金融機関から借り入れを行うようになると、必ず要求されるのが法人税の申告書。借り入れをしたいがためだけに、法人税申告書の作成を税理士に依頼してくる人もいるくらいです。実際、運転資金や設備投資のために行う借り入れは、会社の命運を分けることがあります。だから法人税の申告は、単なる税金計算の意味だけでなく、会社の実状報告という、非常に重要な意味のあるものだと位置づけることができます。
(本記事は、岩松正記氏の著『経営のやってはいけない!』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)
取引先は厳選せよ
その申告書の中で、あまり意識されていませんが、実はかなり重要な記載箇所があります。それは申告書に付けられている「内訳書」。特に、売掛金の内訳は重要です。ここには、決算時点での売掛金の残高明細が記載されます。つまりは、自社の取引先の一覧が掲載されるということ。この内訳書・申告書を見るであろう金融機関に対し、積極的にアピールする場なのです。
起業してすぐに順調に事業拡大できるところには、取引先に恵まれているケースが多く見受けられます。売掛金の明細とは将来の入金予定ですから、金融機関からすれば、これから融資しようとする会社がどのような会社と取引しているのか、そして資金回収が確実になされるのかどうかは大変関心の高いところ。だから、ここに優良会社や有名な会社の名前が記載されていると、会社の信用にもつながるわけです。
どこと取引しているかは、起業したての経営者はあまり気にしないかもしれませんが、実は非常に重要なことです。だからこそ、詐欺師は自分で銀行に入金する際に大企業の名義で入金し、通帳に有名企業の名前を残したりします。多くの会社がホームページに有名企業との取引実績をやたらと書き入れるのは、それを自社の信用に利用しようとする意味合いがあるのですね。
優良取引先や大会社との取引というのは、そう簡単にできるものではありません。先方の審議をくぐり抜け、様々な取引条件をクリアしてやっと取引できます。その困難さを多くの人は知っているからこそ、自分の取引先をホームページや自社の冊子に載せて世間での評価を高めようとするわけです。そのくらい、自社がどこと取引しているのかは重要。
取引先というのはこちらも向こうも選ばなければなりません。
倒産事例を見ると、入金予定が守られなくて資金に詰まるケースがほとんど。だからこそ、確実に販売代金を回収できるかどうかは、商売の維持存続に関わってくる重大な要因なのです。ここを甘く見てはいけません。起業直後、取引先が少ない時などは特に気をつけるべきです。
「噂」や「評判」に無頓着になるな
「取引するかしないかを決める大事な要素にどのようなものがあるでしょうか」と、複数の会社経営者に尋ねてみたことがあります。その際、「評判や噂を重視する」という回答が多くて驚いたものでした。なんだかんだ言っても評判は重視する、という訳で、ある社長などは「人から悪口を言われる経営者や会社というのは、結局、何かしら抱えているということ。だからいい噂を聞かないところとは取引しない」とまでおっしゃっていました。
会社は当然のこと、経営者個人の評判もそれに含まれます。中小企業に限らず、社長は会社の顔ですから、社長の一挙手一投足というのは、当然に会社の評価につながるのですね。社長が良くない噂を立てられるようだと、それはそのまま会社の評判に直結します。
噂には2種類あって、金銭に関するものと人格に関するものがあります。前者は「あの社長はケチだ」とか「お金に厳しい」といったもので、実は、これは一概に悪い噂とは言えません。お金にルーズな社長や会社よりは値引き要求が厳しくてもキチンと支払ってくれるところの方が取引相手としてはいいはずで、支払い期日の約束を守らないとか勝手に値引いてくるとかいった「お金に汚い」系の評判よりは遥かにマシです。逆に言えば、「お金に汚い」系の噂はかなり信憑性が高い。そういう噂のあるところとの取引は慎重にするか、できれば止めた方がいいでしょう。
人格に関する噂については、ねたみなどから来るものがほとんどです。これは噂を立てる人が本人と何らかのトラブルがあったか、または単なる又聞きか、いろいろなパターンがあります。こういう噂はドンドン広がるので厄介なのですが、ほとんどの場合は好き嫌いから発しているものが多く、自分の目で確かめてみると意外とそうでもなかった、なんてことがありますから、複数の意見を聴いてから判断しても遅くありません。
噂や評判でもっともやっかいなのが、「うさん臭い」といったような抽象的なものです。
たとえば、何をやって稼いでいるのかわからない、ビジネスの収益源がハッキリしないという会社があります。私もかつて不動産業で手広く稼いでいるという社長を紹介されたのですが、あまりにトントン拍子に話が進むので逆に引っかかり、取引を留保していたところその方が恐喝で逮捕され、実は危険な業界の方だった、なんてことがありました。
うさん臭いとか雰囲気とか、こういうものは数値化することはできませんので、「これだ!」とはっきり示すことはできません。それを見抜き、感じることができるためには、経験を積むことのほか、用心する以外ありません。日頃から注意深く他人を観察するクセをつけ、自分の感度を高めていくことが大事だと思うのですが、いかがでしょうか。
利益を強調しすぎる人には要注意
ビジネスモデルにおいて重要なのは「貢献」の姿勢。誰の何に貢献するのか、ということが商売成功においては重要です。しかし、ある相手から「あなたの利益になるから」と直接言われて勧誘を受けた場合、これはどう思いますか?
私がかつて証券営業をやっていた頃、株式の推奨銘柄や新規公開株、新発CB(転換社債)などの案内をすると、「そんなに儲かるなら、自分で買えばいいのに」と言われたものです。その時は「私だって買いたいのですが、自分名義だと買って半年売れないんです」と切り返したものです。当時はそういうルールでしたので、確実に儲かるのであれば、他人になど教えずに自分で買うのが一番いい。どうしてそれを他人に教えるのか。私の場合の答えは、証券会社の販売手数料を稼ぐためでした。
言葉は悪いですが、相手の利益になることを必要以上に、ことさら強調して近づいてくるというのは、正直、怪しい。「あなたのために」は、実はその人の利益になる場合が非常に多い。
たとえば、この商品を私から仕入れて売らないか? というような勧誘。これならストレートで納得できます。しかし、私の商売のノウハウをあなたに伝えたい、というモノはちょっと注意しましょう。その目的は一体何なのか。多くは見返りに手数料をもらいます、または私の教材を購入して欲しい、といった類のものです。
中には「私にもできたのだからあなたにもできる」と相手の心を刺激して勧誘してくるものもあります。ある外資系保険会社の責任者はそれを実践していました。毎月あまりに多額のご祝儀と餞別を交際費として計上するので、私が不思議に思ってその理由を尋ねたところ、「ご祝儀は自分が口説いて入社した社員への支度金で、餞別は辞めていく社員へ渡したもの」とのこと。そう、この方の仕事はかつての部下や金融機関に勤めている人を口説いて自社へ転職させるのがメインの仕事だったのですね。
彼はいみじくも「私は優秀な人間を何人スカウトするかで評価されている」と言いました。正しく、相手のプライドや虚栄心を突いて転職させ、それを自分の会社での実績にしていたのです。
このように、あなたを救いたいとか教えたいとか自分から言ってくるのには、大体裏があると思っていいでしょう。先に向こうから手を差し伸べてくるのには、必ず理由があるはず。特に独立するまでには、これを見極める力を備えておきたいものです。
岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。
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