シンカー:これまでは海外や政府の景気対策に支えれた景気回復であったが、今後は企業活動の拡大による設備投資と、雇用・賃金の回復による消費が中心となる自立的な形に進化していくだろう。賃金上昇を伴う内需の回復が、物価を押し上げる好循環までもう一歩のところまで来ているようだ。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

失業率は3%前後まで低下し、新規求人倍率はバブル期越え、正社員の有効求人倍率も1倍前後まで上昇してきた。

企業の売上高経常利益率は、製造業ばかりではなく、生産性と収益率が弱いと言われ続けた非製造業でも過去最高の水準まで上昇してきた。

アベノミクスは円安だけだとか、構造改革(企業が活動しやすいような環境を整えるのが目的)が遅れているという典型的な論調が否定され、日本経済に大きな変化が起きている証拠となっている。

今後は、企業の強い雇用不足感が賃金の上昇や省力化・効率化・システムへの投資に一気につながるようになるとみられる。

2017年度の企業の設備投資計画はさまざまな調査で強いことが確認され、資本財の出荷・生産計画も強くなってきた。

政府の働き方改革の推進もあり、企業は賃金の引き上げや待遇の改善に取り組み、既に職を持っている労働者のよりよい条件の職を求める動きも活発になるだろう。

その結果、転職の期間の摩擦的な失業などにより、失業率が2.5%に低下するにはまだ時間がかかるかもしれない。

しかし、失業率が異次元の2%台に定着していく中で、賃金上昇がパートから正社員に明確に波及し、企業の人材争奪戦も大きくなり、賃金上昇が加速する局面に入り、消費者の生活防衛意識が緩み、デフレマインドからインフレマインドに変化していくだろう。

金融環境は十分に緩和的であり、信用サイクルは上向き続けており、消費者心理の改善を追い風にして、サービス業で新たな需要を創出する前向きな動きも見え始めている。

コスト削減だけによる利益率の改善は限界にきており、企業が売上高の増加を目指す局面に入ってきているようだ。

2017年にはデフレマインドからインフレマインドへの変化の初動がみられ、動きが強くなるのは2018年になるだろう。

それまで日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中でも、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意を持っているとみられる。

日銀の大規模金融緩和の将来的な「出口」における混乱に対するマーケットの不安が本当に大きいのであれば、日銀の逆ザヤが障害となり金融引き締めは遅れる、または日銀の財務の問題が通貨の信認を損ない円安になることが懸念されるわけだから、長期の期待インフレ率は上昇していくはずである。

しかし、長期の期待インフレ率は上昇しておらず、「出口」の方法論やシミュレーションが早急に必要であるというマーケットの論調は、日銀に対して説得力をもたず、2%の物価目標の達成までどれだけ長くなるとも緩和政策を継続する日銀の意思は揺るがないだろう。

政府も、財政を拡大してでも、2019年10月の次の消費税率引き上げまでにデフレ完全脱却を成し遂げる決意を持っているとみられる。

しかし、2020年度のプライマリーバランスの黒字化への拘りが余りに強く、財政政策による本格的なデフレ完全脱却の試みはマーケットに信用されておらず、それが期待インフレ率の上昇を妨げているようだ。

2018年度の政府予算編成に向けた骨太の方針では、2020年度のプライマリーバランスの黒字化の方針(財政再建の手段)は維持されたが、債務の名目GDP比率の安定的に引き下げること(財政再建の目標)も強調された。

財政再建よりもデフレ完全脱却を重視する姿勢がより明らかになり、財政再建の手段が目標より重視されるこれまでの異常な状況は修正されたようだ。

グローバルな景気動向は堅調で、政策も景気刺激的であることの安心感が、生産がしっかりとした増加を続けることができる中で、まだ短観などで残っていることが確認されている企業の先行きへの警戒感を和らげていき、生産計画は上振れしていくだろう。

生産動向では、4月の新年度入り後、新製品の投入などで攻勢をかけようとしていることがうかがえる。

日米の金融政策の方向感の違い、そしてそれがもたらす日米金利差の拡大による円安の動きも再開し、その攻勢は十分に報われる結果となるだろう。

これまでは海外や政府の景気対策に支えれた景気回復であったが、今後は企業活動の拡大による設備投資と、雇用・賃金の回復による消費が中心となる自立的な形に進化していくだろう。

賃金上昇を伴う内需の回復が、物価を押し上げる好循環までもう一歩のところまで来ているようだ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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