シンカー:マーケットには、日銀に緩和の「出口」の方法論やシミュレーションを早急に要求する声があるようだ。しかし、物価が高騰していないのであれば日銀の収益や通貨の信認の問題はなく、2%の物価目標の達成まで日銀はどれだけ長くなるとも緩和政策を継続する意思をもっているとみられる。マーケットの不安は、次の金融引き締めの過程で、日銀が短期金利を引き上げた場合、日銀当座預金の付利と資産である長期国債の金利の逆ザヤが生まれ、赤字になる恐れがあるなど、日銀の財務に問題が発生することのようだ。もしマーケットの不安が本当に大きいのであれば、逆ザヤが障害となり、日銀の金融引き締めは遅れる、または日銀の財務の問題が通貨の信認を損なうことになるわけだから、期待インフレ率が上昇していくはずである。期待インフレ率が上昇していないのであれば、「出口」の方法論やシミュレーションが早急に必要であるというマーケットの論調は、日銀に対して説得力をもたないだろう。日銀が、2%の物価目標を取り下げ、緩和の「出口」に向かっていく可能性はほとんどなし、そのような憶測を生むような「出口論」を提示することもないと考える。
6月15・16日の日銀金融政策決定会合では、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、目標からの短期的なオーバーシュートの許容とマネタリーベースの拡大方針を含む「長短金利操作付き、量的・質的金融緩和」を継続し、日銀当座預金残高の金利を-0.1%程度、長期金利を0.0%程度とする政策の現状維持を決定した。
日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。
堅調なファンダメンタルズを背景にたんたんと利上げを進めるFEDとの対比が年後半にはマーケットも強く意識し始め、日米金利差からの円安の動きが再開するとみられる。
マーケットには、日銀に緩和の「出口」の方法論やシミュレーションを早急に要求する声があるようだ。
しかし、物価が高騰していないのであれば日銀の収益や通貨の信認の問題はなく、2%の物価目標の達成まで日銀はどれだけ長くなるとも緩和政策を継続する意思をもっているとみられる。
6月16日の黒田日銀総裁の定例記者会見では、「中央銀行は継続的に通貨発行益が発生する立場にあり、長い目で見れば必ず収益を確保できる仕組みになっている。短期的な収益の下振れで、中銀や通貨の信認が毀損されることはない。」と指摘した。
マーケットの不安は、次の金融引き締めの過程で、日銀が短期金利を引き上げた場合、日銀当座預金の付利と資産である長期国債の金利の逆ザヤが生まれ、赤字になる恐れがあるなど、日銀の財務に問題が発生することのようだ。
もしマーケットの不安が本当に大きいのであれば、逆ザヤが障害となり、日銀の金融引き締めは遅れる、または日銀の財務の問題が通貨の信認を損なうことになるわけだから、期待インフレ率が上昇していくはずである。
しかし、期待インフレ率は上昇しておらず、実際のインフレ率は期待インフレ率に遅行するはずであるから、日銀としても期待インフレ率の上昇が強くなってから、「出口論」を提示する余裕がある。
6月15・16日の決定会合のにおける主な意見では、「消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇していくとみられるものの、顕著な変化は未だみられない。予想物価上昇率の期待形成は適合的であり、物価上昇率が高まっていくには暫く時間がかかるとみられる。」との政策委員からの指摘がみられる。
日銀は、2%の物価が目標から短期的にオーバーシュートすることを許容しており、フォワードルッキングよりも成長率と物価の上振れの事実確認を重要視して時間をかけて金融引き締めを実施する方針であるから、更に余裕がある。
実際のところ、日銀の金融引き締めの遅れや日銀の財務の問題へのある程度の不安感からでも期待インフレ率が上昇するのであれば、日銀は2%の物価目標達成のためにそれを是認する、またはそのシナリオの一部かもしれない。
黒田日銀総裁は、「物価安定目標を立て、それが維持されるように金融政策を運営しているので、ハイパーインフレの懸念はない。日銀の財務状況が金融政策を制約したり、通貨の信認を毀損したりすることにはならない。」と述べ、余裕を持って対処できることを示している。
期待インフレ率が上昇していないのであれば、「出口」の方法論やシミュレーションが早急に必要であるというマーケットの論調は、日銀に対して説得力をもたないだろう。
6月16日の黒田日銀総裁の定例記者会見では、「2%の物価安定目標の達成は道半ばの状況だ。具体的な出口戦略や日銀の収益は、将来の経済・物価・金利などに加えて、日銀がどういう手段をどういう順番でとるかによっても変わってくる。現時点で具体的なシミュレーションを示すのは、かえって混乱を招くおそれがあるので難しいし、適当でない。」と述べている。
日銀が、2%の物価目標を取り下げ、緩和の「出口」に向かっていく可能性はほとんどなし、そのような憶測を生むような「出口論」を提示することもないと考える。
黒田日銀総裁は、「緩和が続く期間の問題よりも、デフレに戻る懸念を避けて、物価安定を達成し維持する方がはるかに重要だ。」と、デフレ完全脱却への強いコミットメントを改めて示している。
6月15・16日の決定会合のにおける主な意見での、「物価の伸びが鈍い背景には、人々の将来不安や適合的期待形成などやや構造的な要因もある。ごく短期間で「物価安定の目標」を達成することは容易でなく、緩和的な金融環境を維持し、可能な限り長く景気の拡大を持続させることが重要である。」との指摘は、デフレ完全脱却に向けた緩和政策の維持に関する政策委員間のコンセンサスであるとみられる。
そして、「出口への関心が高まっている背景には、日本銀行の資産規模拡大もあるが、景気が改善していることが大きく影響している。今後、景気改善が続くもとで、市場の不安を高めることがないよう、金融政策運営の考え方について、しっかりと説明していく必要がある。」との指摘にある「金融政策運営の考え方」は、デフレ完全脱却に向けた緩和政策の維持の必要性と、「出口」の方法論やシミュレーションは物価目標達成がまだ見通せない現時点では不要であるということであろう。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司
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