6月の米雇用統計が間もなく発表される。
5月までの流れを振り返ると「増加はしているもののその勢いは鈍化する傾向」にあり、今後も「増勢の鈍化」が継続するのか見定める必要がある。他方、FRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシート縮小を見据えて、金融政策との関連性が強い「イエレン・ダッシュボード」も気になるところだ。

今回はイエレン・ダッシュボードを中心に、6月の雇用統計のポイントを整理してみよう。

雇用者数の増勢は年々鈍化している

米雇用統計,予測
(写真=Thinkstock/Getty Images)

まずは大きな流れとして雇用者の「増勢が鈍化」していることを確認しておきたい。雇用者数の増加を月平均で見ると2014年が25万人、2015年は22万6000人、2016年は18万7000人と増勢を鈍化させているのが分かる。さらに2017年1〜5月期の月平均は16万2000人にまで鈍化しているのが実情だ。

筆者は、2017年の後半も「増勢の鈍化」を継続すると考えており、最終的には今年の月平均で「15万人弱」までの低下を見込んでいる。年初の18万人程度から年末には10万人程度までの鈍化を想定しており、年央の6月は「通年の平均」と見込まれる15万人前後が目安になる計算だ。

「イエレン・ダッシュボード」をチェックしてみよう

ところで、イエレンFRB議長が利上げを実施するにあたり重視するとされているのが「イエレン・ダッシュボード」である。

注目されるのは、この「イエレン・ダッシュボード」の雇用関連指標9項目のうち、5つが雇用統計に含まれることだ。以下、順に確認してみよう。

(1) 非農業部門雇用者数
5月までの3カ月平均は12万1000人増加と2012年7月以来の低い伸びとなり、長期的な増勢鈍化のトレンドを継続している。ただし、イエレン議長は10万人前後の雇用の伸びが確保できれば利上げには支障がないとの見方を示しているので、現在の水準でも利上げは支持されるだろう。

(2) 失業率
5月の失業率は4.3%。FRBは完全雇用が達成される失業率の水準を4.6%と見積もっており、利上げには問題のない水準にある。

(3) 広義の失業率
5月の広義失業率は8.4%。最近は失業率と歩調を合わせて順調に低下しており、水準もおおむね金融危機以前の水準まで下げている。

(4) 労働参加率
5月の労働参加率は62.7%で2カ月連続で低下。金融危機以前から超長期的なトレンドで低下していたが、2015年9月の62.4%を底に下げ止まっている。とはいえ、回復は63.0%で頭打ちとなり、この1年は一進一退の動きとなっている。

高齢化の影響で労働参加率が持続的に上昇するとは考えづらく、水準よりも内容が問題となる。労働参加率は、リタイアした人が増えると低下するが、職探しをあきらめた人が増えても低下する。イエレン議長の問題意識は、労働参加率の低下が「職探しをあきらめた人の増加によるものかどうか」である。この点では広義失業率が低下していることから問題はなさそうだ。

ただし、5月の雇用統計では25〜54歳の労働参加率が81.7%と前月から0.1%ポイント低下した。一方、65歳以上をみると24.8%で前月比0.1%ポイント低下したものの、前年同月比では0.6%ポイント上昇しており、基調的には上昇している。

65歳以上の就業者数は過去1年で44万9000人増加しているが、これは全体の186万5000人の24.1%を占めており、4人に1人は65歳以上だった計算となる。

(5) 長期失業率比率
5月の長期失業比率は24.0%と4月の22.6%から1.4%ポイント上昇した。長期的には低下傾向にあることから、問題視するのは時期尚早だが、6月も上昇するようだと警戒感が強まることになるだろう。

求人数増加、採用数減少のミスマッチ

イエレン・ダッシュボードの残り4項目は雇用動態調査(JOLTS)で公表されている。4月のJOLTSによると、非農業部門の求人率が過去最高となり、労働市場がひっ迫していることを裏付けた。ただし、採用率と自発的離職率が前月から低下しており、労働力のミスマッチが懸念されている。

自発的離職率は労働市場に対する信頼感のバロメータとされており、FRBがJOLTSで最も注目している指標である。景気の拡大期には自発的離職率も上昇する傾向にあり、低下は労働市場の先行きに対する「自信のなさ」となる。

また、先に述べた通り、求人率の上昇と採用率の低下は労働市場のミスマッチを示している。求人が増えているのに採用が減っているということは、雇用主が必要な技能を持つ人材を確保できていないということだ。

ただし、求人内容をみると増えているのは特別な技能を必要としていない職種である。ホテルや飲食店などのサービス業での求人が伸びているが、製造業は減っている。供給側の技能、すなわち「質」が問題なのではなく、単純に「量」が不足している可能性がある。

いずれにしても、雇用の改善がミスマッチにより制約を受けているのであれば、金融政策で対応することは難しい。短時間での解決は困難であり、労働市場の改善が早晩頭打ちになる恐れがある。

「非経済的理由」のパートが増加、副業は減少

最近の雇用統計では、経済的理由によるパートが減少している中、「非経済的理由が増加」している点が興味深い。経済的理由とはフルタイムを探しているが「パートしか見つからないからパートをしている人」、非経済的理由は「最初からパートを希望している人」である。

5月は経済的理由が前月比で5万3000人減少、前年同月比では120万人も減少しているが、非経済的理由は5月だけで同32万人増加し、前年同月比でも48万5000人増えている。

65歳以上の就業者数が増え続けていることを踏まえると、高齢者がフルタイムからパートタイムに切り替えている可能性がありそうだ。

働き盛りの雇用が伸び悩む一方で、高齢者が増加、しかも自主的なパートが増えているのであれば、平均時給の伸びが低いのも理解できよう。

また、複数の仕事を掛け持ちする人の数の動きにも注目したい。

複数の仕事を掛け持ちする人の数は5月に前月比9万4000人減少したが、4月にも27万7000人減少しており、2カ月合計で37万1000人も減っている。逆に、1月から2月にかけては26万人増加している。

雇用統計での雇用者数は「給与明細の発行」に基づくことから、同じ人が2つの雇用主から別々に給与を受け取ると「統計上の雇用者数」は2人となる。

年初に好調だった雇用者数がここへきて減速しているのは、単に副業を辞めた影響が反映されているだけなのかも知れない。

事前予想に近い数字ならリスクオフの流れか?

ちなみに、間もなく発表される6月雇用統計の事前予想(4日現在)は17万7000人増と筆者が考える15万人程度よりも強い数字となっている。その一方で、インフレ懸念が後退していることから、市場は年内の追加利上げを完全には織り込んでいない。

もし、事前予想に近い数字となれば、マーケットも年内の追加利上げを視野に入れざるを得ず、「低インフレ低成長下での利上げ」が意識されることになりそうだ。この場合、株式市場はリスクオフの流れとなり、金利の上昇でドル円は円安に向かう可能性が高い。

このほか、賃金の伸びが加速した場合にはさらにインパクトの大きいサプライズとなってリスクオフを加速させる公算が大きい。また、失業率よりも労働参加率が注目されやすい点にも留意したい。労働参加率の低下が続いた場合には「雇用のミスマッチ」への懸念を強める恐れがあるからだ。こちらは構造的な問題となることから時間をかけてリスクオフに向かう可能性がある。

そもそも、米株式については成長見通しが鈍化していることあり、ウォール街の市場関係者からは「ここからリスクオンの流れにはなりにくい」との声が多く聞かれる。利上げにもびくともしないと思えるほどの強い数字が並べば話は別だが、現状ではそんな驚きのシナリオは描きにくい状況といえる。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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