筆者はこれまで多くの顧客の老後資金計画作りに携わってきた。出だしから少しキツイ話から入るが、その経験から9割方の「普通の家庭」の金融資産は70代や80代というまだ生きていると考えられる時期に枯渇してしまう可能性が大きいことを、身をもって感じている。

金融資産の枯渇の度合いは、家庭により様々だが、資金枯渇になる可能性は年収1000万円以上の家庭でも同じである。なぜ収入が多くても資金枯渇してしまうのか? 老後破産に向かう家計の特徴を紹介し、同時に解決策も示していこう。

意外と貯められていない

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(写真=PIXTA)

金融広報中央委員会「2016年家計の金融行動に関する世論調査」によると、二人以上世帯の金融資産ゼロの割合は50歳代29.5%、60歳代29.3%ということだ。

まず注目したいのが60歳代の預金ゼロ率。今、60歳代といえば、右肩上がりの時代を駆け抜けてきた団塊世代が含まれる。団塊世代といえば、現役時代の職業、勤め先、収入等により一概には言えないが、まだ老後の社会保障面では若い世代にとっては「うらやましい」と映つる年代かもしれない。

しかし、そのような団塊世代も30%弱が貯蓄率ゼロ。

筆者も実は、FP相談現場で団塊世代でも意外とお金を残せていないという印象を持っている。この年代の方は決まって、「定年まで勤めていれば、給料も毎年上がり、退職金も、年金もあり何とかなると思っていた。この年になって将来不安を持つことになるとは考えてもいなかった。計画的にお金を使うべきだった」ということを口にする。

あくまでも気持ち、若しくは感覚的な問題であるが、これは定年まで勤めあげても、第二の人生を、ゆとりを感じながら生活してゆくだけの資金を残せなかったことを意味する。

将来に比較的不安を持っていなかったであろう、団塊世代も現役時代のように無計画に、気の向くまま消費を続けると老後破産の可能性は大いにあるということだ。

キャッシュフロー分析のススメ

冒頭、9割の家庭がある時期に資金枯渇することを伝えたが、大方の家庭が「支出」が、「収入」と「金融資産」の範囲内に収まっていないからだ。筆者は、その診断をキャッシュフロー分析で行っている。

キャッシュフロー分析とは、今後の「支出」「収入」「金融資産」のバランスから、どこかの時点で資金が枯渇してしまうのかという可能性を確認するものだ。無計画に時間を過ごすと「なんとかならないかもしれない」と多くの人が将来への危機感を持つことになるだろう。

「危機感」をいかに早く実感として持つことができるかが老後破産回避の一歩となる。

作成には有料でFPに依頼する方法もあるが、最近はインターネットで無料のキャッシュフロー表作成ツールが多く公開されている。このようなツールを使用し、年齢、支出、収入、金融資産等を指示に従い順に入力すると、生涯の資金の流れがある程度は想定できるキャッシュフロー表が作成できる。一例であるが「生命保険文化センター」が公開している無料ツールを紹介しておく。

「生命保険文化センター」e-ライフプランニング
http://www.jili.or.jp/consumer_adviser/plan.html

では、どうして9割方の家庭が資金枯渇してしまうのか? その大きな要因は「わからないままの思考停止」と「使いすぎ」である。以下、筆者のキャッシュフロー分析の経験から資金枯渇に向かう家計の特徴を紹介する。

退職金を把握していない

キャッシュフロー作成時の収入には、退職金、年金も含まれる。

老後破綻する家計の特徴として、いくら退職金を受け取ることができるのか知らないことも挙げられる。本当は退職金が受け取ることができるにもかかわらず、貰えない、もしくは会社には退職金制度がないと思い込んでいる人も多い印象を持つ。

退職金については会社の人事担当等に確認をするしかなく、最初は、聞き辛く、ためらってしてしまうこともあるだろう。しかし、定年後の生活を支える大切な資産であるため、そこは、少しの勇気を持って確認する手間をかけていただきたい。

いくら年金をもらえるか把握していない

ここでいう年金とは、公的年金といわれる国民年金や厚生年金である。最近は、年に一度「ねんきん定期便」が送られてくるので定期的な確認は可能だ。しかし、これも意外と「見たこともない」という人は多い。

これも老後破綻する家計の特徴といえる。思考停止にならずに、是非、年金もいくらくらい受け取ることができるのかを確認いただきたい。

見方が分からない場合、電話や年金事務所窓口に問い合わせすれば、少し失礼な言い方にはなるが「意外」と親切に教えてくれる。また「ねんきんネット」に登録すれば、自宅のパソコンやスマホで、年金の情報が24時間いつでも確認ができる。

「ねんきんネット」
https://www.nenkin.go.jp/n_net/

営業さんにお任せで加入した保険を放置したままにしている

保険や金融商品は難しいからと金融機関の担当者に丸投げしてしまうのも、老後破産する家計の特徴だ。20代や30代から営業さんに勧められるまま、更新型の保険に加入し、いよいよ保険料が払いきれない金額までアップする定年直前に見直しを検討するパターンが多い。もっと早く、効率的な保障の確保方法はないかと保険見直しに着手していれば、生涯で100万円単位で保険料負担の圧縮ができていたかもわからないのである。

最近は各保険会社の商品開発が活発であり、探せば安く必要な保障を効率的に確保しやすい環境が整ってきている。

筆者は、保険見直しについては、安くて保障内容が改善されるのであれば、後は保険会社で手続きをするだけで済むため「苦痛を伴わない支出削減策」と呼んでいる。それは住宅ローンも含めた、ローン見直し策も同じであり、家計見直しには、見直しの余地があればであるが、保険とローンの見直しからの着手を推奨している。歳を重ねライフステージが変われば、必要な保険も変わるものだ。

収入に余裕があるゆえの使いすぎ

日々の生活支出面からも老後破産する家計の特徴が見える。それは食費や通信費、他生活雑貨等に見直しの余地があると考えられる家計の場合である。

共働きの場合、特に、食費に占める外食費の割合は多くなる傾向にある。現役時代、収入が定期的に確実に入っている間は、収入の範囲内で収まっていることもあり問題視することもなく生活をおくることはできるだろう。

しかし、見直しの余地があるであろう支出面の積み重ねが、後々、老後破産の要因になりうる可能性は大いにある。支出面に見直し余地がある場合、筆者は、月1万円や2万円といったレベルからの見直し提案を行っている。この見直しが達成できるだけでも老後破産を回避できることもあるのである。

いかがだろうか? 今回の話が、「自分はどうなのか?」と考えるきっかけとなり、生涯、お金に困ることのない生活設計作りの役に立つことを望んでいる。

寺野 裕子
てらの・ファイナンシャルプランニングオフィス代表 CFPR・1級FP技能士、投資助言業
2008年FP相談業務開始。2014年事務所運営スタイルを金融機関等からの紹介手数料等は一切得ず、報酬は顧客からの相談料のみとするフィーオンリーへ移行。「ファイナンシャルプランニングは100人100様」をモットーにライフプランの実行支援を行っている。FP Cafe登録パートナー

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