先週、私の職場で脳科学者の茂木健一郎氏のTwitterが話題となった。ご存知の人も多いことだろう。

今日の夜、東京のある駅の近くを歩いていたら、全く同じようなリクルートスーツをきた学生の集団が数十人、騒ぎながら通り過ぎていた。画一性。没個性。この国は、本当に終わっているんだなあ、と思った。経団連のお墨付き。

上記のツイートへの反応は様々である。だが、学生たちを非難するのは筋違いだ。彼らが個性を失っているのではない。社会や企業が彼らの個性を「否定している」のだ。これは就活生だけの問題ではなく、銀行の金融商品販売の現場にもそのまま当てはめることができる。個性的なセールスを「否定する」銀行の風潮も本質的には同じ問題を内包している。

若者の「個性を否定」する社会・企業

私が就職活動を行っていた20年前と現在とでは状況はまったく違っている。にもかかわらず、経団連が頑なに維持する「新卒一括採用」という横並びのシステムに学生も、採用する企業側も疲弊しきっているように見える。

できる限り早く優秀な学生を囲い込みたい企業と、少しでも早く内定が欲しい学生の「腹の探り合い」が採用活動の解禁日まで悶々と続く。互いに神経をすり減らしながらの持久戦だ。

経団連に加盟していない企業であればこの限りではないのだが、学生が就職を希望する企業の多くは、経団連の「鉄の掟」に縛られている。学生はインターンシップやOB訪問を繰り返しながらも本当に内定がもらえるのか疑心暗鬼に陥る。企業の採用担当者も一体どれだけの学生が最終的に入社することになるのか見当をつけられない。

こうして「互いの意志を確認できないまま」不安な時間が流れていく。

不安と戦う学生たちはネットで情報を共有する。その結果、同じような髪型、同じようなリクルートスーツに身を包み、自ら個性を封印するようになるのは当然であろう。髪型や服装といった「見た目」だけではない。エントリーシートの書き方や面接での受け答えまで、企業の採用担当者に好まれるスタイルを共有し、それを演じることになる。確かに、そうした彼らの姿は異様に見えるかも知れない。

だが、学生たちにそのように「仕向けている」のは他ならぬ社会や企業ではないか。社会や企業が彼らの個性を「否定している」のだ。

金融商品販売の現場での「没個性化」

私が身を置く金融商品販売の最前線でも、まさに同じ現象が起きている。いま現場で進んでいるのは「属人的な販売手法からの脱却」なのだ。

すなわち、誰もが簡単に金融商品を販売できるスキームづくりが進められている。「スキルや能力のない行員でも売れるような仕組みをつくりたい」のが銀行の経営幹部の意向だ。

このパンフレットを使ってこの商品を売れ。対象となる顧客は○○だ。顧客データベースを○○で検索し、対象先をリストアップしろ。こういうセールストークで話せ……そんな細かい指示が与えられる。

いまや、私が積み上げてきた「営業スキル」は時代遅れとなりつつある。お客様のニーズは多様だ。まずは一人ひとりのお客様のニーズを理解する。そして、相場の動きに合わせて、それぞれのお客様が興味を抱きそうな情報を集める。運用会社や証券会社のレポート、日銀や省庁が発表するデータと付き合わせてみる。チャートでテクニカル分析をしてみる……そんな作業をしている時間がとても楽しいし、何よりもお客様に喜んで頂けることにやりがいを感じる。少なくとも、私はそんなやり方でトップセールスになることができたのだ。

もちろん、私のやり方で「誰もが同じ成果」を出せるとは限らない。銀行幹部から見れば、私のやり方は効率的ではないし、そもそも「マニュアル化」するのは難しいだろう。相場は生き物である。金融商品のセールスとは、結局のところその人の「個性」「センス」に左右される面が大きいのだ。

「どうせ買うなら、いつもお世話になってる貴方から買おうと思ってさ」そうお客様に言って頂けることが、私の一番の誇りである。

しかし、繰り返しになるがそんな非効率なセールスは時代遅れとなりつつある。「無能な人間でも金融商品を簡単に販売できる方法をレクチャーしろ」というのが銀行幹部の意向なのだ。

社内官僚が目論む「人間のロボット化」

金融商品の販売にもはや「個性」「センス」など求められていない。「属人的な要素」を排し、スキルや知識の乏しい人間でも成果をあげられるようにする。それは換言すれば生身の人間の個性を否定し、画一的なプログラムで教育する「ロボット化」である。「無能な社内官僚」ならではの稚拙な目論見ではあるが、こんなことを続けていけば我々の仕事は間違いなくAIに取って代わられるだろう。

冒頭の茂木氏の言葉を借りるまでもなく「この国は本当に終わっているんだなあ」と私もつぶやかざるを得ない。いや、つぶやくだけでは済まされない。声を大にして叫びたい。「このままじゃ本当にこの国は終わってしまう」と。(或る銀行員)

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