筆者の経験上、「製品価格の値上げ」はその会社の株価上昇をもたらす傾向が強い。
あくまで筆者の経験則であるが、たとえば最近ではブリヂストン <5108> の株価上昇をあげることができる。

6月2日、ブリヂストンは年初来高値となる4900円を付けた。1月安値からの上昇率は20%を超え、日経平均株価のそれを大きく上回っている。今回は、同社の株価上昇の背景を交えながら、投資初心者にぜひ覚えて頂きたい「製品価格と株価」のメカニズムについて解説しよう。

ブリヂストン、6年ぶりのタイヤ値上げ

ブリヂストンの株価が上昇した主因は「タイヤ価格の値上げ」である。同社が国内でタイヤを値上げしたのは、2011年以来6年ぶりのことだ。今回は乗用車向けの「夏タイヤ」で平均6%の値上げとなった。

値上げの理由は原材料の一つである「天然ゴム」価格が高騰しているためだ。
東京商品取引所で取引されている天然ゴムの先物価格は、2016年1月のキロあたり150円レベルから年末には300円を超え約2倍に跳ね上がった。原油高、円安の影響に加え、中国で自動車が普及期を迎えタイヤ需要が増大していること、さらにそうした要因を手掛かりに「天然ゴムが投機化している」との指摘もある。足下では200円レベルまで値下がりしているものの、情勢はなお不透明だ。

ちなみに、天然ゴムの供給はタイ、インドネシア、マレーシアの3カ国で7割を占めており、目下のところ供給が大幅に拡大するのは見込めないという。一方で中国の需要が拡大するのはほぼ確実と見られている。

ブリヂストンの四半期ベースでみた営業利益率は2016年7〜9月で13.9%、それが10〜12月に13.5%、2017年1〜3月は12.1%と低下する傾向にある。天然ゴムの価格高騰とともに採算が悪化しているのだ。このような情勢を背景に、同社はタイヤの値上げを決断したのである。

ブリヂストンがタイヤの値上げに踏み切ったのは国内だけではない。3月には北米地域ですべてのタイヤが値上げの対象となり、製品によっては最大8%も値上げしたという。欧州でも昨年12月から今年1月にかけて乗用車用で最大3%、トラック・バス用で最大1.5%値上げしている。

もちろん、ブリヂストン以外のタイヤメーカーも値上げを実施している。ライバルの仏ミシュランや米ファイヤストーンも値上げに動いたほか、国内でも住友ゴム工業 <5110> 、東洋ゴム工業 <5105> 、横浜ゴム <5101> も追随する見込みだ。

製品値上げは「業績好転」のチャンス?

筆者の経験上、株式市場では「原材料高は売りのサイン」だが「製品価格の値上げは買いのサイン」となることが多い。

原材料高が「企業収益を圧縮」するのは、投資経験のない人でも簡単に理解できるだろう。ただ、製品の値上げはタイミングを間違えるとかえって需要の冷え込みを招くリスクも伴うので、疑問に思う人がいるかも知れない。

もちろん、値上げは「環境が上向いているとき」でないと浸透しない。今回は世界的に景気も回復しつつあり、消費者も値上げを受け入れやすい環境であったといえる。値上げが浸透しやすいということは、原料高をカバーできるということだ。原料高をカバーできれば当然業績の上方修正も期待できる。

「製品価格と株価」のメカニズム

ちなみに、SMBC日興証券のアナリストレポートによると、ブリヂストンのタイヤ値上げ効果は1000億円で、天然ゴムの価格急騰による原材料高デメリットの70%をカバーできると予想している。そのうえで、2017年12月期の会社予想の営業利益4520億円も4750億円に上方修正している。アナリスト平均の今期コンセンサス営業利益予想も4613億円と会社予想を上回っている。

自動車産業は「景気の屋台骨」とも言われるが、タイヤも同様で「景気敏感商品」と呼ばれることがある。今年3月には米グッドイヤーが、5月にはフランスのミシュランがそれぞれ上場来の高値を更新した。世界のタイヤメーカーの株価は相関関係が高く、ブリヂストンも今期の上方修正で2015年の史上最高値5182円にチャレンジする場面があるかも知れない。

今回はブリヂストンを例に「製品価格と株価」のメカニズムを取り上げたが、鉄鋼やセメント、原油、半導体DRAMなども同じである。原材料高を背景とした製品価格の値上げで企業業績が回復し、株価も上昇するケースは実に多い。原油高を背景とした石油製品の値上げで、石油会社や商社の株価が上昇するのも、今回のブリヂストンと同様の「製品価格と株価」のメカニズムが働いているためだ。

株式投資をするうえで「製品価格と株価」のメカニズムは、ぜひ覚えておきたいものである。(ZUU online 編集部)

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