19〜20日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催される。
市場関係者の間では、バランスシートの縮小開始が予想される一方で、政策金利の据え置きが見込まれているが、景気や株価、為替へはどのような影響を及ぼすのであろうか。FOMCのポイントを整理しつつ考察したい。
ハリケーンの影響が「サプライズ要因」に?
先に述べた通り、今回のFOMCではバランスシート(BS)の縮小開始が見込まれている。実際、FRB(米連邦準備制度理事会)はBSの縮小を金融政策「正常化プロセス」の一貫と位置付けている。
まず、サプライズ要因として予想に反し、BS縮小開始が「見送られる」可能性はないのだろうか。気掛かりなのは「ハリケーンの影響」である。
8月下旬と9月上旬にハリケーン「ハービー」と「イルマ」がテキサス州とフロリダ州をそれぞれ直撃しており、その影響で経済指標が下振れることは間違いない。
ちなみに、8月の小売売上高は前月比0.2%減少と予想外のマイナスとなった。ハリケーンの影響を見込んで0.2%増と小幅な増加が予想されていたのであるが、その低めの予想すらも下回る結果となったのだ。
さらに、ウォール街の市場関係者を心配させたのが、7月の数字が0.6%増から0.3%増へと大きく下方修正されたことだ。言うまでもなく、7月の売上高にハリケーンは影響していないにもかかわらず、結局のところ7〜8月の2カ月での売上高の伸びはほとんどゼロだった計算になる。9月はハリケーンの影響が残ることから、7~9月期の個人消費は想定外の減速となることも危惧されている。
低調な個人消費を受けて、7~9期のGDP成長率の予想が下方修正されているのも留意すべき点だ。GDPナウが3.0%から2.2%へ引き下げられたほか、金融機関の予想引き下げも見られる。
こした状況から、FRBが「ハリケーンの悪影響が実際にどの程度あったのかを確認する必要がある」と判断した場合には、BS縮小開始が見送られることもありうるだろう。
フィッシャー副議長の「置き土産?」
とはいえ、ハリケーンの被害が一時的要因であることは明らかだ。また、これまで唯一の見送り要因とされてきた、債務上限問題も先送りされている。ハリケーン被害救済に絡んで、9月末とされた債務上限の引き上げ期限は少なくとも12月上旬まで延期されており、同様に10月1日から政府が閉鎖されるリスクもなくなった。
さらに、フィッシャーFRB副議長の辞任も縮小開始観測を強めている。フィッシャー副議長は9月6日、突然の辞任を表明したが、これは9月FOMCでの正常化プロセス開始に目途が立ったからであり、「暗黙の了解が成立している」ことを匂わせている。
BS縮小開始は金融政策の「正常化プロセス」の最後の仕上げとも位置付けられており、推進役を務めてきた同副議長の置き土産となりそうだ。
今回の利上げ確率はゼロ
今回のFOMCで政策金利の変更は見込まれていない。15日現在のフェドウォッチでは金利据え置きが99%、利下げが1%となっており、極めて高い確率で据え置きが見込まれている。
また、12月の利上げ確率は58%と利上げ目処とされる70%に届いておらず、来年3月でも68%と微妙な水準だ。
年内の追加利上げが難しくなる中で、今後の物価動向次第ではあるが、来年以降を見据えても利上げは遠くにかすんでいると言えそうだ。
果たして「ゴールは動く」のか?
BS縮小の発表と金利据え置きを「織り込み済み」と考えた場合、今回のFOMCで最大にしておそらく唯一の注目点となりそうなのがドット・チャートである。
最新のドット・チャートは6月FOMCのものとなるが、利上げは年内にあと一回(2017年通年では3回目)、2018年に3回、2019年に3回から4回が想定されており、最終的には3.00%になる見通しだ。
ところで、長期的なターゲット金利、すなわち「最終的に何%まで金利を引き上げるのか」であるが、その目標値は自然利子率とインフレ目標の合計値となる。自然利子率とは景気に中立的な実質金利のことで、実際に観測することはできず、推計値が用いられる。
現在、長期的な目標金利は3.00%であるが、2015年6月まで3.75%だった。その後、断続的に切り下げられ、2016年9月には一時2.88%に低下している。
FRBのインフレ目標は2.0%で変化していないことから、長期目標の変化は自然利子率の推計値が変化していることを示唆している。かつては1.75%と推計されていた自然利子率が現在は1.00%に低下しているということだ。
一方、マーケットでは年内の追加利上げを織り込んでおらず、2018年と2019年についても1回ずつしか織り込まれていない。したがって、マーケットでは自然利子率がゼロ近辺もしくはマイナスと推計されているようだ。
ここ数年、FRBが長期的な目標金利を引き下げている事実を踏まえると、今後もマーケットにすり寄る形で自然利子率の推計値を引き下げる可能性は否めないだろう。
「インフレ目標」の変更はあるか?
また、可能性は低いが「インフレ目標」の変更にも注意したい。
そもそもインフレ目標は高インフレ時代に物価を下げることを目的として採用されてきた経緯がある。遅れて採用したFRBも慣行に従う形で2.0%に設定したが、インフレ目標を採用した2012年以降、米国でのインフレ率のトレンドはほとんどの期間で2.0%を下回っているのが実情だ。
2.0%のインフレ目標は上限ではないことも踏まえると、2.0%という数値目標が適切なのかどうかには議論の余地がありそうだ。
いずれにしても、長期の金利目標が引き下げられた場合には、株価にはプラス、為替にはドル安の材料となることが見込まれる。
BS縮小、景気への影響は軽微か?
最後に、BS縮小が景気や株価、為替に与える影響を考えてみたい。
この問題を考える出発点として、まず量的緩和(BS拡大)の影響を確認すると、実体経済にほとんど影響しない、すなわち成長を押し上げる効果は限定的とみられている。いわゆる「プラシーボ(偽薬)」との見方も否めないことから、潜在成長率の水準そのものに直接的な影響を与えるとは考えづらいということだ。
その一方で、資産価格の上昇や通貨安を招く傾向があるとも考えられている。量的緩和が株価や不動産価格を押し上げ、ドル安を招いたことは周知の事実と言える。したがって、BSの「縮小」は資産価格の上昇を抑制し、ドル高を招く恐れがあるとの見方に異論は少ないだろう。
ただ、株価に関しては米企業業績は引き続き総じて堅調が見込まれていること、ドルに関しては欧州中央銀行のテーパリング(量的緩和の縮小)開始も見込まれることから、BS縮小開始が直ちに株価の下落やドル高を招くとも考えづらい。
欧州では9月24日にドイツで総選挙が実施される。ECBは選挙への影響を考慮して政策変更を遅らせてきたようであるが、選挙を無事通過すれば10月の理事会でテーパリングが決定されるとみられている。
一方、米国ではハリケーン被害の影響で保険や航空セクターなどを中心に7~9月期の企業業績が下方修正されており、短期的にはこちらの影響を受けやすいだろう。(NY在住ジャーナリスト、スーザン・グリーン)
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