選択と集中」の道を歩むことに決めたのだろう。

Twitterなどの投稿からは、消費者のノスタルジックな想いが伝わってくるが、スナック菓子というジャンルが「時代に合わなくなってきている」ことは否定できない。

たとえば、スマホとPCを一日中触っていることの多い現在「油っぽくなる」スナック菓子は敬遠されがちだ。若い人の中にはカールを箸で食べる人も増えているとか。それに昨今のアンチエイジング、健康食品ブームにも逆行している。たばこの市場が急速に縮小しているように、カールは時代に合わない商品になっているのだろう。

伝統とは取捨選択するもの

多くの産業がそうであるように、食品業界もグローバルベースで生き残りをかけた戦いに直面している。もはや過去の名声と遺産に酔いしれている暇など、最前線の経営陣にはないのだろう。ストイックなまでの収益重視・株価重視の経営が求められるのだ。

伝統は守るだけではなく、取捨選択するものだ……そう分かっていてもなかなか出来るものではない。なればこそ、筆者は明治HDの決断にエールを送りたい。ただ、時々で良いので関東でも期間限定のカールを発売して欲しいものだ。(ZUU online 編集部)

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