ミサイル発射など高まる北朝鮮の脅威に対する日本のマスコミ報道と、韓国人の温度差は大きい。

韓国内で異常事態が発生すると、日本大使館は登録者の携帯電話にメッセージを発信し、緊急性が小さい事案はメールで注意喚起を行なう。韓国の政府機関がJアラートに相当する緊急情報を発信することもある。

2010年11月23日に仁川の延坪島で砲撃事件が発生したとき、在韓日本大使館は在留邦人に文字メッセージで注意を呼びかけている。しかし、2017年4月から発生しているミサイル発射や核実験で、日本大使館は日本政府の発表などをメールで配信して注意を呼びかけているが、緊急アラートはなく、韓国政府機関も特段のアラートは発信していない。

2017年8月23日、韓国全土で北朝鮮の攻撃を想定した民間防空退避訓練が行われた。民防衛特別訓練(民防・民防衛)と呼ばれ、ほぼ毎月実施されている。サイレントと同時に待避所に避難し、自動車は停止しなければならないが、訓練に参加する国民は極めて少ない。

訓練中に統制官の制止を振り切ってバスに乗車する人や信号を無視して自動車を走行させる人、仕事にならないと統制官に詰め寄るタクシー運転手もいたという。緊急車両を優先させる訓練でサイレンを鳴らして走行する消防自動車などの前に割り込む自動車すらあり、安全不感症が広がっていると中央日報は指摘する。

安易な退避を危惧する日系企業

韓国経済,危機管理,北朝鮮情勢
韓国・ソウル(写真=Stephane Roth/Shutterstock.com)

一連のミサイル発射などに伴い、退避訓練を兼ねて駐在員や家族を一時帰国させた日系企業はあるものの、大半が外務省の安全情報を退避目的の帰国の基準としている。

駐在員の退避を目的とする帰国は、現地のオペレーションやスタッフのモチベーションに悪影響を与えかねない。在韓日系企業の駐在員は責任ある役割を担う人が多く、駐在員が一時帰国すると責任者がいない状況となってしまう。何事もなく戻ったあとも真っ先に逃げ出したというイメージから、現地スタッフらが制御不能になりかねないと危惧する日本人は多い。

在韓日本人の安全対策

日系企業の安全対策に「オープンチケット」がある。韓国で在留届けを提出している日本人は2016年10月1日時点で3万8045人、在留届を提出していない短期滞在者や出張者、旅行者などを合わせると常時5万人から6万人の日本人が韓国に滞在している。

海外安全情報の危険レベルが1以上になると多くの人が空港に殺到すると予想されるが、ビジネスクラスの航空券を持っている人が優先されるため、1年間のオープンチケットを常備している企業は少なくない。

居住地の見直しを検討している企業もある。北朝鮮との国境に近い仁川空港やソウル最寄りの金浦空港が使用不能になると、陸路で南方に移動することになる。ソウルは漢江で江北と江南に分かれており、川幅が1キロを超える漢江を渡ることができなくなるリスクを回避するため、駐在員らの日本人が多く居住する江北地域から江南に住居を移す人が現れはじめている。

鉄道や自動車が使用不能になることに備え自転車を購入した人もいる。ソウルから釜山まで400kmを自力で走行するのだという。

2014年頃まで、在韓日本大使館はいざという時、すべての日本人を退避させるとしていたが、5万人を超える日本人を短期間で退避させる手段はない。自力で待避所などに逃れ、大使館の支援を待つことを推奨している。

在韓日本人は、在韓米軍と韓国軍人の行動にも注目している。韓国に在留しているアメリカ人は20万人ほどで、およそ半数が在韓米軍の関係者といわれている。有事の際に在韓米軍は軍の施設に移動し、家族や関係者も早々に安全な地域に退避する可能性がささやかれている。平時にも軍服着用が義務付けられている韓国軍人も召集される。

市中の繁華街に多くのアメリカ人が集まり、地下鉄車内で軍服を多く目にする現状で、在韓日本人の多くが軍事的な脅威はないと考える。退避ルートを確保する一方で日本のマスコミ報道を過剰と感じる人は多い。(佐々木和義、韓国在住CFP)

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