ようやく築地市場の豊洲移転が玉虫色の決着を見た。6月20日に小池百合子東京都知事が記者会見をし、築地市場の豊洲への移転と、移転後の築地の再開発を発表した。
外から眺めると、はっきりとした決着でなく、築地、豊洲両方に向いた決着となった。しかし、この問題の本質である、豊洲の土地の地下汚染問題は、完全な決着はついていない。むしろ、今後の汚染対策をどう進めていくか、まだまだ解決すべき問題は多い。
豊洲の土地のケースでは、元の所有者が東京ガスで、ガスを精製する工場が立っていた。その過程で出てくるのがベンゼンやシアン化合物といった、食べ物を扱う市場にはそぐわない化学物質により土壌汚染されていることが問題視されている。
このケースは、食の安心安全といった我々消費者に直接影響のあることなので、マスコミにも頻繁に取り上げられたが、身近な土地取引においても土壌汚染が絡んだ土地の売買が頻繁に行われている。以下、一般のエンドユーザーの目線から、土地取引で注意すべき土壌汚染のポイントをまとめてみた。
土壌汚染の可能性のある土地
一般に土地汚染の可能性のある土地としては、(1)金属加工、メッキ工場の工場跡地(カドミウム、六価クロム、鉛、シアンなど)、(2)ガソリンスタンド跡地(油類、鉛)、(3)クリーニング工場跡地(テトラクロロエチレン)、などが代表的なものである。
元「金属加工、メッキ工場」「ガソリンスタンド」「クリーニング工場」は、土地取引をする際には注意した方がいい土地だと言える。
土壌汚染に関連する法律
土壌汚染に関する法律は、環境省所管の土壌汚染対策法(2003年施行)である。
その内容は、(1)調査義務、(2)調査方法、(3)汚染発覚時の対処方法、(4)台帳作成、(5)対象となる特定有害物質の定義 (6)調査機関、処理業者について、が定められている。その後2010年に改正され現在に至り、この法律では、調査、措置の流れが決められている。
その1:第一段階として、土地の調査義務が3つの場合において決められている。
(1)特定有害物質の製造、使用又は処理をする特定施設(工場・事業所)がその施設使用を廃止した場合 《法3条》
(2)一定規模(3,000㎡)以上の土地の形質変更届出の際、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事が認めた場合《法4条》
(3)都道府県知事が土壌汚染により人の健康被害が生じるおそれがあると認めた場合《法5条》
これら3つの条件に合致した場合、土地の所有者または管理者は、土壌汚染の有無を調査しなければならない。実務では、どのような調査が行われているのだろうか。
具体的には「土壌汚染対策法の台帳に記載されていないか」「水質汚濁防止法に抵触する案件でないか」「下水道法関連を市町村で確認」「各自治体の条例、要綱指導を確認」などが行われている。
また、登記簿を確認することも重要だ。例えば過去の土地所有者、建物の履歴などから土壌汚染物質を扱う業者が所有していたかどうかを類推することが出来る。
さらに、地積図、住宅地図、過去の航空写真を参照することで、土地の履歴を調査することも可能だ。
その結果、汚染なしと判断された場合は、何もする必要がないが、もし汚染が認められた場合、次のステップに進む。
その2:調査によって汚染状態が指定された基準を超えた場合、その区域は都道府県知事によって「要措置区域」と「形質変更時要届出区域」分けられ、それぞれ台帳に調製される。
要措置区域に指定された場合、都道府県知事は汚染除去等の措置を指示し、その土地の形質変更を原則禁止する。また形質変更時届出区域に指定された場合、実際の土地形質変更時に都道府県知事への届出が必要となる。
法律以外の自主的調査
また、これら法律で定められて調査以外にも、「マンション開発業者、それにかかわる売買の関係者による調査」「融資や不動産鑑定時に行われる調査」「ISO14000による調査」「工事業者による建設発生土調査」「不動産M&AやREIT設定時のデューデリジェンス時の調査」などが実務上は行われる。
土壌汚染の影響
このように、高度成長期の副作用として、土壌汚染がクローズアップされ、ごく普通の土地取引にもリスクとして考えなければならない時代が来ている。
近年、東京では湾岸地域の工場跡地にマンションを建設するケースが多くみられる。都心部で一度に大規模な土地を取得するには、工場跡地は好都合だ。
しかしその一方で、土壌汚染問題も土地取引の大きな壁となるケースも散見される。不動産取引の現場では、汚染物質の除去は、売主側の責任であるとの認識が定着している。
また、マンション建設に絡み、地下水汚染の影響で建設工事が70%まで進んでいた建物を取り壊す例や、メッキ工場跡地での六価クロムが検出されたため、開発が凍結される例があった。
2001年と02年、(社)日本不動産協会は、土壌汚染に対する指針を出し、特にマンション売買における土壌汚染の調査並びに浄化処理は原則として売主が行うものとした。つまり売主は、善意、無過失であっても買主に土壌汚染のために損害が生じた場合、民法570条の瑕疵担保責任を負うことを明確にした。
土壌汚染は、調査費、対策費、処理費など直接的な影響だけでなく、風評被害など目に見えない問題も孕んでいる。また、土壌汚染された土地の未利用などいわゆるブラウンフィールドの問題など、個人や企業で解決できるレベルを超えている論点も存在する。国や地方自治体などと協同でこの問題にあたっていくことが必要なのは言うまでもない。
マネーデザイン代表取締役社長 中村伸一
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。
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