シンカー:日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。そして、物価が高騰していないのであれば日銀の収益や通貨の信認の問題はなく、2%の物価目標の達成まで日銀はどれだけ長くなるとも緩和政策を継続する意思をもっているとみられる。日銀が、2%の物価目標を取り下げ、緩和の「出口」に向かっていく可能性はほとんどないと考える。堅調なファンダメンタルズを背景にたんたんと利上げを進めるFEDとの対比が年後半にはマーケットも強く意識し始め、日米金利差からの円安の動きが再開するとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

6月15・16日の日銀金融政策決定会合では、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、目標からの短期的なオーバーシュートの許容とマネタリーベースの拡大方針を含む「長短金利操作付き、量的・質的金融緩和」を継続し、日銀当座預金残高の金利を-0.1%程度、長期金利を0.0%程度とする政策の現状維持を決定した。

実質GDP成長率は3年連続で潜在成長率を上回るペースを維持している。

日銀は2017年度のの実質GDP成長率を+1.6%と予想しており、+0.75%程度とみられる潜在成長率の倍の値である。

日銀は4月の展望レポートで、景況判断を「緩やかな回復基調を続けている」から「緩やかな拡大に転じつつある」へ上方修正した。

「拡大」は需要超過の領域に入りながら、景気が引き続き上向いていることを示す。

物価に対しては、「足もとの動きは鈍いが、今後景気の緩やかな拡大が続き、需給ギャップのプラス幅が一段と拡大してくれば、次第に明確な上昇に転じる」との予想が日銀政策委員のコンセンサスになってようだ。

しかし、「予想物価上昇率の形成は適合的であり、物価上昇率が高まっていくには暫く時間がかかる」とも判断されているようで、コア消費者物価の上昇率は年末までに+1%程度に戻るのが精一杯だろう。

政策委員の間では、「欧州の政治情勢、米国の経済政策運営、地政学的リスクなど、ダウンサイドリスクが大きい」とまだ判断されているようだ。

成長率と物価が、景況感の改善に迅速に反応するのか不確実性が残るため、実際に成長率と物価に上振れがみられるまで、「ダウンサイドリスク」に対する言及が残る可能性が高い。

日銀は、物価が目標から短期的にオーバーシュートすることを許容しており、リスクバランスの中立化も、フォワードルッキングよりも成長率と物価の上ぶれの事実確認を重要視して時間をかけて実施することになるだろう。

日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。

そして、物価が高騰していないのであれば日銀の収益や通貨の信認の問題はなく(逆に言えば、問題が発生すれば、強いインフレが発生する)、2%の物価目標の達成まで日銀はどれだけ長くなるとも緩和政策を継続する意思をもっているとみられる。

日銀が、2%の物価目標を取り下げ、緩和の「出口」に向かっていく可能性はほとんどないと考える。

堅調なファンダメンタルズを背景にたんたんと利上げを進めるFEDとの対比が年後半にはマーケットも強く意識し始め、日米金利差からの円安の動きが再開するとみられる。

グローバルな景気循環は好転しており、これから発現する景気対策の効果を含め内需の拡大の力が強くなる方向性はしっかりしており、様々な不透明要因がクリアになっていくに従い、企業の業況感は好転していく可能性が高い。

日銀が、堅調なファンダメンタルズを背景に、長期金利の誘導目標引き上げの必要条件は、リスクバランスの中立化に加え、コア消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が1%、ドル・円が120円を超えることであると考える。

これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは2018年前半と予想する。

長期金利の誘導目標が引き上げられても、ファンダメンタルズの回復と米国の長期金利の上昇によりフェアバリューはそれより引き上がっているはずであるから、政策の緩和効果は削がれないだろう。

2%の物価目標が達成され、日銀のバランスシートの拡大が止まり、マイナス金利政策が解除されるのは、2019年10月の消費税率引き上げの影響で遅れ、2021年になると予想している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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